阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2006年1月10日 [ソニーの「沈黙」]ソニーの「沈黙」16――「臭いものにフタ」の予備的和解

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1月10日は黄禹錫(ファン・ウソク)問題の最終結論をソウル大学調査委員会が発表することになっているから、「ネット愛国主義の胚5」を載せようと思っていたが、予定を変更せざるをえない。しばし、ソニーに逆戻りである。

正月明け早々、音楽CDのスパイウエア問題で動きがあったからだ。ソニーBMGが集団訴訟の和解にこぎつけた、とのフラッシュニュースが流れた。やれやれ、容赦ないね。松の内くらいゆっくりさせてもらえないものか。それほど律儀なソニー・ウォッチャーではなく、毎日、ネットをチェックしているわけじゃないんだから。

とにかく、発信源はサンフランシスコの法律事務所ジラード、ギブス&デ・バルトロメオとニューヨークの法律事務所カンバー&アソシエーツだった。ジラード・ギブスは95年設立でパートナー5人、アソシエーツ6人と規模は中堅どころ。数多くの集団訴訟を手がけていて、ソニーのウォークマンを蹴落とした携帯オーディオ「iPod」の初期モデルが「表示より電池の持続時間が短い」として起こされた消費者の集団訴訟でも原告代理人をつとめた。

和解についての発表文をネットで報じたZDNetやCNETの記事はちょっと正確さに欠ける。和解で決着したのではなく、正確には和解の一歩手前の「予備的和解」(Preliminary settlement)である。ジラード・ギブスの発表文そのものを直に翻訳しよう。

ソニーBMG・エンタテインメント社とサンコム・インターナショナル社、ファースト4インターネット社は、数百万枚のソニーBMG製音楽CDに搭載された著作権管理ソフトのセキュリティー上の欠陥を含む、全米規模の集団訴訟の和解に同意した。

ジラード・ギブスは、このニューヨーク南部地区裁判所の訴訟番号No.1:05-cv-9575-NRB、「ソニーBMG製CD技術訴訟」と呼ばれる集団訴訟において、法廷指名の原告側共同代理人として(被告側)提案の和解に達したものである。

解説を加えておこう。サンコムとは、音楽CDに組み込んだコピー制限機能ソフトMediaMaxを開発したアメリカの業者、ファースト4インターネット(F4I)は同ソフトXCPを開発した英国の業者で、いずれもユーザーのパソコンの基本ソフトを同意なしに書き換えてガードに穴をあけ、個人情報をソニーBMGに密かに流す「スパイウエア」だとしてソニーBMGとともに被告になっていたのだ。

和解案は被告三社の代理人である弁護士ジェフリー・ジェイコブソンと「仮想的な徹夜の和解交渉」(virtual round-the -clock settlement negotiation)」の末に合意したもの。地区裁判所が予備的に了解している模様で、正式に妥当と承認すれば実効性を持つ。ジラード・ギブスとカンバーが各地で起きた集団訴訟のどれだけを代表している代理人なのかはまだはっきりしないが、発表文の後半はこう書いてある。

この和解は(法的な)承認を得れば、CD使用に課す制限とこのソフトのもたらす脆弱性について適切に開示することなく、ソニーBMG、サンコム、F4Iの3社がXCPとMediaMaxを搭載したCDを設計・製造・販売する詐欺的行為を行ったという訴えを解決するだろう。

この和解提案は、XCPおよびMediaMaxを組み込んだソニーBMG製CDを買ったり、もらったり、使ったりした米国の消費者に救済措置をもたらす。この和解のもとで、XCP付きCDを持つ人は誰でも(XCPなしの)CDと交換するか、同じアルバムをMP3方式(の圧縮ファイル)でダウンロードしていい。さらにインセンティブがついていて、(a)7.5ドルの現金と一枚のアルバムを無料ダウンロードするか、(b)3枚のアルバムを無料ダウンロードしていい。

また、MediaMax 5.0付きのCDを買った人は、同じアルバムをMP3方式で無料ダウンロードし、もう一枚別のアルバムを無料ダウンロードしていい。MediaMax 3.0付きのCDを買った人は、同じアルバムをMP3方式で無料ダウンロードしていいが、インセンティブはついていない。

なんだか、寅さんの口上みたいである。「タダのおまけをつけてやっから、文句は言いっこなし」か。これに付加する和解条件の要約は以下の通りである。

(1) XCPおよびMediaMax搭載のCDの製造を中止する。
(2) XCPおよびMediaMaxによって引き起こされたセキュリティーの欠陥を修復するアップデートを利用可能にする
(3) XCPおよびMediaMaxをコンピューターから安全に除去(アンインストール)するソフトを配布する。
(4) MediaMaxおよびソニーBMG製CDに組み込まれた他のコンテンツ保護ソフトで将来セキュリティー上の欠陥が発生した場合も修復する
(5) XCPおよびMediaMaxによって、ソニーBMG製CDのユーザーの個人情報を収集しなかったし、これからも収集しないと第三者に証明させる
(6) XCPおよびMediaMaxソフトの使用許諾承認契約(EULA)のある規定を削除する
(7) 他のどんなコンテンツ保護ソフトでも、はっきりと開示し、第三者にテストさせ、除去できるようにすることを保証する。

ソニーにとって、これでめでたしめでたし、なのだろうか。詳細はジラード・ギブスが公表した長文の「和解提案」と地区裁判所に提出した「予備承認申請書」を目を皿にして読みこんでもらわなければならない。

明らかにソニーは集団訴訟の決着を急いだ。長期の法廷闘争でイメージが悪くなるのを避けたかったのだろう。懲罰的な巨額の賠償も避けられたし、スパイウエアの除去ソフト配布などはすでに約束しているから、さほどの持ち出しでもない。が、最大の問題は、轟々たる非難を浴びたスパイウエアの難点をほとんど認める全面屈服に近い和解なのに、ひとことの謝罪も陳謝もなく、法廷で決着済みとしてさっさとフタをしようとしていることだろう。

現に、ジラード・ギブスがこれだけ詳細に発表しているのに、ソニーBMGもソニー本体も6日まで何のプレスリリースも出していない。ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOは5日、ラスベガスの家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」で会見に臨んでえらく楽観的な業績回復予想を口にしたが、スパイウエア問題では一般論しか口にしていない。リコールとお詫びの大盤振る舞いでソニーBMGはいったいいくらの損失を抱え、音楽部門の知財戦略はどう立て直すのか。聞きたいことはいくらもあるが、事実上の「沈黙」はまだ続いている。