昔、「クレムリノロジー」という言葉があった。誰も分からないソ連共産党中枢――クレムリンの暗闘を分析することだが、裏の意味があった。クレムリンの中なんて、スパイかCIAでもなけりゃ、どうせノーバディー・ノウズ。それをいいことに嘘八百を並べること(そういうソ連専門家に対する嘲笑)を言った。今ならさしずめ平壌ノロジーというところか。何せ材料が乏しいから、誰も否定できず、いくらでも知ったかぶりをして、おどろおどろしく書ける。で、誰でも評論家になれるから、いい世の中である。
しかしネタもとは存外、孫引きのマユツバ話なのだ。英国王室報道なども同じである。私がロンドン駐在時代にダイアナ妃が事故死したが、日本の報道はほとんどタブロイド紙の引き写し、王室に何の縁もない特派員(あげくに中公新書まで書いた)が、滞英15年を看板にしたり顔しているのは笑止だった。