阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

2006年1月26日 [ネットバブル]ライブドア崩落5――国策捜査

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ライブドア事件で、証券取引等監視委員会(SEC)の無能論が盛んだ。東京地検特捜部がSECの告発を抜きに、じかに摘発に乗り出したからだ。自民党内ではSECを「役立たずのカカシ」とみなす意見が出て、与謝野金融相も1月24日、SECの人員増と機能強化に言及した。

そうだろうか。そばで見たから言うが、特捜の内偵力なんて限られている。投資事業組合を使った隠れ蓑のスキームは、ライブドア内のディープスロート(情報提供者)とSECの協力がなければ見破れなかったと思う。SECが検察の植民地と化し、手柄を召し上げられているのではないか。

本来、証券監視委は事件になる前に「前さばき」で、こういう怪しい事案が出たら、会社幹部を呼んで警告し、暴走を食い止めねばならない。それが特捜出向のスタッフが来るようになって、特捜の得点にならない前さばきが疎かになり、事件化のための下請け化してしまったのではないか。一見、無能に見えても、実は捜査と行政のはざまに問題はあり、一方的な無能呼ばわりには歯軋りしているだろう。

で、それを含めてこのいささか歪んだライブドア捜査が、「国策捜査」と呼べると思った。すると、尊敬するある記者から電話がかかってきて、「国策捜査」と書いた真意を聞きたいという。

国策とは、捜査に国家権力の意志が露骨に発動されているということである。ライブドアの弁護をするつもりはないが、株高を利用してBS/PL(貸借対照表/損益計算書)をお化粧することといい、投資事業組合を隠れ蓑(それ自体としてはそう複雑でない)にした数字の操作といい、手を染めている企業は少なくない。規制緩和のおかげである。ホリエモンが違法性を意識してようがいまいが、そのグレーゾーンはライブドアしか見つけていない特別の抜け道だったとは思えない。

それでもライブドアを狙い撃ちにしたのはなぜか。法の平等を守るなら、同じような企業はいくらもあり、彼らは首をすくめてライブドアの行方を見守っているに違いない。が、検察のいう「一罰百戒」の「一」にどこを選ぶかは、検察のサジ加減ひとつだ。いやな言葉だが、「訴訟経済」ともいう。違法案件全てを特捜で捜査し起訴していたら検事の手が回らないし、国家的にも無駄が多いという論理である。一点だけ撃ってすべてに行き渡れば、これほど経済的なことはない。

しかし、いくら買収また買収で規模を膨らませてきた虚業に近いとはいえ、一時は時価総額8000億円を超え、株主23万人、グループ社員2000人以上の東証マザーズ上場企業である。上場廃止に追い込む容疑にしては、証取法の「風説の流布」と「偽計」は弱い。「粉飾決算」がついたとしても、ガサいれからわずか1週間で堀江社長ら3取締役を逮捕、「生きている企業」にいきなり死刑宣告する理由になるのだろうか。

その疑問点から「国策」と呼んだのだ。たまたま、90年代に経営破たんした長期信用銀行のOBと食事をしたが、東京地検特捜部が頭取ら幹部を逮捕するには、まず辞任させて後任が決まってから、とそれなりに企業存続に配慮したものだ。当時の地検は「いきなり社長や頭取を捕まえたら、生きている企業が立ち倒れしかねない。それは検察の望むところではない」と説明した。

それが今回は違った。のっけからホリエモンを撃沈させる直線的な手法は、ライブドアの株主も社員も考慮の外にある。虚業に「投資」した自己責任、ヒルズ族の幻影に目がくらんで就職した愚を思い知れ、といわんばかり。検察首脳にとっては「私益」にすぎず、資本市場の根幹を揺るがすルール破りを正す「公益」の前では、何ほどのことでもないらしい。が、路頭に迷う側からは、この「国策」に釈然としないに違いない。

くだんの記者は言う。「売り注文が殺到して東証が取引を全面停止したのは検察の想定外だったかもしれないが、せっかく回復しかけた株式相場を壊すだの、デイトレーダーを含めて広がった市場のすそ野が萎縮するだの、特捜はまったく考えていないでしょう。それが統治者の論理です。結局、問題は統治権力に判断する(あるいは無視する)権限が与えられているか、の統治権力論に帰する」と。

「しかし」と私は反論した。ヒューザーの証人喚問ばかりに目を奪われていた首相官邸は事前に報告を受けていなかったという。飯島秘書官には寝耳に水だったそうだ。総選挙で「刺客」としてホリエモンを応援したダメージばかりではない。官邸に知らせないのは「検察がバッジを狙っているから」で、官邸から漏れないようにしたのではないのだろうか。バッジとはもちろん議員バッジである。政界からはブーイングが出かねないが、小泉政権の末期を見越した「国策捜査」には意味がある。

もうひとつ、斧で切り倒すようにライブドアを根こそぎにしたのは、すでにアングラに汚染されていて、国家には看過しがたくなっていたとも考えられる。ライブドアが12月に買収した不動産会社は、昨年6月に社長が覚せい剤所持で逮捕される不祥事を起こしてキナ臭い。フジテレビとのニッポン放送株買収戦が終わったころ、潤沢になった資金を芸能プロダクション買収にあてようとしたこともあったという。気が大きくなった彼らが、アングラに食いつかれる隙はいくらでもあった。

いや、ヒルズ族の前身、(渋谷)ビット・バレーのベンチャー経営者の中には、ダイヤルQ2など風俗産業を出発点にしている人もあり、当初からアングラの影がちらつく。ライブドアに限らず、渋谷や青山で大手を振って歩いていた「若造たち」の錬金術も、かねてから広域暴力団が絡むとのうわさが流れている。その腐敗にメスを入れるところまで検察の捜査が及ぶなら、この「国策」捜査の公益性はあると言っていい。

だが、そこまで捜査は視野に入れているのか。検察は立件に自信満々らしい。しかし、それが「粉飾」程度でとどまり、ディープスロートがライブドアの実権を握って、潤沢なキャッシュフローをわがものにする手助けで終わるなら、この「国策」捜査は歪んでいると言わざるをえない。