阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
中国に抜かれる日本のGDP――「時代を読む」寄稿
2009年08月03日 [コラム]
新潟日報など環日本海6紙のシンジケートコラム「時代を読む」に先週末寄稿しました。それをここに再録します。
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総選挙である。
国破れて山河あり。ふと杜甫の詩が思い浮かんだ。稲穂を揺らす風の波紋、日だまりの村道の人影、闇に回されるペンライトの光……。西川美和監督の映画『ディア・ドクター』が撮ったあまりにも美しい日本の里山を見たからだ。
かつて無医村だった村の診療所で奮闘していた一人の医師が失踪する。村人の半ばは老人で、寝たきりや認知症も数多く、「神」を失った村はパニックに陥る。一見、よくあるニセ医師の美談のようで、それほど単純ではない。落語家の笑福亭鶴瓶が演じる医師は、ニセを自覚し、ニセだと告白しながら、ニセでない「名医」を演じつづけなければならない。
前作『ゆれる』でもそうだが、直木賞候補になったこの若く才気のある女性監督の不安なショット、感情移入をそらす微妙な間のとり方、意表をついて人が豹変するシーンは、とても緻密に計算されていて、かえって人を夢想に誘う。
他人事ではなかった。私の知り合いにも新潟の山奥の出の医師がいて、「親戚が町長の時に町の病院で雇った医者が他人のなりすましで、慶応大学卒業の免状はコピーでした。発覚して病院は診療所に格下げ。親戚も責任をとって町長を辞めました」
よほど悔しかったのか、その親戚が出した奨学金で、若かった彼は医学を学びに上京したという。それでも、彼はいま東京で開業していて、故郷に帰る気はまだない。
いまの日本の姿は、こうした無医村に象徴されるのかもしれない。
国家の農業政策の失敗とグローバリズムに取り残された、音もなく老いて朽ちゆく農村の荒廃。年金も医療も福祉も、少子高齢化で借金が膨らむばかり。とうに破たんしているのに、それでもニセの繁栄を演じつづけ、明日は草ぼうぼう、無人の野と化す予感――。
長く「世界第二の経済大国」の座を維持してきた日本が、年内にGDPで中国に追い越される可能性が高まってきた。昨年の日本のGDPは492億ドル、中国は440億ドル。今年は自動車、電機などの輸出不振で日本がマイナス成長の泥沼でもがいているのに、中国は大規模な財政出動で4~6月期の成長率が前年同期比7.9%に回復している。
日本は逆転を覚悟しなければならない。前に進んでいるようで実は後じさりする故マイケル・ジャクソンの「ムーン・ウォーク」のような経済では、追いつかれるのは当然だろう。なのに、悲憤慷慨はもとより起死回生策の揚言すらない。とうから諦めた顔である。
末端では、補助金漬けで崩壊に瀕した農村をどう立て直すのか、さっぱり知恵が働かない。政権の座につきそうな民主党は、前代表肝入りの戸別所得補償で「アメを与えて安楽死させる」だけ。片や自民党農水族も、落選を恐れて大盤振る舞い、減反見直しなど石破農水相の改革検討を封じこめて得々としている。
ラクイラのサミット(主要国首脳会議)では、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)を来年妥結させることで合意したのに、日本の農水守旧派は「WTO脱退」と息まく。待ったなしの現実に目をつぶっているにすぎない。
もちろん、脱退などしたら、日本の輸出産業が立ちゆかなくなる。隣の韓国は欧州連合(EU)と自由貿易協定(FTA)を締結する交渉が妥結、サムスンや現代自動車など韓国の工業製品は世界第2の市場である欧州で、3年以内に9割以上の製品の関税が撤廃され、5年以内に全面撤廃となる。農水族の抵抗でEUとの貿易連携協定(EPA)交渉が進まない日本とは対照的だ。今後はパナソニックやソニー、さらにトヨタなど日本のメーカーが高率関税の障壁で不利になることを意味する。
経済大国は一場の幻だったのか。日本は「中国に負けたのではない、高齢化に負けたのだ」と負け惜しみで自分を納得させるのか。
『ディア・ドクター』の結末に観客はかすかな慰籍を与えられるが、沈みゆく日本にニセの処方箋を与えても息を吹き返すことなどありえない。
天は自ら助くる者を助く。
投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)