阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2007年3月30日 [書評]「外注される戦争」はただの傭兵論ではない

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シンクタンク東京財団の研究員だった菅原出君が新著を出す。「外注される戦争 民間軍事会社の正体」(草思社、税込み1680円)である。日本人ではたぶん、菅原君以外にこういう本は書けないだろう。

単なる軍事オタクが資料を集めただけの本ではない。ちゃんと足で稼いだ好ルポルタージュである。自分では戦地に行く勇気もないくせに言葉だけ勇ましい心情右翼の方々には、いい薬になるかもしれない。現実の戦場がどうマネジメントされているかをリアルに知るためにも一読をオススメしたい。

PMC(Private Military Company)とは、イラクやアフガニスタンなどの戦場で軍の物資補給を手伝ったり、正規兵ではない政府要員の警備や、警察官の訓練など雑務を請け負う民間企業である。その多くが特殊部隊などのベテラン兵OBだから、一昔前の「傭兵」会社と見られがちだ。確かにPMCは傭兵の延長線上にあるが、その機能は多様化し、もはや正規軍と切り離せない存在になっている。サマーワの自衛隊だって、陰に陽に彼らの協力なしでは無事帰還できなかったに違いない。

その存在がクローズアップされたのは、2002年4月のイラク侵攻だろう。チェイニー副大統領がかつて会長兼CEOだったハリバートンが、占領後の復興事業支援を受注し、PMCも「戦争のアウトソーシング」として話題になった。主戦派のラムズフェルド前国務長官が、イラク制圧に少数精鋭の米軍14万人で十分とした根拠も、PMCの存在あればこそだった。

その目論見が外れた今も、泥沼のイラクに残って、PMCは命がけのビジネスを続けている。犠牲者は相当数にのぼっている(44歳の日本人元自衛隊員、斎藤昭彦氏もPMCに応募、05年5月にイラク西部で待ち伏せ攻撃にあい、行方不明になった)と見られるが、彼らには危険地こそ商売なのだ。巻末のPMC一覧はなるほどと思わせる。

しかしブッシュ政権を支えたネオコンが挫折し、イラク撤退の是非が問われているいま、戦地任務のアンバンドリングであるPMCがイラクのような内戦状態の国で有効だったのか無効だったのか、誰かが検証しなければならないだろう。だから、この本の出版は時宜を得ている。

菅原君は東京財団の研究テーマの一つとしてPMCを取り上げ、その研究費を使ってロンドンなどのPMC本社を訪ねたり、ボディーアーマー(防弾ジャケット)を着てアフガニスタンに入ったり、英国で戦場を疑似体験するセキュリティー訓練まで受けてきた。

当時は「面白かったですよ」と静かに笑っていただけだったが、改めて読むとなかなか得がたい体験である。彼はPMCに肉薄するあまり、日本に進出した英国のPMC会社に誘われてそのコンサルタントになっている。「ミイラ取りがミイラ」にならないよう願うほかないが、本では「新しい脅威や新しいミッションが急増しているのに対して、もはや国家の軍隊だけで対応することは物理的にも限界にきている」と書いているから、見るべきほどのものは見ている。彼はPMCの登場が必然だったと言っているのだ。

(日本が)たとえ「普通の軍隊」をもったとしても、すでに世界最強の米軍がPMCなしに軍事ミッションを遂行できない状況にあるのが、安全保障の世界の現実である。これからは日本もPMCとどのように付き合い、どのように活用していくのかという問題を避けて通ることはできないだろう。

菅原君はそう訴えている。だからこそ、PMCは戦争のプロフェッショナルたちの「じつに不思議でダイナミックでグローバルなビジネス」になっているのだ。たとえば、テロリストの人質になるジャーナリスト用の模擬体験ひとつとっても、ある抗し難いリアリズムが浮かんでくる。

頭から袋をかぶせられ、走らされ、小突きまわされているうちに、これが演習だという感覚を失っていく。処刑の場面で、命乞いのために何か考えなければならないのだが、極限状態で何も思いつかないうちに、空砲がなり、処刑されたことになってしまう。だが、教官たちは言い聞かせるのだ。

「絶対にあきらめてはいけない。最後の最後までどんな小さなきっかけでもいいから見つけて生き残るよう全力を尽くせ」

そこにはある普遍性が浮かぶ。グローバルに脅威が地続きになった今、国家と企業の境界線がぼやけてきているのだ。かつて戦争は領土の野心を裏に隠した国家の「崇高な使命」とされたが、もはやあられもない利潤動機が前面に出て、実もフタもなくなってきたのだ。PMCは遠い国の出来事ではない。いつのまにか戦争はすぐそこにきている。