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阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」

2011年01月04日

ののちゃんとファド5――Gaivota(カモメ)

年賀ブログに続いて、再度ユーチューブを使って、小生が原訳したファドを槇さんの歌でお贈りしましょう。

今度は同じくアマリア・ロドリゲスの持ち歌ですが、この悲しい旋律と歌詞を聞くたびに、ポルトガルの首都リスボン(リシュボア)の波止場に広がるテージョ川の水面とそこを舞う白いカモメの群れを思い出します。

ポルトガルへ行ったのは、私がロンドン赴任時代ですから、もう10年以上経ちました。記憶もおぼろげになっていますが、最近は『不安の書』のフェルナンド・ペソアの詩を時々読んでは、忙しくて行けない渇を癒しています。

ペソアは生涯孤独で、リスボンをほとんど出ることなく、いくつものペンネームを使い分けた二十面相のような詩人で、その名を知ったのは亡くなった須賀敦子さんが、アントニオ・タブッキの不思議な味わいのある小説を翻訳していたからです。そこでは影のようにペソアが見え隠れしています。

タブッキはイタリア人ですが、よほどポルトガルとペソアが気に入ったとみえて、「フェルナンド・ペソア最後の三日間」や「レクイエム」、そして「島とクジラと女をめぐる断片」など自作で何度も登場させています。

ポルトガルの海』と題したペソアの邦訳詩集もありますが、やはり辞書を引きながらでもポルトガルの原詩か、ペソアが堪能だった英語で書いた詩を読むのがいちばんいい。

そして、ペソアの詩がたたえる茫洋とした悲しみは、このGaivotaと通じるものがあります。彼の無名性への渇望は、大航海や放浪で消えていった多くのポルトガル人に共通するものがあります。

このファドGaivotaの「七つの海を越えて」にはかつて海を越えていった海洋民族の矜持とノスタルジーがこもっていて、失われた栄華と失われた恋が重ねられます。

あまりにもったいないので、原作者に敬意を表して後半は原詞のままにしています。


投稿者 阿部重夫 - 00:00| Permanent link | トラックバック (0)

2011年01月02日

謹賀新年(ののちゃんとファド4)

あけましておめでとうございます。

FACTAの読者の方々にも、それ以外の潜在読者(?)の方々にも、お年賀がわりにブログでご挨拶申し上げます。小誌は今年5周年を迎えますが、この多難な時代のささやかな羅針盤として、一層の研鑽を積む所存ですので、よろしくお願い申し上げます。

さて、小誌は全身これアイクチといった雑誌ですが、6年目に入ったら少し幅を広げていこうと思っています。人はパンのみにて生くるものに非ず、雑誌もファクツだけでは時に息苦しくなりますから。

でも今はまだお正月で、みなさんもお屠蘇気分ですから、その先触れとしてすこし軽やかな気分のトピックスで年初を飾りましょう。

09年と昨年にこのブログで「ののちゃんとファド1」「ののちゃんとファド2」「ののちゃんとファド3」を載せたことがあります。朝日新聞朝刊社会面の4コマ漫画「ののちゃん」に時々登場する、キクチ食堂のお手伝い兼高校生ファド歌手、吉川ロカの話題です。

作者のいしいひさいちがファド・ファンであることは、時々、ポルトガル語の歌詞が謎かけみたいにいきなり漫画に現われることで分かります。ポルトガルの演歌ともいうべきファドに疎い方々のために、ブログでその種明かしを試みました。

小生の知人にもファドを歌う女性(槇さん)がいて、頼まれてできるだけ原詞に近い日本語訳(譜割りがあるのでかなり省略せざるをえませんが)にしてみました。昨年、彼女のライブがあり、撮った動画がYoutubeにアップロードされたので、ここでその歌詞とともに紹介しましょう。

投稿者 阿部重夫 - 19:00| Permanent link | トラックバック (0)

2009年11月17日

ののちゃんとファド2――LUSOの秘密

朝日新聞の社会面連載マンガ「ののちゃん」に時々でてくる、不遇の高校生ストリート・ミュージシャン、吉川ロカが、ファド歌い(ファディシュタ)であることは、ファド好きの人たちの間ではよく知れわたっているらしい。

ののちゃんとファド1」で紹介した知人で、ファドのCD「桜桃酒」を出したばかりの槇さんが、「LUSO」の謎解きを教えてくれたので紹介しよう。

前回引用した「謎の婆」(4272回)の3コマ目で、「ウェーン」と吉川ロカが泣き伏せる店のシャッターに「LUSO」と落書きがしてある。あれは何のこっちゃと思っていたら、槇さんが解説してくれた。

LUSOはポルトガルの地名で、鉱水がでるのか、ポルトガルのミネラルウォーターのブランドに「LUSO]があるという。また、そういう名のカーサ・デ・ファドもあるそうだ。

ふうむ、いしいひさいち、いよいよ芸が細かい。しだいに「磯野家の秘密」みたいになってきた。

その槇さん、11月12日に東京・四谷のポルトガル・レストラン「マヌエル」で行われたLIVEに行って来た。

ファドのポルトガルギターを弾ける人は日本でも数少ないが、もっともよく知られたアコースティック・デュオ「マリオネット」(ポルトガルギター湯淺隆、マンドリン吉田剛士)のLIVEである。私は雑誌の編集作業があって行けなかったが、彼女はお礼をかねて聴きに行っている。

投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (1)

2009年11月05日

ののちゃんとファド1――ロドリゲスの「春」

朝日新聞は商売柄、よく読むと言ってあげたいところだが、最近はさっと目を通すだけで、ほとんど関心の外にある。どうも中身が後ろ向きで、「新聞」というより「旧聞」といったほうがいいような気がする。

どうせ万古不易なら、いつまでも年をとらない「さざえさん」でいい。その後継者ともいうべきいしいひさいちの漫画は「タブチくん」以来のファンだが、最近は毎日読む習慣がなくなったせいで、あの大勢の登場人物が把握できなくなってきた。それが11月3日朝刊の4465回を見てはっとした。

山田家の隣のキクチ食堂でバイトしている高校生のストリート・ミュージシャンが歌う歌詞が目に飛び込んできたからだ。漫画は吉川サンが文化祭で歌おうとして、先生の服装審査を受けるシーンなのだが、その歌詞が「Ai funesta primavera」とある。ポルトガル語で「ああ、不吉な春よ」という意味だ。

投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)

2008年05月29日

1957年のグールド

過去の自分の文章をちょっと引用させていただこう。日本経済新聞1991年12月21日付朝刊の芸術特集「美の回廊」の文章である。

グレン・グールドは、ひとつの神話だった。演奏をこの目で見、聞いた日本人は数えるほどしかいない。ソニーの大賀典雄社長はそのひとりだ。一九五七年、留学先のベルリンで見た印象を今もありありと覚えている。

「えらくイスを低くして、手長ザルみたいなんだね。ベートーベンの協奏曲三番の長い前奏の間、指揮のカラヤンを尻目に、ピアノの前でタクトを振るように手が舞うんだ。驚いたね。いざ弾き出すと、目のさめるような音で、強烈な欧州デビューだった」(「最後の風景」4 孤独の化身の誘惑)

われながら懐かしい。当時の肩書きは金融部編集委員兼論説委員。それがなぜか「美の回廊」取材チームに投入され、同年12月にカナダのピアニスト、グレン・グールドを取り上げた。大賀氏に思い切って取材を申し込んだのは、ソニー入社前、ベルリン国立芸術大学に留学していたころ、カラヤンとグールドという奇跡の競演を目撃した日本人と聞いたからだ。正直、気安く快く応じてくれたのには驚いた。

投稿者 阿部重夫 - 10:00| Permanent link | トラックバック (0)

発行人 阿部重夫

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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