阿部重夫主筆ブログ「最後から2番目の真実」

2005年12月11日 [ソニーの「沈黙」]ソニーの「沈黙」2――切込隊長の辛らつな「抑制」

  • はてなブックマークに追加

前回の続き。ソニーの尻尾をつかむために、取材で一歩一歩問い詰める第二編である。

質問状で触れたウォークマンAシリーズの「コネクトプレーヤー」とは、パソコンに組み込む楽曲転送ソフト(iPodではiTunesにあたる)で、その不具合がAシリーズへの不満の中心だった。その改訂版提供の発表は質問状を送った11月29日に行われ(実施は12月2日)、ソニー自身が認めた「問題点」は以下のように10項目と多岐にわたる。

  • 再生中や録音中にコネクトプレーヤーで他の作業を行うと“不正な処理のエラー”が表示されたり、フリーズすることがある。
  • CD EXTRAを認識しない。
  • 大量の曲の転送を何度も実施した後に、コネクトプレーヤーのライブラリの曲が表示されないことがある。
  • コネクトプレーヤー上でウォークマンAシリーズ内の曲のメタデータを編集しても、ウォークマンAシリーズに反映されないことがある。
  • 約1000曲のチェックアウトを連続して行うと、転送が正常に完了しないことがある。
  • 「Gracenote CDDB(r)の登録」に失敗すると、その後登録ダイアログが表示されない事がある。
  • Windows2000環境で、曲にジャケット画像を登録するとコネクトプレーヤーが動作しなくなることがある。
  • コネクトプレーヤーでウォークマンAシリーズのフォーマット中に、アプリケーションエラーが発生することがある。
  • ライブラリで曲の並び順を変更後にほかの分離を表示すると、変更した並び順が反映されない。
  • その他の改善

ボロボロじゃないの。これだけ多いと、やはり「欠陥商品」と言われてもしかたがないのではないか。ここから浮かび上がるのは、ソニー技術陣のソフト開発力がえらく低下していること、製品発売前の事前のチェックがおざなりなことである。ある関係者にいわせると「1000曲以上の転送ができない」なんて致命的なバグ(欠陥)は、チェック段階で数百曲の転送しかしなかったことを示すもので、ソニーのMP3の旧ソフト「ソニックステージ」で1万曲保存などザラという現状を自覚していなかったのではないかという。ソニー信者が怒り心頭に発したのも無理もない。

たまたま1日発売の文藝春秋社の月刊誌「諸君」で、知人の投資家兼ブロガー山本一郎氏(「俺様キングダム」の切込隊長)が書いた「ソニーの遺伝子『消失』の危機」という記事を読んだ。読んでいない人のために、要旨を掲げると、

  • 本業のAVで落ちた利益率をゲームと金融で補っているのが現状で、牛丼を売れない吉野家がカレーで息をついているにひとしい。
  • 今期売上高7兆2500億円、経常益400億円の見込みだが、事業部としてみると中堅クラスのメーカーがひしめているにすぎない。
  • 大賀時代にメカトロニクス(ハード技術)終焉を見抜けず、出井時代に「デジタル・ドリーム・キッズ」を唱えたが、笛吹けど踊らずに陥ったのが今日の苦境の原因
  • サムソンに比べ資本調達力も研究開発費も見劣りし、自力回復は絶望的。いま必要なのはストリンガー・中鉢路線の縮小均衡でなく、規模拡大である。

いちいちもっともである。見出しは陳腐なだが、これは編集者が考えたのだろう。中身はしごくまっとうな分析で、昔ならこういう財務分析は新聞の証券面あたりできっちりやっていたはずだが、いまはそういう伝統が薄れた。彼のような32歳の多才な書き手に“領空侵犯”されても、指をくわえて見ているほかないとは既存ジャーナリズムも情けない。

切込隊長は「2ちゃんねる」の裏の裏までよく知っていて、ブログで一声かければファンを大量動員できるが、今回はあえてソニーのIR(投資家向け広報)資料と新聞・雑誌などの資料だけで書いたという。ソニーOBの現体制批判が聞こえてくる立場にあるらしいから、こういう抑制はかえって恐ろしい。「満腔の賛意」と賛辞をメールで送ったら、切込隊長から「汗顔のいたりです」と返事が来た。あえて尊大な文体をつかうブログと違って、生身の彼は丁重である。