阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年8月14日 [テロリズム]手嶋・阿部緊急対談――英国テロ未遂と諜報1

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今月も手嶋龍一氏との緊急ミニ対談を載せます。もちろん、「8・11」を狙ってロンドン発アメリカ行きの旅客機7機を爆破するテロ計画が摘発されたからだ。またも締め切りの「エアポケット」である。くやしいけれど、お盆中に印刷する次号(9月号、8月20日刊行)の「FACTA」ではカバーできない。

が、11日土曜、手嶋氏から電話がかかってきた。「また例の緊急対談をやりましょうか」。一も二もない。12日にテレビ朝日の「サンデー・プロジェクト」に出演したあと、彼がわが御茶ノ水のオフィスに来て、この対談を原稿にした。「早いねえ、あっという間にできちゃうねえ」と二人で感心した次第である。

今回も手嶋氏のオフィシャルサイトとタイアップしているので、そちらも参照してください。

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阿部 インテリジェンスの世界から見れば、今回のテロ未然防止は、久々に英国の情報機関があげた「クリーン・ヒット」に見えます。

手嶋 確かにその通りです。しかし、インテリジェンス・ワールドでは「錯誤の葬列」という言葉があるほど、失敗の連続がむしろ常態なのです。

阿部 禍福は糾える縄のごとしと言います。9・11以降をとってみても、英米のインテリジェンス機関は大きな過誤を三つ犯していますね。まず、イラク侵攻の大義名分となったイラクの大量破壊兵器保有の情報は、誤ったインテリジェンスに基づくもので、侵攻後の調査では大量破壊兵器開発の証拠は発見されませんでした。

第二にアル・カイダとサダム・フセインの関係。これも侵略前は、フセインこそアル・カイダの後ろ盾という先入観に惑わされていたわけで、結局、両者を直接的に結びつける証拠は見つけることができませんでした。

第三は昨年のロンドンの地下鉄・バス爆破事件です。同時多発テロで50人以上の死者を出す惨事を許してしまいました。お膝元で起きたこの事件で誰もが驚いたのは、9・11事件のように潜入してきた外国人イスラム教徒ではなく、英国在住イスラム教徒の若者が多くこの事件に関与していたことでした。

手嶋 これほどの失敗が重なれば、常のインテリジェンス機関なら、立ち直ることができません。しかし、さすがは老情報大国、イギリスです。失敗の教訓をことごとく我が物として、今回復活を果たしたといえます。かつて、冷たい戦争のさなかに、クレムリンの二重スパイ、キム・フィルビーを生んで壊滅の危機に瀕した英国情報機関が、不死鳥のように蘇ったことを思わせます。

阿部 昨年起きたロンドンの同時多発テロによって芽生えた英国民の強い危機意識を利用しながら、防諜インテリジェンス機関であるMI5は、スコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)と巧みに連携しながら、英国のイスラム社会に静かに浸透し、仕返しのリターンマッチを策したのでしょう。

手嶋 ではここで、何が事件摘発の決め手になったかを検証していきましょう。昨年のロンドン同時多発テロ事件では、あわせて千人を超えるイスラム教徒の若者たちを英国当局は拘束しました。この人々こそ、テロをめぐるインテリジェンスの「豊穣の海」だったのです。エース級の尋問官を差し向け、一級のインテリジェンスを彼らから引き出す。そして言葉巧みに寝返りを勧めて、当局の二重スパイに仕立てあげ、再びイギリスのイスラム教徒のコミュニティに泳がせていたと言われます。

阿部 アメリカは膨大な予算をかけて、NSA(国家安全保障局)のような電波傍受や、国防総省などのスパイ衛星による偵察――SIGINT(通信インテリジェンスの略称)やCOMMINT(コミュニケーション・インテリジェンスの略)に力を入れています。その分、スパイなど生身の人間が直接相手の懐に潜入して情報をとるHUMINT(人的インテリジェンス)が手薄と言われますが、それと対照的に英国のインテリジェンスは伝統的にHUMINTを得意としていますね。

手嶋 ちなみに、北朝鮮の場合は、ミサイル情報の大半が前者のCOMMINTなどによるもので、政権中枢にエージェント(工作員)を送り込んで情報をとるHUMINTを決定的に欠いています。このため、先のミサイル発射のようなケースでも、発射の「Xデー」に十分迫ることができずにいるのです。

阿部 今回、事件摘発の決定打になったと言われるのは、パキスタンにいた英国国籍を持つイスラム教徒ラシッド・ラウフが、イギリスにいた弟のタイブ・ラウフと交信したeメールを傍受したことだったそうですね。

手嶋 ええ、まさにこれが捜査の突破口となりました。しかし彼らとて、メールが当局にのぞかれる可能性は承知の上で、かなりの偽装工作を試みています。インターネット・カフェで多くのイギリスの若者にまぎれてeメールを交わしていましたが、英国当局はロンドン西郊にあるレディングで現場を押さえたのです。
 
当局は押収したコンピューターに内蔵されていた電子情報を徹底的に解析したと言われています。アメリカの9・11同時多発テロ事件の際も、決行の前月である8月には、主犯モハメド・アタルらがラスベガスのインターネット・カフェで交信をしていました。しかし、その事実を当局が確認したのは、3000人もの死者を出したあとでした。

阿部 摘発後、イングランド銀行が容疑者の名前を公表、資産を凍結しましたね。

手嶋 金融当局が情報当局とこれも巧みな連携をとりながら、資金の流れの全容を解き明かしていたことを裏付けています。イスラム系の慈善団体の存在を利用して、現地に送金するルートをつくるなどにより、イギリス国内の支援組織とパキスタンの組織を結びつけ、活動を資金面から支えていたのです。

阿部 ここまでくると、アル・カイダとの関係が浮かび上がってくると考えていいのでしょうか。

手嶋 少なくともイギリスの情報当局は、これらイスラム教徒の若者たちとアル・カイダを「実線で結びつける証拠を握っている」としていますね。

(1/3:つづく