阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2012年6月26日 [leaks]セラーテムは監査法人もインチキ

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ちょっと間があいたが、6月20日のブログの続きです。セラーテムの上場廃止を決定した大阪証券取引所が、「セラーテムテクノロジーの上場廃止理由について」なる補足資料を公表し、市場関係者の物笑いの種になっていることは既に触れました。今回は「上場廃止理由1」に挙げられた「監査法人の結論不表明」について検証します。

上場企業の決算書を監査する過程で、監査法人(会計監査人)が粉飾や虚偽記載の可能性を見つけ、それを打ち消す十分な証拠が提示されなかった場合、監査法人は「意見を表明しない」ケースがあります。要するに、「この決算書は信用できない」という意思表示です。監査法人の意見表明は、証券取引所が企業の上場を維持すべきか廃止すべきか判断する重要な基準の1つ。「意見不表明」でも即座に上場廃止とは限らないが、ほとんどの場合、監査法人から企業への死刑宣告に等しいのが現実と言える。

上場企業の不祥事が相次ぐ昨今、「意見の不表明」は珍しくない。ところが、セラーテムの会計監査人を務めるパシフィック監査法人が出したのは「結論の不表明」であり、これは初耳でした。一体何が違うのかと、セラーテムが6月15日に提出した四半期報告書に添付されている監査報告書を読んだら、思わず唖然とさせられた。問題の部分を下に引用します。

四半期連結財務諸表の作成責任を明確にするための経営者確認書の内容について、当監査法人は経営者に直接確認することができなかった。その結果、当監査法人は四半期連結財務諸表に対する結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった。

経営者確認書とは、監査法人が意見の表明にあたって経営者に提出を求める文書で、「財務諸表の作成責任が経営者にあること」「監査に必要なすべての資料を提供したこと」などを確認をするもの。経営者がサインを拒否したり、何らかの理由で期限までに提出しなければ、監査法人は意見を表明できない建前です。セラーテムの代表取締役の池田社長は、3月6日に逮捕されて以来ずっと拘置所に入っている。このため、パシフィック監査法人は経営者確認書の内容を池田社長に直接確認するすべがなく、「意見を表明しようがない」というロジックらしい。「意見」の不表明ではなく「結論」の不表明としたのは、その理由が財務諸表が適正かどうかの判断とは直接関係ないからでしょうか。

だが、これはどう見てもおかしい。なぜなら、セラーテム監査役会が5月10日付でパシフィック監査法人に提出した「経過報告書」には次のような記述があるからです。

取締役会の決議により代表取締役の権限代行を適法に行うなど、法的にも問題がない体制で当社が運営されており、法律の専門家である顧問弁護士にもこのことを確認している

要するに、セラーテムには取締役会の了承の下で池田社長を代行する“誰か”がおり、顧問弁護士からも合法との見解を得ているという。パシフィック監査法人が、その“誰か”に会えなかったとは考えられません。にもかかわらず、なぜ経営者確認書を取れなかったのか。“誰か”がサインを拒否したのか。それとも監査役会の説明は嘘っぱちで、“誰か”は存在しないのでしょうか。いずれにしても、パシフィック監査法人が何かを隠しているのは間違いない。

そもそも、セラーテムの四半期報告書は投資家をなめているとしか思えないデタラメな代物でした。同社は中国系ファンドへの第三者割当増資により調達した資金で、北京誠信能環科技を買収したように見せかけていた。が、実際は資金の移動を伴わない株式交換(つまり架空増資)だったことを結局は認めました。子会社になったはずの北京誠信が、裏ではセラーテムを支配する実質的な親会社だったわけです。

セラーテムは「過年度決算を訂正する」としていましたが、その結果出てきたのがどんな決算書だったか、以下は6月15日付のIR(投資家向け広報)からの引用です。

監査法人の意見では、(中略)会計処理に関しては、企業結合会計推定の逆取得に該当し、北京誠信を傘下に有するChina CEE(編集部注:北京誠信の経営権を持つペーパーカンパニー) を取得企業、当社を被取得企業として連結財務諸表を作成することとなりました。

驚いたことに、親会社(北京誠信)の業績を上場子会社(セラーテム)の連結決算に組み込んで決算書を作成し、何食わぬ顔で提出していたのだ。例えて言えば、ダイハツ工業(子会社)が連結決算にトヨタ自動車(親会社)の業績を組み込んで発表するようなものです。粉飾うんぬん以前の問題で、まともな神経とは思えない。

真っ当な監査法人なら、こんな決算書には「不適正意見」を出して当然です。にもかかわらず、パシフィック監査法人が「経営者確認書を経営者に直接確認できなかった」などと屁理屈を持ち出したのは、故意に意見表明を避けたとしか考えられない。財務諸表がデタラメなら、監査報告書もインチキ。上場企業の監査制度への信頼を著しく貶める行為であり、心ある公認会計士は眉をひそめています。ある監査法人をリタイヤしたベテラン会計士がブログで厳しく批判しているから、パシフィック監査法人代表社員の笠井浩一会計士にはぜひ読んでもらいたい。

以前も書きましたが、パシフィック監査法人は会計監査人を務める上場企業がセラーテム1社のみ。笠井氏が事実上1人で切り盛りしており、他の4人のパートナーは名前貸し。赤坂の事務所に職員は常駐しておらず、代表電話は秘書代行サービスという“幽霊監査法人”が実態です。

笠井氏は1998年に青山監査法人に入所後、隆盛監査法人に移籍。06年、セラーテムが監査法人をトーマツから隆盛に変更したのを機に、同社の監査を手がけるようになった。当時、隆盛は大手監査法人に契約を断られたゾンビ企業の“駆け込み寺”として有名でした。ところが09年9月、代表社員の石井清隆が、ジャスダックに上場していたプロデュースの粉飾決算を指南した容疑でさいたま地検に逮捕され、隆盛は解散に追い込まれた。こうして笠井氏が設立したのがパシフィック監査法人でした。

セラーテムの07年6月期決算の監査報告書には、担当会計士として石井と笠井の名前が仲良く並んでいます。今年1月、さいたま地裁は石井に懲役3年6カ月の実刑判決を下しました(控訴して公判継続中)。石井と同様、笠井氏がセラーテムに粉飾を指南したり、不正を知りながら見て見ぬふりをした可能性はないのか。疑うなという方が無理でしょう。

大証がセラーテムを上場廃止にしたのは当然でも、決断を85日も先送りにした挙げ句、根拠が監査法人のインチキ監査報告書ではお話にならない。日本公認会計士協会や金融庁も、パシフィック監査法人をお咎めなしで済ますつもりでしょうか。この際、厳正な調査を求めます。