阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2012年2月27日 [leaks]セラーテムとネクスコ西

  • はてなブックマークに追加

やっぱり深追いすべきだった、とちょっと落ち込んでいました。

AIJ投資顧問は昨年7月に取材を開始していたのにスクープにできなかった。当時の証券取引等監視委員会は、そんなクレームはいくらでもあるといった反応で、せっかくの端緒が生かせなかったのは反省。

一方で、この週末にFACTAのスクープ報道の正しさが2つ証明されました。それをささやかな慰みとしましょう。

ひとつは26日に読売が報じたネクスコ西(西日本高速道路株式会社)疑惑。新名神高速道路の建設で価格が入札前に漏れたとの疑いで、清水建設社員宅などに兵庫県警が偽計容疑で家宅捜索した。これは本誌2011年8月号の「また『蛆』がわいたNEXCO西」で報じたものがやっと実ったということです。公取への「談合ですよ」とのメッセージでもあったわけですが、地元の警察が入ったのですね。

2008年7月号 国税に「道路の悪玉」密告状

2010年5月号 民営「西日本高速道路」の闇

2010年6月号 NEXCO西「石田帝国」の落日

2010年8月号 「西日本高速道」にトドメ刺した調査委報告

さてもうひとつはセラーテム(大証ジャスダック上場)です。26日午後7時のNHKニュースで「中国企業買収で虚偽発表か 摘発へ」と報じられました。証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出した模様です。しかし正直、ああ、今ごろか、という気持ちもないわけではありません。

第一報「『中国のハイエナ』が大証裏上場」を報じたのは2010年9月号です。それからセラーテムと表裏一体のチャイナ・ボーチー(東証1部上場)とともに、これらは市場で「FACTA銘柄」と呼ばれるようになるのですが、1年半も執拗に追及を続けてきたのですから。ちなみに、NHKの報道を受けて、第一報の記事をフリーコンテンツとして公開しましたので、定期購読者でないの方もぜひご一読を。

2010年10月号 窮鼠セラーテムの「お笑い」弥縫策

2011年3月号 東証の「時限爆弾」チャイナ・ボーチー

2011年6月号 「チャイナ・ボーチー」上場廃止へ

2011年11月号 セラーテム「強制調査」で崩壊へ

2012年1月号 連れ安「FACTA銘柄」を東証放置

さあ、東証と大証。この始末、どうつけてくれるのか。

今朝にかけて報道各社がNHKに追随。それらによれば、セラーテムが2009年12月に中国系ファンドを引受先として行った第三者割当増資は「架空増資」であり、監視委は「株価つり上げが目的の不正(金融商品取引法の偽計)」だったと見て強制調査に踏み切ったとのこと。本誌が既に報じてきた内容を踏襲しており、新味はありません。

ただ、先陣を切ったNHKの報道には2つの興味深い暗示がありました。このニュースは十中八九当局のリークですが、NHKのアナウンサーが読んだ原稿の中には、「監視委が中国の金融当局に協力を要請した」というくだりがあった。これは、セラーテムの強制調査に先だって監視委が中国証券監督管理委員会(CSRC)と接触していたことを意味します。中国側の協力が得られる目処がなければ、当局はわざわざNHKに教えないでしょう。

2008年の“アジア・メディア事件”では、東京証券取引所が同社を上場廃止にし、会社の資金を持ち逃げした中国人創業トップを北京市公安局に告発。しかし、結果として誰も制裁を受けることなくうやむやに終わり、日本の個人投資家は泣き寝入りを迫られました。今回は、日中当局の連携によって中国にいる詐欺師にも制裁が加えられるかもしれません。この点は大いに期待して見守りたいと思います。

もうひとつの暗示は、ニュースに登場した匿名の証券コンサルタントの「明らかになったケースは氷山の一角」というコメントです。これは、セラーテム事件が他の企業や組織に飛び火するという意味でしょう。少なくとも、不正人脈が水面下で繋がっている東証1部上場のチャイナ・ボーチーへの影響は避けられないはずです。

FACTAはセラーテムの疑惑を取材する過程で、監査法人、社外取締役、証券取引所などにも取材してきました。常識で考えてデタラメだらけの企業だったにもかかわらず、彼らは異口同音に「問題ない」「わからない」などと回答していました。

セラーテムは今朝、一連の報道を受けたプレスリリースを発表。監視委の強制捜査を受けたのは事実だが「金融商品取引法に違反するような行為は行っていない」と主張しています。確かに現時点では、監視委が東京地検に告発し、起訴されると決まったわけではありません。しかし時間の問題でしょう。実際に起訴する際は、当局はセラーテムの不正に見て見ぬふりをしてきた(もしかすると不正を幇助していた)監査法人、社外取締役、証券取引所の責任にもきっちりとメスを入れていただきたい。

セラーテム事件は、監査法人、社外取締役、証券取引所のチェック機能が働かなかったという意味でオリンパス事件に酷似しています。ついでに言えば、報道各社がFACTAのスクープに一切触れていないのもオリンパスの時とそっくり。それはさておき、マスコミは中国の二流詐欺師を悪者にするばかりでなく、彼らを日本に招き入れ、不正を幇助した日本人や、不正を知りながら見て見ぬふりをしてきた日本人の責任も厳しく追求すべきです。

それができなければ、日本の資本市場はますます「田舎市場」として世界の笑い物になるだけでしょう。