阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2008年2月 1日 [金融]日銀総裁は大学入試で落第か?

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30日、年来の友人と久しぶりに赤坂で歓談した。ちょっと緊張したのは、今年の大学入試センター試験のある問題で、金融政策のイロハを試された時である。友人はニヤニヤ笑いながら言う。

「いや、ちょっと面白い出題でね。阿部さんは解けるかな。日銀の記者クラブにいたでしょ。洗脳されてる記者は、この問題が解けないんです。つまり大学受験生以下になっちゃう。日経はじめ大新聞の記者もかなりが落第組に入るんじゃないかな」

「ふーん。解けなかったら丸坊主かな。経済ジャーナリストの踏み絵にしてはちょっと怖いね」

こういう出題だった。

おやおや、高校で「公民」を教わった生徒に、今はこんな難問が出るのか。確かに背筋が寒くなる。現実の日銀のとった政策を多少知っていればいるほど、それがとんだ落とし穴になる。ここはオーソドックスに考えるべきなのだ。

皆さんはいかが。私はしばらく眺めていて、幸い正解を答えることができた。面目を保てて胸をなでおろしたが、さて、彼が言うように「日銀ズレした記者」はこれに答えられないだろうか。

「本石町日記」というブログがある。明らかに日銀詰めのどこかの社の記者が書いているのだが、1月23日にこの出題が取り上げられている。題して「大学入試センターの問題はおかしい=日銀にも解けないよ」とある。やっぱり。問題のせいにしているあたり、歯切れがよくない。原文のまま引用しよう。

日銀マンはこの問いには答えられない。「実際にやった政策はどれか」という問いであるなら、「通貨供給量」を「ベースマネー」に置き換えると、①が正解となる。去年の前半は物価ややマイナスの中、ベースマネーは前年比で激減状態でありましたので(笑)。

福井総裁がもし受験生だったら、どう答えたろうか。確かに福井総裁が率いる日銀は、デフレにもかかわらず異常低金利からの脱却――金利正常化と称して、ハイパワードマネー(ベースマネー)を減少させ、市中国債の買い切りオペの増額をしなかった。もし自らの政策を信じているなら、本石町日記が言うように①を正解としなけらばならない。しかし、もちろん、大学入試センターは×点をつけるだろう。

1958年に東大法学部を卒業、日銀入行時からプリンスと言われた福井氏にとっては、トホホの出題だろう。本石町日記の筆者はこう弁護する。

ちなみに正解は③なのだが、なぜ正解かは不明。推測するに、不況(デフレ)になり、量的緩和を確実に実施するために国債買い入れを増やす手段も応用する、であろうかな。厳密に言うと、この問いの正解はないので、全員に点をあげた方がよいね。

でも、上記の問いに答えられる受験勉強とはどういうものなのか。教科書にいろいろ変なことが書いてあるのだろうか。日銀はもっと教育関係に関与した方がよいと思った。この問題はかなり変なので、日銀は指摘した方がいい。

お気の毒。この記者は日銀病に感染している。高校の教科書でも自明とされている金融政策の原則を、日銀は自ら違反してきたと解釈すべきである。本石町日記の筆者は知ったかぶりしてこう続ける。

金融政策の理論面については学会でもいろいろな考えがあり、高校生レベルで教えるなら、あまり異論の出ない極めてシンプルものに限定すべきであろう。不況のときは利下げする、好況のときは利上げする、という程度で十分な気がする。こういった無駄を省けば、意味のない知識の詰め込みは避けられると思うが…。

高校生の問題も解けずに教育論とは笑止の限り。余計なお節介だと思う。こういう記者は、日銀のHPに子供向けの「にちぎん☆キッズ」というコーナーがあり、その「ニチギンマンのきんゆうせいさく」のページをご覧になって、よおく勉強してください。

さて、1月31日の毎日新聞は、早々と日銀の次期総裁に武藤副総裁昇格と打った。財務省OBの武藤氏に難色を示していた民主党が、暫定税率のつなぎ法案とり下げで腰砕けになり、日銀総裁人事でも強硬な反対論は唱えないだろうとみたのだろう。これはちょっと早漏れかな。

だが、サブプライムの損失が膨らむ米欧では、さらなる利下げが見込まれている。世界的な景気減速のなかで、日銀だけが金利のノリシロが小さい(短期目標金利の無担保コール翌日物で0.5%)ことを理由に、知らんぷりをしていられるとは思えない。

金利正常化に意地になっている福井総裁は、まだ利上げに余地を残したい口ぶりだが、むしろ逆だろう。政府・与党(とりわけ上げ潮派)は、金融政策による景気下支え、つまりなけなしのノリシロを吐き出せと日銀に迫るのではないか。

武藤氏が何としても総裁になりたいなら、その踏み絵を踏まされる公算大である。彼がめでたく総裁になれたら、その条件(利下げもしくは金融緩和)を呑んだあかしと見たい。水面下で落としどころを探るのが巧みな彼のこと、そこらは融通無碍の人で、福井氏ほど使命感に駆られていないからだ。

そこで、本石町の記者諸君、次の総裁会見で先に日銀執行部に踏み絵を試してみませんか。このセンター試験の出題を聞き、福井総裁が正解を答えられるかどうか試すのだ。福井総裁にこれまで異論を唱えてこなかった武藤副総裁も同意見かどうか聞けばいい。

一概には言えないなどと、本石町日記のブログ子のような言い逃れは許さない。総裁および副総裁のご意見と、「にちぎん☆キッズ」の原則が一致するのかどうかを試せばいい。それだけの気骨のある記者が、さていまの日銀クラブにいるのだろうか。