阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2012年12月26日 [書評]「助太刀屋助六外伝」とオリンパス

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小生は歌舞伎が好きで「だれが贔屓ですか」と聞かれたら、こう答えます。

「恥ずかしながら市川亀治郎改メ四代目猿之助です」

忙しいので追っかけはできないが、舞台もテレビも一応渉猟して、見る機会がある限りは見るようにしている。で、襲名以来、はじめて猿之助がコメディーの舞台劇に出ると聞いて、ル・テアトル銀座の『助太刀屋助六外伝』に行ってみた。

今年亡くなった映画監督、岡本喜八が撮った『助太刀屋助六』の番外編という仕立てで、劇は劇でも時代劇を猿之助が演じるというのだ。これまでもシェイクスピアの『じゃじゃ馬馴らし』に出たり、NHKの大河ドラマに出たりと、いとこの市川中車(香川照之)に負けじと多彩な人だが、岡本喜八のあのハチャメチャ娯楽映画を下敷きに、どんな芝居を演ずるのかと興味津々だった。

ほかは元宝塚のスター、朝海ひかるとか、ロードバイク好きの鶴見辰吾とか、歌舞伎とはまるきり縁のない共演者ばかり。このミスマッチをどうするのかと思ったが、つくづく思ったのは猿之助は小柄なのに顔がデカイということだった。いまはテレビ時代で小顔俳優ばかりだが、舞台に立つとどんな美青年、美女も顔がチマチマしていると見栄えがしない。そこへいくと猿之助は身長に比して顔が大きいので、その表情がよく見える。やはり彼は舞台の人なのである。

筋立ては他愛ない仇討ちと、悪家老が暗躍する水戸黄門風の話なのだが、随所にギャグがあってなかなか楽しい。参考にと思って帰りにパンフを買おうとしたら、売り切れですという。観客でない猿之助ファンがやってきて買い占めるらしい。こうなると意地である。どうしても欲しいと言うと、公演1時間前に来れば、その日の分のパンフを売ってくれると聞いたので、別の日に出直してようやく買った。

当然ながら、演出家がパンフに書いた文章があった。本名不詳のG2という演出家である。11年の新橋演舞場「8月花形歌舞伎」で新作「東雲烏恋真似琴」(あけがらすこいのまねごと)を作・演出したことでちょっと名前を知っていた。いまどき、新作歌舞伎に挑戦するなど、野田秀樹や宮藤官九郎以外では稀有のことだと思ったからだ(ちなみにこの時の公演は見逃した。小生が見たのは、中村勘太郎、現勘九郎主演の怪談榎乳房で、中村橋之助主演の東雲烏は見逃している)。

パンフのG2の文章を読んで、おやおやと思った。彼はオリンパス社長を解任されたマイケル・ウッドフォードの言葉をタイトルにした山口義正君の本『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社、1470円)を読んだらしい。そこでこんな感想を書きつけるのだ。

怒れるマイケルさんは、あるライターにこう語っています。「日本人はなぜサムライと愚か者がこうも極端に分かれてしまうのか」。不思議な気持ちになりました。イギリスの経営者が「今の日本にもサムライはいる」と言ってくれている。それが少し嬉しい反面、もちろん悔しさも感じます。マイケルさんのほうがよっぽどサムライだったのですから。ところで……サムライってどういう人のことを指すのでしょうか? そこで今回は、現代の日本にも通じる「サムライ」の姿を思い描こうと思い立ちました。

なるほど、G2さん、エライ! 演出というまったく世界の違う人のほうが、この企業スキャンダルの本質をよく分かっていらっしゃる。現実のオリンパスは、家老や目付がきっちり悪になってくれる時代劇と違って、誰が善か悪かが混とんとしているミザリーな事件だった。それをこういう明解な勧善懲悪劇に仕立ててくれて拍手するしかない。

江戸時代の歌舞伎が当時の心中や赤穂浪士を芝居にしたジャーナリスティックな手法で人気を博したように、この『助太刀屋助六外伝』も実はオリンパス事件の歌舞伎化だったのですね。オリンパス報道本家の我々が拍手を送っているのですから、ぜひともどこかで再演をお願いしたい(ル・テアトル銀座の講演は12月24日が千秋楽)。

ともあれ、猿之助のアドリブ(小生が見たときは、お煎餅を相手役の石橋直也に食べさせて、せりふを口ごもらせ、吹きだした煎餅のかけらを「汚えなあ」と笑い飛ばすいたずらでした)ともども、切った張った笑ったの芝居を堪能させてくれました。オリンパスの方々も、出資したソニーの方々も、メーンバンクの三井住友も、いつまでも苦虫噛みつぶしてないで、自分たちの滑稽さを笑えるこの芝居を見たらいかがだろうか。