「ゆうこりん」芸能プロの脱税商法

小倉優子や眞鍋かをりの所属プロ社長がアイドルからむしり取る手口とは。

2009年3月号 BUSINESS

  • はてなブックマークに追加

「グラビアアイドルなんて興味ない」と仰るお堅い「FACTA」の読者でも、“こりん星から来た不思議少女”小倉優子(25)や“ブログの女王”眞鍋かをり(27)はご存じだろう。その2人が所属する(形式的に言えば「していた」)芸能プロダクション「アバンギャルド」と牧野昌哉社長(41)が昨年末、脱税の疑いで東京国税局から刑事告発された。業界でも「カネにうるさいので有名」な牧野社長の脱税の手口は呆れるほかないが、現在は所属タレントとのトラブル処理をめぐり苦境に立たされているという。

牧野社長は大手芸能プロ「バーニングプロダクション」系列の「アーティストハウス・ピラミッド」でスカウトマンをしていたが、1989年ごろ独立し、92年にアバンギャルドを設立した。「スカウトマン上がりだけに、売れそうな若い女の子を見つける眼力だけは相当なもの」(芸能プロ関係者)。藤崎奈々子や山川恵里佳など、スカウトしたタレントがテレビや雑誌のグラビア・アイドル賞を次々と受賞していく。さらには99年デビューの“現役国立大生タレント”眞鍋かをり、2001年にデビューした“ゆうこりん”こと小倉優子が大ブレークし、アバンギャルドの存在感は高まる一方だった。

ダミー会社をフル活用

だが、それに反して牧野社長の評判はすこぶる悪い。ある民放のバラエティー番組制作担当者は「事務所が大きくなってからも、牧野社長はギャラの交渉には自ら出てきて、落とし所が分かっていながら法外な値段を吹っかけてくる。最後は500円、1000円単位でギャラを吊り上げようとするし、とにかくセコいんです」と話す。

芸能プロ関係者によると、具体的な話は例えばこうだ。あるグラビア雑誌がアバンギャルド所属の売れっ子タレントを表紙に使うことにしたのだが、ギャラはどんなタレントに対しても一定の額と決まっていた。粘ってもギャラを吊り上げられないと分かった牧野社長は、売れっ子タレントの他に2人の所属タレントをプラスして3人分のギャラをせしめたという。後から付けられた2人が表紙に使われることは、もちろんなかった。

こんな話もある。ある売れっ子タレントのマネージャーが労働条件のあまりの過酷さに耐えかねて辞めることになった。牧野社長はこのマネージャーに退職金を払わなかっただけでなく、タレントの送迎に使った社有のワゴン車を買い取るよう命じた。マネージャーは抵抗したが、結局は購入費の半値で買い取らされた。いやはや、何ともである。

今回の脱税スキームにも、こうした牧野社長の「セコさ」が遺憾なく発揮された。脱税に使われたのは二つの関係会社。一つは02年の設立で、アバンギャルドとは一字違うだけの不動産会社「アヴァンギャルド」。そしてもう一つが、金属加工販売会社の「マテック」。法人登記をみると、両社とも本業に加えて芸能プロダクションの業務を持っているが、もちろん活動の実態がないダミー会社だ。

「マテック」は本来、牧野社長の父親の会社だったもので、アバンギャルド設立2年後の94年、芸能プロの業務を付け足して社名変更したようだ。役員は「アヴァンギャルド」が牧野社長と父親、それに実の姉の3人で、監査役には実の妹が就任。「マテック」の役員は父親だけで、「外部にはカネも情報も漏らさない」という徹底ぶりだ。

脱税の手口も実に込み入ったもので、査察に入った東京国税局も「当初は解明に手を焼いた」(国税関係者)という。最大のものはアバンギャルドが関係会社に支払ったように見せかけていた“移籍金”。実際にはアバンギャルド所属のタレントなのに、関係会社から引き抜いたように装って“移籍金”の名目で架空の経費を計上していた。

そしてもう一つが“撮影協力費”。アバンギャルドと関係会社との間でタレントを派遣しあい、派遣された側が派遣した側に“撮影協力費”と称する費用を支払っていたが、実際にはタレントはアバンギャルドの所属で、関係会社にはいないのだから、これまた架空経費だ。芸能プロ関係者は「こうした工作に使われていたのは、まだ駆け出しであまり有名ではないタレントが大半だったようだ」と解説する。

さらに念入りだったのが、国税関係者の間で“グルグル回し”と呼ばれる「架空経費の付け回し」だ。「アバンギャルド」「アヴァンギャルド」「マテック」の決算期はおのおの異なっており、この三つの会社の間で「決算期が近づくと別の会社に“撮影協力費”など架空経費を支払って所得を減らす」という経理操作を繰り返していた。

このほかにもタレントや事務所スタッフの「カラ出張」、社長自身の私的な旅行への流用など、まさに悪質な所得隠しのオンパレード。さすがのマル査も、踏み込んでから刑事告発に至るまでに約10カ月もの期間を要した。

こうした手法で隠した所得は06年12月期までの3年間で約11億4千万円、脱税額は約3億4千万円にものぼり、抜いたカネの大半はダミー会社名義の口座に隠していた。

まるで現代の「蟹工船」

牧野社長自身は渋谷区の超高級マンションに住むだけでなく、高級ホテルを泊まり歩いてもいたという。その一方で、所属タレントやスタッフのギャラは「固定の月給制で、芸能界でも有名な低レベル」(芸能プロ関係者)だという。ある出版関係者は「デビュー間もないころの眞鍋かをりの月給はたった7万円。国税局の査察が入った08年2月の時点で、事務所を支える一大スターになっていた小倉優子でさえ、月400万円程度に過ぎなかった」と打ち明ける。国税関係者も「査察に入った調査官が、所属タレントのあまりのギャラの安さに『まるで現代の蟹工船だ』と驚いていた」と話す。

「査察が入った直後には『きっと逮捕される、もう終わりだ』とひどく落ち込んでいた」(バラエティ番組制作担当者)という牧野社長。査察の翌月には社名を変更し、自分に近い存在の男性が社長を務める別の芸能プロ「アヴィラ」に所属タレントを移籍させていたが、容疑を認めて納税したこともあり、最近では「もう自分はセーフだ」と周辺に漏らしているという。

しかし、ある芸能プロ関係者は「牧野社長はもう一つの火種を抱えて苦境に立たされている」と指摘する。ご多分に漏れず、牧野社長も自分が気に入った所属タレントをすぐ口説きにかかるので不評を買ってきたが、そうしたなか2年ほど前、売れっ子の所属タレントとの間でトラブルが発生。タレントが激怒し、牧野社長は弁護士を通じなければこのタレントとコンタクトできないという非常事態に陥ったのだ。そこに介入してきたのが、いまや“飛ぶ鳥を落とす勢い”と言われる某芸能プロだったという。

前出の関係者は「牧野社長もここには頭が上がらず、仲介手数料として、そのタレントのテレビ出演料の約7割を納めている」と話す。

そして、この某芸能プロには国税当局が深い関心を示しているとされる。それにしても芸能界というところ、門外漢には全くの魑魅魍魎の世界としか言いようがない。

   

  • はてなブックマークに追加