阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
ののちゃんとファド1――ロドリゲスの「春」
2009年11月05日 [音楽]
朝日新聞は商売柄、よく読むと言ってあげたいところだが、最近はさっと目を通すだけで、ほとんど関心の外にある。どうも中身が後ろ向きで、「新聞」というより「旧聞」といったほうがいいような気がする。
どうせ万古不易なら、いつまでも年をとらない「さざえさん」でいい。その後継者ともいうべきいしいひさいちの漫画は「タブチくん」以来のファンだが、最近は毎日読む習慣がなくなったせいで、あの大勢の登場人物が把握できなくなってきた。それが11月3日朝刊の4465回を見てはっとした。
山田家の隣のキクチ食堂でバイトしている高校生のストリート・ミュージシャンが歌う歌詞が目に飛び込んできたからだ。漫画は吉川サンが文化祭で歌おうとして、先生の服装審査を受けるシーンなのだが、その歌詞が「Ai funesta primavera」とある。ポルトガル語で「ああ、不吉な春よ」という意味だ。
言わずと知れた「ファドの女王」アマリア・ロドリゲスの「春」(Primavera)の一節である。なにも知らない教師には「インドネシア語か」と言われて「ポルトガル語です」と吉川ロカはむっとするが、ファドを知らない読者にはチンプンカンプンの謎かけである。
あれれ、いしいひさいち、いつのまにかファドファンになっていたのか。
と思って調べたら、「ののちゃん」4272回にはその歌詞が日本語で載っていた。
ああ、不吉な春よ
夜は影を追い
やってくる
わたしたちに
投げ与えられるのは
孤独という固いパン
後ろに伴奏としてポルトガルのギターラを抱えるいがぐり頭の男の子がいるから本格的だ。しかしシャッターの前に立つこの3人の歌に耳を傾けるのは「演歌」とまちがえて拍手するお婆さん(キクチ食堂のおばあさん)一人だけ。吉川ロカは「ウェーン」と泣くが、ところがどっこい、この婆さんがタダ者ではない。
『モウラーリア』は走りすぎじゃが『アルファーマ』はよう歌いこんどる
と、ファド通でなければ吐けない台詞を言う。ポルトガル通とおぼしきQuinta do Quimのブログでは、この2語について「呆け防止の新薬か、金鳥の新しい殺虫剤か」と冗談を書いているが、いずれもファドの定番となっている歌のタイトル。モウラーリアもアルファーマも、ポルトガルの首都リスボン(現地名リシュボア)の町名である。
てなことを思うのは、小生も知人にファド歌いの女性がいて、そのポルトガル語の歌詞の日本語訳のお手伝いをしたからだ。できるだけ原語に近い邦訳の歌詞にしたいという要望だが、小生、ラテン語系のイタリア語やスペイン語には見覚えがあるが、近いとはいえ、ポルトガル語のニュアンスを生かすのはなかなか難しい(いしいひさいちの漫画で引用された日本語歌詞でも、Quimのブログは「夜の影を追い」という言葉が原詞にはないと鋭く指摘している)。
その彼女――「槇」さんも10月にファドのCD「桜桃酒 Ginjinha」を出し、10月23日に早稲田のBlue Dragで「レコ発LIVE」を行った。マイナーと言われるファドだけに、ののちゃんという援軍がいるのは心強い。しばらくこのブログで吉川ロカと槇さんらファディシュタ(ファド歌手)を応援しよう。
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投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)
