阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2012年10月18日 ヨルムンガンドとリヴァイアサン3 饒舌

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『ヨルムンガンド』の作者に敬服すること。それは、9・11にWTCが崩れ落ちて武器取引と大量破壊兵器開発の追跡行が吹っ飛んで以来、オレはいったい何をしてきたのだ、と自問するにひとしい。

11年も追跡をお留守にしていれば、コミックスの想像力に負けるのは是非もない。そのノウハウを、資本の悪追及とその破壊に浪費しちゃったのかもしれない。

一撃必中、弱点連打……経済スキャンダルの調査報道にそれが有効だったことは証明できたと思うが、本命の宿題がなおざりじゃ、しゃんめえ、ということになる。

そろそろ本道にもどりたいな、という気はするが、浪費したのは取材ノウハウだけじゃない。体力とそして年齢も、10年以上前とは違う。あれほど行きたかったアフガニスタンも、あの過酷な環境では、この夏取材に行った菅原出君のようにはとても耐えられないと思う。

『ヨルムンガンド』の私兵チームのように、辺境から辺境を渡り歩く体力もカネも今はない。口惜しいなあ、そんな思いがこれを書く機縁になった。

フフーフ。

だんだん、アニメに影響されて、女武器商人ココ・ヘクマティアルの口癖に感染しそうだ。

何が負けたって、ココの饒舌なせりふ(エンディングの布石なのだが)には頭が下がる。

たとえばMusica ex MachinaのPhase 5

Deus ex Machina(機械仕掛けの神)のもじりだが、そこでヨナを相手に聞かせるせりふがいい。寡黙なヨナはほとんど一方的なココのモノローグを聞くだけだ。

「フラフラと『矛盾』したことを喋ってもいいのは、数多の職業の中で武器商人だけ」

もちろん、これは「韓非子」の故事のことだ。

「楚の人に楯と矛とを鬻(ひさ)ぐ者あり。これを誉めて曰く。吾が楯の堅きこと、よく陥とすものなしと。またその矛を誉めて曰く、吾が矛の利きこと、物において陥とさざるなし、と」

「私の口から出る情報は正しいのか否か、君に必要か否か」

「選択しながら聞くことだ。続きだ、ヨナ」

「最も多く銃を持っている人間は?」

 ――軍人だ。

「残念ハズレ」

民間人だ

「なんと全世界の銃の60%を一般市民が握っている」

「10人に一人が武装している」

「37%が軍隊、残りが警察……」

「メディアが大騒ぎの反政府武装集団、彼らの銃なんか0.1%にもならない」

ぐやじいけど、これはほんとうだ。松本仁一の『カラシニコフ』を読んだのかな。この10年、火器について日本人ジャーナリストが追跡したのはこれっきりというのが寂しい。

オバマが口にする軍縮が欺瞞だなと思うのは、国内の銃規制を野放しにしておいて、他国に武器放棄を説くから。ココも兄のキャスパーも、その「矛盾」はよくお分かりだ。武器は人類の矛盾そのもの、けれども切るに切れない必要悪と言うほかない。

ここから話はリヴァイアサンに飛ぶ。旧約聖書の怪獣ではない。トマス・ホッブスの主著『リヴァイアサン』である。

人は人に狼(homo homini lupus)

あの自然状態(万人に対する万人の闘争 bellum omnium contra omnes)は、ホッブスが国家契約説の前提として立てた仮説だなんて、ありきたりのことを言いたいのではない。ホッブスにとってはそうだったかもしれないが、自然状態はいまここにあるもの、それが常態なのだ、とココは言っているんじゃないか。(続く)