阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
谷脇康彦著「世界一不思議な日本のケータイ」のススメ
2008年05月21日 [書評]
MVNOだの、MNOだの耳慣れない略号が最近、氾濫している。訳語がまた難解だ。「仮想移動体通信サービス事業者」と「移動体通信事業者」。VはバーチャルのVなのだが、まず庶民には何のことやら分からない。いかにもお役所的な、こなれない訳語である。
この本「世界一不思議な日本のケータイ」(インプレスR&D、税込み1890円)の筆者は、総務省総合通信基盤局でMVNOの旗振り役として奮戦する現職の事業政策課長だけに、この難解な訳語を世に広めた張本人のひとりかもしれない。
2002年から3年間、ワシントンの日本大使館で参事官をつとめ、米国の情報通信のコンセプトをたっぷり身につけてきたから、無理ないことなのかもしれないが、それにしてもMVNOが体現する携帯(モバイル)ビジネスのオープン化が今ひとつ理解されないのは、この略号を放置しているからではないのか。
現にNTTドコモの薬罐アタマ経営陣は、この略号を聞くだにひきつけを起こす案配だ。そこでひとつ、提案したい。
MVNOをぐっとくだけて「アンテナ借り業者」、MNOを「アンテナ貸し業者」と言いかえたらどうか。
固定電話には回線貸しの制度がある。NTT東西のように全国に回線網を持つ業者が、そうした設備を持たない業者に回線をリースすることが定着した。MVNOはその携帯版である。MVNOを「携帯版回線借り業者」、MNOを「携帯版回線貸し業者」としてもいいが、どうもまわりくどい。
実際にはアンテナだけでなく、その背後にあるネットワークも含めて貸し借りするのだが、アンテナ貸しだと無線のニュアンスが残るのがいい。そうすれば、MVNOがMNOのフンドシを借りて携帯電話のサービスをするイメージが、脳裏に描けそうな気がする。
本の紹介からつい話が脱線した。谷脇課長は結構、筆まめな官僚で、これまでも「インターネットは誰のものか 崩れ始めたネット社会の秩序」(日経BP、税込み1890円)や「融合するネットワーク」(かんき出版、税込み1890円)を世に問うている。なぜか、どれも値段が同じなのは、ケータイ本のお値ごろ価格がこのあたりにあるということだろうか。
それにしてもバリバリの現役官僚、それも総務省でモバイルビジネス研究会の事務方をつとめる課長の本である。研究会の報告のような官製の文体かと思いきや、文章に硬さはない。むしろ研究会で何を議論してきたかがすっと頭に入る内容で、専門家と称する人々の下手な解説書よりよほど読みやすい。
「世界一不思議」という意味は、なぜ携帯の料金プランはあんなに複雑なのか、なぜ端末とサービスが別々でないのか、なぜすべての端末が高機能なのか、なぜ携帯会社の数は5社なのか、なぜ携帯インターネットは携帯会社が提供しているのか……という5つの素朴な疑問にある。
それがすべて携帯各社の囲い込み――垂直統合型ビジネスモデルに起因していること、成熟期に入った携帯ビジネスの第二の飛躍(モバイルビジネス2.0)を促すため、総務省は水平分業型モデルへの移行をめざしているという議論の組み立てである。なるほど。
だが、たったこれだけのことでも抵抗は強い。FACTA最新号が報じた「ドコモに行政指導」の記事でも明らかなように、既得権に固執するNTTグループは徹底抗戦。
しかし日本の携帯端末は、世界で通用しない「ガラパゴス」なのだ。デザインも機能も袋小路に陥り、iフォンやgフォンが上陸すれば、たちまち席巻されそうなほど危うい状態だ。
既得権の囲い込みは、進化を阻害する。前例踏襲、リスク回避は「サラリーマン」の悪癖だ。そういう危機感が、谷脇氏を執筆に駆り立てたのだろう。役人ですらもう既得権では立ちゆかないことを知っている。携帯の業界人も少しは見習ったほうがいい。
その意味では、一般の読者よりもむしろ業界人がこの本を読んで、新しいビジネスモデルに挑む勇気を奮い立たせてほしいと思う。
投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)

