阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年2月 1日 [ネットバブル]ライブドア崩落7――安しんかい?

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「突破モンに『あれは自殺です』なんて断定されちゃなあ、逆効果でしょうが。かえって、きっと他殺だ、と信じた人が多かったんじゃないか」。誰かがそう言った。ライブドア出身のエイチ・エス証券副社長が沖縄で遂げた「不可解な死」について、コメンテーターとしてテレビに出演した「キツネ目の男」のことである。

それくらいなら、一場のお笑いですむ。しかし、週刊文春、週刊ポストと「他殺説」が花盛りになってきた。このブログでも「崩落3」で「沖縄の死」にいち早く疑問を呈したこともあって、アメリカの有力紙記者から電話がかかってきた。なんだかクロフツみたいな本格ミステリーの「密室殺人」を思わせる。

メディアによって棲み分けができたらしい。沖縄ミステリーに血相を変える雑誌やタブロイド紙、さらにネット掲示板の野次馬たちに対し、新聞など大手商業メディアはバッジ組の追跡に目の色を変えている。先週は「投資事業組合の出資者に政治家の名がある」という情報に色めきたち、口の軽い民主党議員たちが未確認の議員名を流したものだから、当の議員が事実無根といきりたつ場面まであった。

いくら隠れミノとはいえ、政治家が無防備にそんなところに名前をさらすだろうか、という疑問がわく。やはり、いくつかトンネルを組みあわせるのが常識で、そんな分かりやすい出資者リストが簡単に入手できたら、誰も苦労はしないだろうと思う。各メディアとも手持ちのネタを使い果たした段階なのだろうが、こういうときは、ワイルドな妄想で色をつけたような憶測が乱れ飛ぶ。

私自身には確認できないが、事実ならいちばんショッキングなのは、週刊ポストが報じた「(沖縄で死んだ)野口英昭氏は安晋会の若手理事」という報道だろう。

安晋会とは安倍晋三官房長官の事実上の後援会(政治団体の届出がなく、安倍事務所では「有志の親睦会」と説明している)である。週刊ポストの記事ではっとしたのは、東京大手町のパレスホテルで開かれた安晋会のパーティーで、野口氏はエイチ・エス証券の親会社である旅行代理店HISの「澤田秀雄会長と演壇にあがり、理事だと紹介されていた」というくだりだ。HISも澤田会長が安晋会会員で、野口氏とともに安倍氏のパーティーに出席していたことを認めている。

この接点は貴重に見える。名前の出方自体が、ライブドア事件の「政争」的側面を物語っているからだ。ライブドア強制捜索と同じ1月17日、耐震設計捏造疑惑で国会証人喚問されたヒューザーの小嶋進社長が、同じ安晋会に所属していることを証言、安倍氏の秘書に国土交通省への働きかけを頼んだとわざわざ口にしたことと妙に符丁があう。神妙な顔の小嶋社長がさんざん圧力をかけられて、窮鼠ネコを噛むような脅しのメッセージを安倍氏および首相官邸へ投げ返したとも思えるからだ。

ライブドアが昨年12月に業務提携した不動産会社ダイナシティをめぐって同じような人脈がうわさされているのも、ポスト小泉レースの最有力候補の足を引っ張る「政争」の一環なのだろうか。妙にきな臭いのが気になるが、メディアはこうした接点の真偽を丹念に追うべきではないか。

ライブドアがキューズネットやロイヤル信販の買収に投資事業組合を使い、エイチ・エス証券子会社「日本M&Aマネジメント」(JMAM)がそれを運営していて、野口氏が運用役だったらしいことはすでに知られている。だが、この投資事業組合という隠れミノ、かつての一部商銀信組や朝銀信組のようなマネーの「洗浄機関」に使われたカラクリと同じではないのか。

もうひとつ、週刊誌はせっかく記者を沖縄出張させたのだから、県警やホテルだけでなく、沖縄で何が騒がれているかを事前調査すべきだったろう。週刊ポストが「沖縄の闇」として構造改革特別区の「情報通信特区」や「金融特区」を暗示しているが、ライブドア自体が純然たるIT企業とは言えないだけに、利権が情報や通信関連だと推定する必要はないと思う。

1月22日、名護市の市長選が行われた。岸本建男市長の後継である元市議会議長、島袋吉和(しまぶくろ・よしかず)氏(59)=自民、公明推薦=が52%の得票率で勝った。その日はまた、死んだ野口氏の通夜と重なった。

沖縄の鼻先にいまぶら下がっている最大の利権は「辺野古」である。住宅密集地に隣接する米軍普天間飛行場の移転は、小泉自民党の総選挙大勝を受けて10月26日、額賀福四郎・自民党日米安保・基地再編合同調査会座長(現防衛庁長官)とローレス米国防次官補のあいだで妥協が成立した。米側の主張する「浅瀬埋め立て」案と、日本側の推すキャンプ・シュワブ「内陸」案の折衷として、キャンプ・シュワブの兵舎地区に滑走路をつくる「沿岸」案を日本が提示、米国が歩み寄ったことになっている。

このほか、第3海兵遠征軍司令部のグアム移転などで海兵隊約7000人を削減し、米陸軍第1軍団司令部を改編して米本土から神奈川の座間に移設することなどを盛り込んだ在日米軍再編の中間報告で両国政府が合意し、地元の同意を得てこの3月に最終報告を出すことにしている。しかし稲嶺知事ら県側は、これでは恒久使用につながると難色を示した。

こうなると、小渕政権の沖縄サミットと同じで、国は大盤振る舞いで地元を黙らせるしかない。すでに平成12年度から「SACO(沖縄特別行動委員会)補助金」と呼ばれる北部振興策で約450億円を投入しているが、新たに1000億円を超す地域振興費がばらまかれるとの観測が出ている。おまけに辺野古沿岸の滑走路工事で巨額の建設需要が生じる。普天間移設は橋本内閣以来のびのびになっていた懸案だが、関係者によれば10月の沿岸案はあまりにも唐突で、前後の脈絡がつかないものだったという。

ラムズフェルド米国防長官の名代として、ローレス次官補が来日したときには、すでに何らかの力学が働いていた徴候がある。防衛庁内で交渉責任者だった山内千里防衛局次長と、地元との調整の中心である那覇防衛施設局長がこの1月30日、事実上更迭されたことも異常事態をうかがわせる。守屋武昌事務次官ら防衛庁上層部との確執が原因との説がもっぱらだが、地元建設会社や大手商社がワシントンで事前に動いていたらしいことと連動しているのだろうか。

しかも同じ30日、空調設備をめぐる官製談合の疑いで、防衛施設庁のナンバー3である技術審議官ら幹部3人が東京地検特捜部に逮捕された。かねてから噂されていたとはいえ、在日米軍再編最終報告を控えた額賀防衛庁長官の引責問題すら取りざたされている。「これで3月までに地元の同意を得られなかったら、守屋(次官)更迭は必至だな」とある森派幹部は言ったという。

「辺野古」の利権は政権中枢に直結する。そういえば、ライブドア事件中にスイスに外遊していた別の森派有力幹部は、自分の選挙区でもない沖縄でやけに後援会づくりに熱心だった。

これらはすべて単なる偶然と言えるのだろうか。