阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
10月号の編集後記
2009年09月19日 [編集後記]
FACTA最新号(2009年10月号、9月20日発行)の編集後記を掲載します。フリー・コンテンツの公開は28日からです。
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不思議な本がある。部落解放同盟系の出版社から贈られたが、差別の本かと思ったら、さにあらず。タイトルは『楽しい騙しのインテリジェンス? マリック直伝! サギのイロハと撃退法』(モナド新書)。筆者が伊東乾氏なので、あれっと思った。東大で物理学の修士号を取りながら、作曲家兼指揮者として現在は東大大学院情報学環の准教授。オウム真理教信者になった同級生を書いた『さよなら、サイレント・ネイビー』で賞を取った多芸多才の人である。
▼この本ではマジシャンのMr.マリックが対談のゲストになり、手品のような無害な騙しの「シロサギ」と、悪質なペテンの「クロサギ」のミソを鮮やかに解いてみせる。伊東氏は幼いころ手品に憧れ、百貨店売り場で実演販売しているマリックを見て師事したというから、師弟談議は堂に入っている。マジックは畢竟、早業とミスディレクション(目くらまし)に帰すというのは至言である。
▼話が貨幣論から電子マネーを自称した「円天」詐欺の解剖に入ってくると、こっちも本気になる。東大の岩井克人教授の『貨幣論』に依拠した貨幣=情報論は目新しくない。「商品価値の商品体から金体への飛躍は商品の宙返り(Salto mortale)である」と書いたマルクス『資本論』のほうが記述としては上出来だ。「ループが閉じていない」円天よりも、通常の貨幣取引に潜むトリックは、はるかに高度なのではないか。
▼社会部駆け出しのころ、ねずみ講やマルチ商法を追いかけたが、どれも似たりよったりですぐ飽きた。現実の市場こそマジシャンである。が、この本ではウォール街をコントロール不能に陥れた金融技術の手品に届かない。伊東氏は理系だから、「伊藤のレンマ」が土台のブラック&ショールズ確率偏微分方程式がなぜ「クロサギ」に使えたかを証明してほしい。ループがメビウスの輪のように別次元に潜りこみ、デリバティブのゼノンが生まれたのだから。
投稿者 阿部重夫 - 12:00| Permanent link | トラックバック (3)
