阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年5月 8日 [阪阪連合vs村上ファンド]阪阪連合vs村上ファンド1――国税が怖い?

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最後はちょっと天気がさえませんでしたが、いい連休でしたか。こちらは完全に連休返上。ブログこそお休みしていましたが、ひたすら仕事をしていました。われわれ新参の月刊誌業者にとって、悲しむべきことにGWはあとにシワ寄せがくる恐怖の季節。月曜からはまたも体力ぎりぎり勝負になります。

で、夢遊病のような日記を書く羽目になりますが、幸い、今月は助っ人が登場しました。きょうから4日間、いまもっともホットなテーマである「阪神・阪急連合vs村上ファンド」を現在進行形で連載してくれます。FACTA次号では締め切りに間に合わないので、涙を飲んで新聞・週刊誌の報道合戦をながめていなければならないところですが、ありがたや、今はネットがある。同時進行にこれほど適したメディアはありますまい。

そこで、ゲスト・ライターの助力を借りて、このFACTA Onlineで参戦することにしました。さあ、日刊および週刊のメディア諸君、FACTAという紙とネットの二刀流メディアがどこまでやれるか、ご覧あれ。ライターはそうとう食い込んでいるから怖いぞ。この内容はもちろん紙媒体の月刊誌には載らないので、今のところは出血サービス。でもこんな貴重な情報はいつか有料化しますから、よろしく。では、まず第1回――。

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中肉中背で坊ちゃん刈り。見てくれは、童顔のおじさんだけど、ぎょろ目と激しくまくし立てる口調には妙に迫力がある。

ご存知、村上世彰氏。阪神電気鉄道の大株主として世間を騒がせている村上ファンドを率いるファンド界のカリスマは、マスコミに会わないことで有名だ。2000年に昭栄にTOBをかけたころは、「コーポーレート・ガバナンスを日本に広げるんだ」とどんな記者でも積極的に会っていたが、ここ最近は、「日本のマスコミのレベルが低すぎる」と失望して誰にも会わなくなったと村上氏の周囲は話している。つまりのところ、新聞やテレビに出ている「村上記事」のほとんどは裏取りがなされていない欠陥商品だ。

村上逮捕説や引退説とか、誰もが実しやかに話すが真相は藪の中。それでは、せっかくなので、「経済報道に強いFACTA」が阪神問題にフォーカスして、最近の村上氏動向をルポしましょう。

どこにいっちゃったの?

筆者も含めてだけど、ゴールデンウィークの最中、東京、大阪のマスコミは村上世彰氏を追いまわした。だが、誰も所在をつかむことができなかった。村上ファンドは阪神の発行済み株式の46%を保有して、5月2日に取締役の推薦など株主提案をしたばかり。一方で、阪急電鉄は阪神に「鉄道会社としては戦後最大」という大経営統合を申し込んでいる。

村上氏の意向次第で、ディールの成否が決まる。むろん、記者連中はゴールデンウィークを返上で、村上氏が住んでいる六本木ヒルズにベタッと張り付いた。六本木ヒルズのオフィス塔と住居塔の間を走る坂道、ケヤキ坂に並んだ記者の黒塗りハイヤーは、週明け後も夜の風物詩になっている。

先ほど、やっとのことで村上氏を良く知る関係者A氏にたどり着いた。しつこく食い下がると、どうやら村上氏は移住先を求めて海外に行ってしまったらしい。A氏は具体的な国名については口を濁したが、「候補地は東南アジアと北米」。へー、何で? どうして? 村上氏には、華僑の血が流れていると聞いていたけど、関係があるのかな?

「俺までをやるんだったら、こんな国から出てやる」

話は昨年末までさかのぼるそうだ。ライブドア元社長の堀江貴文逮捕説がささやかれてから、村上氏はこんなことを仲間内で言っていたという。

通称「MHK」。Mは村上氏、Hは堀江元社長、Kは元金融庁顧問で、現在は金融コンサルタント兼日本振興銀行会長の木村剛氏。これが、マスコミの間で人口に膾炙された、東京地検特捜部が狙うターゲットのイニシャルのもじり。確かに3人とも仲良しだったと記憶しているが、企業買収から合コンまで、村上氏を「師匠」と慕っていた堀江元社長が証取法違反で起訴されて「被告」になったから、次は村上氏の番だという読み筋らしい。

A氏によると、どうやら村上氏本人は検察の動きをちゃんちゃら気にしていない。雲隠れの本当の理由は税金が原因とか。一時、竹中総務相が大学教授時代にやっていたとして、国会で問題となったが、日本に住んでいない「非居住者」扱いとなって、所得税、地方税はもちろん、株式譲渡益税とから逃れようとする魂胆なのだという。

阪神買収の経緯は他の大手メディアに譲るとして、村上ファンドは現在阪神株の半分近くを押さえており、1株700-800円程度の廉価で買収をもくろんでいる阪急に対して、村上氏は1200円を強く主張している。

現在1000円程度の株価に対して、村上ファンドの平均購入価格は655円。時価総額は4000億円程度だから、100円買い取り価格を上げさせるたびに、村上ファンドには200億円のもうけが転がり込むことになる。目標価格で売れたとするならば、なんと1100億円の利益!

ちょっと専門的になるが、「恒久的施設理論」なるものが税務の世界にある。これは、投資会社が海外にあり、投資決定も海外でなされたのなら日本の税法がかからないが、「日本国内に投資判断ができる恒久的施設がある場合はその限りではない」という税法上の理屈だ。どうやら、村上ファンドを率いる村上氏が移住を考えているのは、これが怖いらしい。

ちなみに、村上氏の個人資産は推計100億円あるとされる。大半が2000年に昭栄に株式公開買い付けをかけて以来のもうけだが、村上氏は一度も長者番付上位に顔を出したことがない。なのに、「東京国税局は一度も村上ファンドに査察に入ったことがない」(大手紙社会部記者)。どうやら、村上氏は税務査察という別件逮捕ならぬ別件調査を恐れている節がある。

どうも村上ファンドの腰が据わっていないのは、このためか。村上氏はマスコミの目をすり抜け、先月21日金曜日、22日土曜日と神戸に出向き、阪神、阪急の首脳に水面下で会っている。その時に阪神・阪急連合に手渡した株主提案の試案には単に「株主価値向上のため、弊社が推薦する9名を取締役候補者とする」とあり、強気姿勢を前面に出していた。

だが、今月2日に提出した提案には、阪神の非常勤取締役を務める玉井英二・元住友銀行副頭取の名前があり、三井住友銀行をメーンバンクとする阪神にややすり寄った感じ。村上ファンドのウェブサイトには「阪急との統合は2月から自分たちが提案していたが、阪神が拒否していた」ともあり、阪急・阪神の統合案に擦り寄った感じがある。

本当に自分のやっていることに自信があるのなら、さっさと阪神株を買い占めて、非上場化して不動産事業などをバラバラに解体すればいいのに。どうせ、超金持ちなのだから、ローンスターやリップルウッドなどのハゲタカの真似をしないで、日本国内で税金を払えばよい――。

(以下続く)