阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2012年12月26日 [reuters]FBIが逮捕した「オリンパス不正人脈」の裏側

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(この記事は本日ロイターに配信したものです)

ロイターにコラムを寄稿することにしました。月刊誌「FACTA」の発行人が他の媒体のコラムを“兼業”することにどんな意味があるか、そう尋ねられる方がいらっしゃるかもしれません。FACTAは創刊以来、紙とネットの両刀づかいのメディアをめざしてきました。敵の多い調査報道は全方位で戦わなければならず、スクープ力や正確性、先見性だけでなく、その発信力も重要な武器となります。八面六臂の戦闘力をもっと強力にするためロイターと協力することにしました。ロンドン駐在時代もロイター通信社を取材したことがありますが、その歴史やロイターモニターの世界への普及など踏まえたうえで、手を組むに値する存在と考えました。メタ・フィクションがあるように、メタ・メディアがあってもいい。ロイターの取材陣の方々にも、FACTA流の潜航取材や追い詰め方、その駆け引きの一端なりを知っていただければ幸いです。

さて、初回は「何かFACTAらしいテーマで……」と考えていたら、海の向うからニュースが飛びこんできた。「米FBI、オリンパス損失隠しに関与の台湾出身銀行幹部を逮捕」がそれである。

この元銀行幹部チャン・ミン・フォン容疑者は日本語が堪能で、業績不振の上場企業を「ハコ」に使った日本の事件で何度も捜査線上に浮かんだが、香港やシンガポールなど海外を拠点にしているため、日本の捜査当局も身柄を押さえられなかった。ところが12月20日、ロサンジェルスに立ち寄ったところをFBIに逮捕されたのだ。

チャン容疑者は損失の穴埋め資金を経由させるファンドを管理していた人物であり、逮捕容疑は電子通信手段による詐欺の共同謀議。FACTAは一連のオリンパス報道のなかでその存在を報じてきたから、またひとつ新しい獄門首が調査報道の小塚原に並ぶことになるだろう。

FACTAの取材では、オリンパスの隠れ損失処理に加担したチャン容疑者運営のファンド(ネオ・ストラテジック・ベンチャー、ダイナミック・ドラゴンⅡ)の背後には、オリンパス第三者委員会の調査報告書にも名前が挙がらなかった日本人金融マンMがいるとの疑いがあった。Mはジェイ・ブリッジ(現アジア・アライアンス・ホールディングス)やトランスデジタル、小杉産業、タスコシステムなどで投資家を手玉に取った経歴がある。

第三者委員会の調査報告書によると、チャン容疑者が受け取った報酬は約13億7000万円に上るが、その一部がMに渡ることはなかったのか。ジェイ・キャピタル・マネジマントの投資家に訴えられて東京地裁に出廷したMは、周辺にこの2ファンドは「チャンのもので、自分は関係ない」と主張している。

しかし、彼らがこうした違法性の強い資金をやり取りする際にはその痕跡を残さないよう銀行口座を介さず、ボストンバッグに札束を詰め込んで自ら運び役を務めるというから、FBIが資金の流れをどこまで解明できるかは大きな注目点の一つになる。

日本の捜査当局は英米よりも捜査への着手が遅れながら、捜査の範囲を狭めて一番早く捜査を終結させてしまった。米国でチャン容疑者の裁判が始まれば、オリンパス事件は真相解明に向けてさらに深々とえぐられることになるだろうから、内心ひやひやしている関係者も多いことだろう。チャン容疑者の場合、有罪なら最長で懲役20年と長い。ファンドのオーナーのような新たな関与者の存在が司法取引で明らかになるかもしれない。

オリンパス元会長の菊川剛被告らの行いは犯罪ではあるが、膨らんだ損失によってオリンパスが経営破綻してしまうかもしれなかったという事情があり、気の毒に思わないでもない。しかしオリンパスから多額のカネをむしり取った連中は、その弱みに付け込んだのだから、彼らの後半生がどう変わろうが何ら痛痒を感じるものではない。こうした金融犯罪のプロたちは案件ごとに離合集散を繰り返すために尻尾をつかみにくいのだが、不甲斐ない日本の捜査当局になり替わってFBIの今後の捜査に期待したい。

それにしても、と思う。オリンパス事件は日本が抱える数多くの問題を根こそぎ浮き彫りにした。日本の表社会がチャン容疑者のような反市場勢力に浸食され始めていることや、企業統治が機能しにくい素地がありながら経団連の反対でこれが改まらないこと、株式持ち合いの弊害によって株主の権利が踏みにじられていることなど。

さらに最近になって分かったのは、会計士の腐敗である。オリンパスの不正会計に現役の公認会計士が悪知恵をつけており、この会計士はその後、オリンパスの面倒を見ていた監査法人傘下の経営コンサルティング会社に転職した。オリンパスの監査法人は今回の事件で散々な目にあったのだが、実はそのお膝元にお行儀の悪い会計士を抱えていたのである。

こうした話は他にもあるが、書き始めると切りがない。ネタは豊富だ。だからこそ調査報道は知的ゲームとしても面白くてやめられない。