阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年9月16日 [メディア論]インタビュー:渡辺聡氏「メディアはどう変わるか(5)――メディアの適正規模とは」

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メディア通信情報コンサルタントの渡辺聡氏との対談の最終回。FACTAはミニ出版企業だが、インターネットでそのハンディをカバーしようとしている。しかしSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の中には巨大化して上場するものも現れた。その維持に資本力が必要になってきたのである。同好会の延長線上にあるがゆえに心地よかったのに、資本の論理が入ると変質してこないのだろうか。ネットでもメディアには適正規模があるのかどうかを最後に論じた。

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阿部 我々の雑誌にも関わることですが、メディアの規模をどう考えればいいのかという疑問があります。例えば、上場予定のmixiを考えた場合、あそこまで規模が大きくなると、サーバーやシステムを維持するには、かなりの資金調達力が必要になるでしょうから、上場する意味はあるとは思います。けれども、資本市場外だったサービスが、次第に資本の傘下に入って行くことで、巨大化戦争に入らざるを得なくなります。そう考えると、規模の論理とその中身の質とを整理して考える必要がありそうですが、巨大化すべきものと、そうでないものを分ける目安みたいなものはありますか。

渡辺 SNSは全体としては大きいですけれども、個々のユーザは分散しているので、1つのコンテンツが流通している訳ではありません。全員が同じものを見ているのではなく、少数の集まりが沢山あって、たまたま同じ皿の上に載っている。ローカル・メディアがたくさん集まっているような状態です。ユーザーの操作感は同じですが、コンテンツとしての繋がりはありません。全体として緩いネットワークはあるにしても、500万人いるメディアかと言われたら違う面があります。やはりサービスとして見るべきでしょう。

ヤフーの場合は、基本的にはみんなが同じコンテンツを見るので、オールド・メディア的な発想に近いわけですが、オークションサービスのようにモノのやり取りなども行われているのでパーソナルの積み重ねとも言えます。総体としての数と中で機能しているサイズは違うので、一番大きいサイズだけで比べて議論するのは違うのかなという感じがします。サービスによって内部構造が違うところが肝ですから。

阿部 SNSを広告媒体として売っていかなければいけない運営会社の立場だと、かつて新聞が販売部数競争をやったように、加入者を獲得しないといけないわけですよね。

渡辺 そうですね。当然、事業としては利用者を増やさなければいけないので。

阿部 そうなるとやはり規模の論理を追い続けなければいけなくなってしまうのかな、と思うのですが。そうでもないのですか。

渡辺 そこは当然出てきます。総体としてのサイズは力になるので、人が集まることは媒体としての価値になります。問題は集まっていることと、その効果がいかほどかということです。数が集まっても効果が変わらないのであれば、媒体としての価値は高まりません。あとは効果を上げて行くための施策をどう打っていくかということが課題になります。

阿部 mixiの場合、それだけの利用者を支えるビジネスモデルは成り立っているのでしょうか?

渡辺 利用者が数十万人位までは赤字でしたが、今は完全に黒字化して収益率が上がっています。あとは壊れないようにバランスを取って行くということですが、そこは概ね為されているところなので、だいぶ事業体としては安定しつつあるところです。まったく違うモデルが出て来て、利用者が全員そっちに乗り換えない限りは、かなり安泰な次元に入ろうとしています。

阿部 動画を扱うYouTubeの場合、mixiよりさらに設備投資負担が重いわけですが、ビジネスモデルとして黒字化できるのでしょうか?

渡辺 データは公開されてませんが、月に億単位のシステムコストが飛んでいるという話は出ています。ただ、使われ方を見るとテレビとは全然質が違っていて、まったく新しいメディアが出て来たということは確認できました。あとは、いかにして世の中に伝えて、理解してもらえるかがクリアできれば、個人的には全然大丈夫なのだろうと考えています。

確かにすごい勢いでお金が出ていっているようですが、それ以上にメディアとしてのプレゼンスがかなりのところまで来ているので、ボタンを1個、2 個つなげると、あとはぽんと黒字化するのではないでしょうか。あとは法的なところなど、残った問題が大きな火種にならないかです。

阿部 分散型メディアではスパムが問題視されています。スパムの洪水でメディアとしてだめになってしまうという悲観的な見方もあります。SNSでも規模が大きくなるとスパムは生じる訳ですよね。

渡辺 あまり表には出てませんが、たくさん起きてますね。ただ、そこで起こっていることは現実社会と変わりありません。利用者が増えれば増えるほど日常生活と近くなるので、現実社会で起きていることは当然ネットでも起きる。DMや怪文書がばらまかれたり、犯罪も起きるだろうし、嫌な気分にもなることもあるでしょう。ネットだからという意識で問題を必要以上に大きく取り上げるのは、そろそろやめたほうがいいと思います。

阿部 スパムやウィルス、スパイウェア対策に、利用者はある程度コストをかけなければいけないということでしょうか。

渡辺 いけなくなるでしょう。マンションや個人宅でセキュリティに入る感覚に近いですね。生活がインターネットに依存していない人は別ですが、ネットバンキングをはじめさまざまな情報のやり取りをする場合、PCには重要な情報が保存されているわけですから、当然守らなければいけない。家に大金を置くときは金庫を買ったほうがいいのと同じ議論です。

阿部 そういったセキュリティ・コストがインターネットの“チープ”にビジネスを起こせるメリットを阻害するところまで行かないでしょうか。

渡辺 一部で阻害しているところはあります。例えば、ユーザーが参加することによってコンテンツが作られていくソーシャル系サービスでは、規模が大きくなると利用者の価値観も多様になり、小規模の時にはなかったトラブルやスパムの増加によって品質のばらけが起きてきます。すると、何か最近使えないよね、と言われて急に廃れてしまう。そこには常にコストと規模の問題があります。

阿部 オールド・メディアのネット戦略も、いずれ同じ問題に直面することになるかもしれません。

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