阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」
田村秀男著「経済で読む『日・米・中』関係」のススメ
2008年07月09日 [書評]
産経新聞特別編集委員の田村秀男氏(われわれの通称「タムヒデさん」)は、日本経済新聞時代に私の先輩だった経済ジャーナリストである。ちょっと頼みごとがあって先日会ったが、野武士のような風貌が最近はきれいな白髭になって、なかなか凄みが加わってきた。その炯々たる眼光は、いっこうに衰えを知らない彼の取材ぶりをよく表している。「生涯一記者」を彼ほどみごとに生きている人はいないと思う。
その彼に頼まれて、産経新聞に彼の新著の書評を書いた。扶桑社新書から出た本でタイトルは
経済で読む「日・米・中」関係 ~国際政治経済学入門~
(扶桑社新書 760円+税)
産経のタブロイド紙「SANKEI EXPRESS」で連載している「国際政治経済学入門」のコラムを本にしたものだが、タムヒデさんの年来のテーマが浮かびあがって面白い。彼は日経で80年代後半のワシントン、97年返還時の香港の特派員だった。米国駐在時は財務省やFRBの幹部によく食い込んで、確か20年前に通貨の管理変動相場制をスクープした。東京で金融記者だった私を愕然とさせた。
1997年の香港返還時は、ロンドンに私が駐在していたから、返還される側とする側と裏表から香港と中国を見ることになった。それだけに彼の視点はよく分かる。正直、扶桑社の編集者はそれがよく分からなかったのではないか。この本のタイトル、ちょっとありきたりだ。
私なら、ずばり「シニョレッジの魔」とつける。シニョレッジとは一般に「通貨発行益」と訳すが、ほとんど誤訳に近い。この言葉、必ずこれからのキーワードになると思う。この本の本質は、それを予見している内容であることだ。FXのデイトレーダーたちの狭い視野では、とても届かない通貨のサンクチュアリーがかいま見える。私の書評は7月6日、産経新聞読書欄に掲載された。
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シニョレッジの魔
貨幣には魔が2匹棲んでいる。1匹は言わずと知れた金満、強欲のマモンの神だが、こちらは筆者も後輩の私もとんと縁がない。が、もう1匹――シニョレッジ(通貨発行益)の魔には、2人とも憑かれている。ワシントン、香港で新聞特派員を務めた田村氏の新著は、その第二の魔を追う執念の賜だ。
シニョレッジとは何か。「封建領主」を意味するフランス語seigneurから派生した言葉で、中世欧州では諸侯が貨幣を鋳造し、額面と貨幣の製造原価との差益を収入としたことに由来する。現在では、基軸通貨国アメリカが、ドルを海外で流通させ、米国債を海外で保有させている限り、インフレなしに貨幣発行額を増やせるという“特権”をさす。
経済大国アメリカのパワーの源泉であり、本書はサブプライム危機から日本の閉塞、人民元台頭まで貫く一本の赤い糸として、ドルのシニョレッジの「黄昏」を透視している。その鋭さと肉薄ぶりは脱帽するほかない。
一例を挙げよう。英国と北朝鮮を結ぶコネクションである。06年にロンドンで始まった「朝鮮開発投資ファンド」代表のコリン・マクアスキル氏は、英海軍出身だが、恐らくインテリジェンスの人だろう。28年以上も北朝鮮に関わり、対外債務減免交渉の代理人として平壌の絶大な信頼を得た。
その背後には、北朝鮮への進出を狙う米国の穀物資本カーギルや鉱山開発大手ベクテルなどが控えている。手のひらを返すようなブッシュ政権の対朝「宥和」の裏には、イラク侵攻の泥沼でネオコンが総崩れになったばかりでなく、こういうコネクションの暗躍があることを本書は示唆している。
見え隠れするのは、ドルのシニョレッジがいかに貪婪かである。それを守るためなら外交上の裏切りも辞さない。その魔を知る人は稀だ。いわんや、魔を失いかけているアメリカの怖さを知る人はもっと稀である。
投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)


