阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年11月 6日 ロングテール1――「有らざらん」が遅れたおわび

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メルマガで「上海汚職3回シリーズ」が終わった。しかし本日から編集期間入り。しばらくこのブログは書けなくなる。さて、私事ながら、「近く出版する」とこのブログで9月28日に書いた「有らざらん」について、お問い合わせがあったのでお答えします。

アマゾンでは「10月15日発売」となっていて、予約申し込みを受け付けていましたが、印刷の都合で遅れました。本日(11月6日)に刷り上りがやっと到着、出版社のオンブックを通じて一部書店の店頭に出るのが11月9~11日ごろだそうです。

出来上がりの本は小生もまだ見ていないので、それを確認してからとも思いましたが、とにかく遅れましたことを皆様にお詫び申し上げます。

「有らざらん」は自費出版ではありませんが、大部数のマス・プロダクションでもありません。「緒言」で書きましたように、一家で出版社をつくって息長く続けた中里介山の『大菩薩峠』がモデルです。世の中、米「ワイアード」誌編集長クリス・アンダースンの唱えたロングテール論が大はやりですが、それを自ら試してみる気になりました。

ロングテールに私自身は懐疑的です。FACTA的基準から言うと、立証が不十分。たとえば、「アマゾンの売り上げの半分以上は、通常書店が在庫を持たない書籍の売り上げに拠る」という説も、のち半分が3分の1に訂正されました。しかも、アマゾンは売り上げ構成比を公開していない。眉にツバつけたくなるのも当たり前です。

このサイトに「アマゾンはロングテール企業ではない。パレートの法則すらあてはまる」という寄稿をしたい、とあるアナリストの方から要望が寄せられたことがありました。むしろ「ロングテールは成立しない」という証明のほうが面白いのでは?

クリス・アンダースンのブログに「余剰の経済学」(10月25日)と題する文章があって、それを読むと、完全市場モデルや合理的期待形成仮説と同じく単なる仮説であって現実には存立しえない説と思えます。だいたい、2対8の「パレートの法則」なるものも黄金率のように語られていますが、立証可能な原理とは思えない。

そこらへんは、懐かしいハーバート・サイモンを引用して、「希少性」というボトルネックが転移するにすぎないことを指摘した池田信夫blog(10月28日)のほうが正しい。付け加えるなら、資本主義とは希少性の転移にあるのであって、余剰によって希少性が消滅するかのような迷説は、労働力余剰が革命を必然とするとしたマルクスと空論性において変わらないと思う。資本主義が回転し続ける限り、ユートピアはそう簡単に現実にならない。

では、「有らざらん」の実験とは何か。ロングテールが「ユーザーである個人の関心(時間コスト)を効率配分すること」(池田信夫blog)とパラフレーズできるのなら、コンテンツのプロバイダー(提供者)も時間軸に沿って効率配分していいはずだ。つまり、『大菩薩峠』、いや、『グインサーガ』のような長大な(しかし無限ではない)連続シリーズが可能になるのではないかと思う。

それが単なる書籍のマガジン化(ムック)で終わるのなら無駄だということになる。もちろん、ハーメルンの笛吹きではないが、人がついてこなければ続かない。ま、編集長でありながら手間のかかる本を書くなんて無謀な試みですが、「余剰の経済学」なんてトンデモ理論、ブードゥー(呪術)エコノミクスを喧伝する連中を駆逐するためにもご協力を。

すでに書いたように「有らざらん」の意味はSein zum Tode(死に向かってある存在)あるいはSein zum Ende(終わりに向かってある存在)。有限、つまり時間に希少性のある存在ということです。