阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2007年4月17日 [アメリカ]ウォルフォウィッツの恋

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知人からドラッカーの「私の履歴書」をいただいた。一昨年の11月、亡くなった経営学者である。ウィーンに生まれ、ジャーナリスト出身のこのユニークな存在は、巨大企業GMの組織運営から「マネジメント」という概念を再発見、戦後社会に時代を画した。わが友人にも彼を尊敬する人は多い。

ふと連想したのは、世銀総裁ポール・ウォルフォウィッツのスキャンダルである。コーネル大学で数学や化学を専攻、傑出した頭脳と言われたが、シカゴ大学に移って政治学に転向した彼が「イラク」で失敗し、今また「世銀」で失敗しかけているのは、その「マネジメント音痴」に起因するのではないか。

彼は第一期ブッシュ政権でラムズフェルド国防長官の下の国防副長官をつとめた輝けるネオコンの星だった。が、イラク侵攻の設計者だっただけに、その後の統治失敗の責任を取らされて辞任、それでも世界銀行総裁に押し込んでもらったが、一度落ちた星に昔の輝きは戻らない。

今度は女性スキャンダルである。世銀中東局広報担当の女性上級職員シャハ・アリ・リツァ(Shaha Ali Riza)を、世銀に籍を置いたまま国務省に出向(中東民主化担当)させたが、彼女が総裁の恋人になっていたことから、世銀職員組合に情実人事と批判され、それがメディアに報じられて騒ぎになった。

もともと出向の理由は、恋人を部下にすると利害相反が生じるからということだった。そこで国務省に異動させたのだが、恋人の報酬は年19万35905ドル(約3900万円)にはねあがり、国務長官のコンドリーザ・ライス(18万3500ドル)を上回ってしまったという。

ウォルフォウィッツ総裁は12日の会見で謝罪して、いかなる処分も受け入れると述べたが、おりからワシントンでIMF(国際通貨基金)と世銀の合同開発委員会が開かれ、15日の声明が総裁スキャンダルに言及、職員の士気にかかわると強い懸念が表明された。

赤っ恥である。名前からすると、この恋人、アラブ系に聞こえる。一説にはチュニジア生まれのサウジアラビア育ち、オクスフォード大学を出て英国籍を保有しているという。ただ、写真を見ても妖艶とはいえないコワソーな顔立ちだ。

この内部告発には、どこかこうした人種にかかわる摩擦(ネオコンにはユダヤ系が多く、ウォルフォウィッツもユダヤ系)と、ブッシュ政権のクローニー性(内輪びいき)への攻撃が絡んでいる。それと、世銀内にはホワイトハウスの威光をカサに来て乗り込んできた総裁への反感もあったろう。

世銀もその腐敗と硬直化はかねてから指摘されており、ウォルフォウィッツは改革を旗印に送りこまれたのだが、国防総省から連れてきた手勢と、プロパーの世銀職員の折り合いが悪く、とうとうヘソ下スキャンダルを暴かれて、追い詰められたというわけである。

彼はシカゴ大学でいったいどんな政治学を学んだのか。その師の一人であり、ニューヨーク・タイムズには「ネオコンの祖」とまで書かれた政治学者レオ・シュトラウスの「僭主論」の邦訳上下2巻が出そろった。ソクラテスの弟子で武将でもあったクセノポン(わがお気に入り)の対話編「ヒエロン」の注釈の形で、Tyrant(僭主)の本質を論じたシュトラウスの代表作である。

英語で読んだが、難解で歯が立たず、邦訳で再挑戦することにした。世に名君論、名経営者論は多々あるが、マキャべりの「君主論」を除けば陰画の王権論は少ない。フロリダの開票の混乱といい、発足当初からレジティマシーに問題があったブッシュ政権の「僭主」性を考えてみたくなる。

彼の政権の乱暴な戦争決断とマネジメントの欠陥は、そこに根があるような気がするからだ。シュトラウスを読み終わったら、それを肴に彼らのマネジメント音痴を論じよう。