阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
弱身につけこむ「風邪の神」
2009年11月04日 [コラム]
日本海沿岸県7新聞のシンジケートコラム「時代を読む」を10月31日に掲載しました。文中の落語家、桂米朝師匠はその3日後の11月3日に文化勲章を受章しましたが、ちょっと偶然です。車椅子姿でしたが、彼の高座が聞けないのがちょっと寂しい。テーマは新型(豚)インフルエンザです。仮タイトル(各紙で多少異なるかも)は、
弱身につけこむ「風邪の神」
上方落語に「風の神送り」という噺がある。一時忘れられたのは、この噺の主題である「風の神送り」という風習が、明治以降廃れてしまったからだ。
この「風の神」はインフルエンザ。葛根湯くらいしかなかった江戸時代、人死がでるほど猛威を振るっても、今以上に庶民は無力だった。やむなく藁でハリボテ人形をつくり、祭壇に祭って退散を願い、カネや太鼓や三味線で賑やかに川に流すしかない。精霊流しに似たこの風習を「風の神送り」と呼んだのだ。
この噺を復活させた桂米朝は、川流しの場面を冒頭に置いている。
「風の神送ろ」
「お名残惜しい」
「誰やおかしなこと言う奴がおるな」
何度、「風の神送ろ」と唱和しても、ほおかむりした男が「お名残惜しい」とつぶやく。「このがきゃ~」とひきずりだしたら町医者だったという。
笑いごとではない。10月19日から新型インフルのワクチン接種が始まったが、「年金男」長妻昭衆議院議員が大臣として乗り込んだ厚生労働省が10月1日に発表したワクチン接種「基本方針」を読むと、どうもこの笑い話を連想してしまう。
自公連立政権下で日本のワクチン不足が懸念されていたのが、この基本方針では一気に7700万人分、国民の約60%分を準備できることになっている。内訳は国産2700万人分、輸入5000万人分だが、国産は9月初めに「製造効率が高くならない」ことを理由に1800万人分が限界としていたのが、なぜか上乗せできたのだ。
政権交代のどさくさ紛れに、厚労省内の医系技官が鉛筆をなめたとしか考えられない。しかも8月末までは、厚労省が欧州メーカーと結んだワクチン輸入予約の仮契約(期限9月18日)が放置されていたという。離任間近の舛添要一前厚労相が9月11日、「輸入4200万人分を確保」と発表してやっと輸入が実現した経緯がある。
国内メーカーを擁護するため医系技官たちが輸入をサボタージュ、その“障壁”が破られてしまうと、今度は国産分をカサ上げしてシェアを確保、備蓄体制の遅れを糊塗しようとしたのではないだろうか。12月末までに人口の50%へのワクチン接種を完了させる予定のアメリカや英国に比べ、日本は20%にすぎない。
日本のワクチンメーカーは化学及血清研究所、大阪大学微生物研究所、北里研究所など学校法人系が中心。海外ではこの急成長市場に巨大医薬産業が参入、日本にも上陸してくると、国内医薬業界を支配する医系技官の牙城がゆらぐ。
備蓄の遅れと輸入サボタージュが権益確保の結果だとすれば、医系技官たちの罪は大きい。人の命もものかは、風の神に「お名残惜しい」とつぶやいた町医者と変わらない。
しかも医系技官たちの抵抗はまだ続いている。輸入ワクチンの安全性について厚生省がパブリックコメントを募集しているが、「がん原性はないが腫瘍原性がある」との厚生省コメントは、「輸入品は怖い」という誘導の下心が透けて見える。
現に腫瘍が専門の東京大学医科学研究所の上昌広特任准教授は、医療メルマガ「ロハス・メディカル」でそうした問題を指摘、専門用語めかした「不適切」な表現と、根拠を示さない厚労省を批判している。輸入品が細胞培養法で生産され、アジュバント(抗原作用増強剤)を使用していることの危険性を厚労省は強調するが、海外メーカーが治験を公表しているのに、国産は治験をせず、上准教授は「どちらが安全なのか分かりません」とあきれている。
落語の「風の神送り」のサゲは、川に流したハリボテが漁師の網にひっかかり、「ああ、それで夜網(弱身)につけこんだな」で締めくくる。これは元気な人でも体が弱ると風邪を引く、という当時の慣用句「弱身につけこむ風邪の神」にひっかけたものだ。医師としては二流だが利権は手放したくない医系技官も、新型インフルに怯える国民の弱身につけこむのか。
長妻厚労相は「年金」は強いが「医療」は素人と言われる。ジャーナリスト時代は私も同僚だっただけに、「医系技官の檻」に幽閉されないことを祈るばかりだ。
投稿者 阿部重夫 - 10:00| Permanent link | トラックバック (0)
