気宇壮大ベンチャー!京大発「セラバイオファーマ」

「赤は入る 緋色のウコン」

2020年11月号 BUSINESS

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京都大学発バイオベンチャー「セラバイオファーマ」が10月に発売した、超高吸収型クルクミン製剤「クルクルージュ」のキャッチフレーズである。ウコンと聞けば二日酔い予防策としてお馴染みだが、その活性化成分こそがクルクミン。古くからインドではカレーに用いる香辛料・着色料、中国では漢方として用いられ、米国では安全な食材として認可されている。

クルクミンには肝臓強化、健胃作用、抗加齢効果が認められており、最近では抗炎症・抗がん作用を目指す研究が盛んに行われている。健康長寿に役立つクルクミンの難点は、体内吸収性が極めて悪く、いくら摂取しても99%以上が体外排出されてしまうこと。セラバイオファーマが開発したクルクルージュは、黄色のクルクミンを赤く変化させて画期的に吸収性を改善した新製剤。同社が培った高吸収性技術をベースに、より高度な分散技術と非晶化技術等を組み合わせて「世界最強の高吸収(赤は入る!)」を実現した。京大薬学部と医学部から科学技術顧問を迎え入れた同社は、国内約30の大学・医療機関とネットワークを結び、ヒト試験で「普通のクルクミンより150倍以上の血中濃度を達成した」と胸を張る。

創業者の橋本正社長

かながわサイエンスパーク(KSP)の一角にセラバイオファーマが産声を上げたのは2016年8月。創業社長の橋本正氏は当時既に64歳。京大工学部で量子化学を福井謙一教授(ノーベル賞受賞)から学び、31歳の若さで分析機器大手の「日本ウォーターズ社長」に就任。その後、米国大塚製薬の副社長や日本コカ・コーラ副社長を歴任、出世街道を謳歌していた。転機は07年に訪れた。橋本氏は、かねて夢であったバイオベンチャー(セラバイオファーマの前身)を独りで立ち上げた。当時55歳だった。

「クルクミンは裏切らない!」

「天然素材の潜在力を最大限引き出し、革新的な製品・技術を全世界に提供する」ことを目指す橋本氏の水先案内人はアンジェス創業者の森下竜一阪大教授だった。当時、森下氏はアルツハイマー病の予防にクルクミンが役立つと研究発表していた。

長谷川浩二医師

クルクミンに興味を持った橋本氏が、その潜在パワーに魅せられたのは07年9月、京都医療センターの長谷川浩二医師(現在、同センター展開医療研究部長)との出会いが決定的だった。長谷川氏は心不全研究の世界的権威であり、心不全の引き金となる「p300」という転写因子の活性を抑制する成分がクルクミンであることを突き止め、心不全モデルの動物実験で劇的に効くことを確認していた。

「生活習慣の欧米化に伴う冠動脈疾患の増加や、高齢化に伴う高血圧や心臓弁膜症の増加に伴い、心不全患者は急増しています。とりわけ治療薬がない左室拡張不全の予防には高吸収クルクミンが最適です。この安価で安全性が確認された天然物が機能性素材として普及したら、心疾患死亡が減少し、日本人の寿命は10年延びるでしょう」

熱っぽく語る長谷川医師と意気投合した橋本氏は、迷うことなく「高吸収クルクミンを開発し、健康長寿の予防医療に役立てる」ことを生涯の目標に据えた。そんな橋本氏を、長谷川医師は「何よりも60代半ばで『少年よ大志を抱け!』といった探求心と行動力、尋常でない人間的魅力を持った滅多にいないオジサン」と評する。その後、一途な橋本氏は失敗を繰り返しながらも、世界で初めて数百ナノメータという微粒子に分散製剤を組み合わせた「高吸収製剤」の開発に成功したものの、市販の類似品に埋没し、最初の起業は失敗に終わった。

しかし、橋本氏は諦めなかった。「クルクミンは裏切らない!」と、私財を投じて再起業したのがセラバイオファーマである。満を持して発売した新製品は、最大のバイオアベイラビリティーを達成すると共に、世界でオンリーワンの「緋色」による差別化にも成功。「60歳以上の死因の7割以上が慢性炎症に起因する病気といわれています。その体内因子の抑制剤としてはステロイドが有名ですが、副作用が非常に強い。慢性炎症をマイルドに抑制してくれるのがクルクルージュの特長です」(橋本氏)

「サイトカインストーム」を抑制

「医薬品の開発で発見したことは機能性素材にもすぐに応用・利用でき、そのまた逆も成立する」が持論の橋本氏は、リスタートと同時にハードルが高い医薬用途にも乗り出した。京大が保有するケミカルバイオテクノロジー研究や創薬化学研究などに関する基礎研究や臨床開発能力を適切に活用し、クルクミンが持つ潜在能力を最大限に引き出す革新的な抗がん剤やメカニズムを研究開発し、難治性疾患や希少疾患への応用を目指す。気宇壮大なベンチャーである。

セラバイオファーマは17年、世界で初めて静脈投与可能な、安全性の高い水溶性*プロドラッグ型クルクミン(CMG)を開発し、従来のクルクミン経口投与剤に比べて1千倍以上の血中濃度を達成した。この濃度は、抗がん作用や抗ウイルス作用を発揮できるレベルをはるかに超え、抗がん薬や抗ウイルス薬としての開発が期待される。

同社は現在、国立感染症研究所や京都医療センターとCMGを用いた新型コロナウイルス感染症治療剤の開発に取り組んでいる。クルクミンには、肺炎の重症化要因となるサイトカインストームや血栓症を抑制する抗炎症・抗凝固作用があり、感染・増殖の抑制から肺炎・合併症の抑制・予防まで幅広く対応できる可能性があるという。

さらに、難治性がんでは▽京大大学院医学研究科と共同でCMGを用いた多発性骨髄腫に対する治療剤開発▽国立がん研究センターと共同でグリオブラストーマ(悪性脳腫瘍)の治療剤開発▽京大病院腫瘍内科と共同でオキサリプラチン耐性大腸がんの治療剤開発を行っている。また、膝の痛み(変形性膝関節症)にもCMG注射剤が効くことが、動物実験でわかっている。

セラバイオファーマは日米欧でCMGの基本特許を出願し、効果と安全性を調べる動物実験をはじめているが、開発スピードを加速するには億円単位の追加資金が必要だ。来年古希(数え70歳)を迎える橋本氏の「新薬の夢」は叶うだろうか。

   

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