阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

2007年09月27日 [メディア論] [ネットとメディア]ニュースサイト戦国時代――ヤフー井上雅博社長に聞く(上)

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新聞のニュースサイトが大再編に突入している。ネットと紙の共食いを恐れていた新聞が、ニュース配信のポータルサイトに食われて、合従連衡に走りだしたのだ。挑戦を受けるヤフーはどうするのか、ヤフーの井上雅博社長に独占インタビューした。

まず、バックグラウンドを説明しておこう。

毎日新聞と組んでいたマイクロソフトのポータルサイト「MSN」が9月末に契約を解消、10月から産経新聞と組んで「MSN産経ニュース」がスタートする。袂を分かった毎日新聞はこれまでの「MSN毎日インタラクティブ」を「毎日jp」に衣替えする。

一方、読売、朝日、日経の3社は共同ポータルサイトを計画中で、朝日の「asahi.com」、日経の「NIKKEI NET」、読売の「YOMIURI ONLINE」を軸に「ANY」(3社の頭文字と英語のanyをかけた命名)をオープンする模様だ。

だが、この大再編の実像は、巨大なヤフーのニュースサイトに対する「恐怖の対抗策」に見える。包囲網とはいえ、彼我の差はあまりに大きいからだ。

ヤフーのニュースサイトは月間アクセス数が34億件、家庭だけで2000万人、その他もあわせると5000万人が利用していると言われる。新聞部数でいえば最大手の読売ですら公称1000万部、読売オンラインは家庭利用が640万人だから(ネットレイティングス調べ)、国内最大メディアの王冠はすでにヤフーに移っているのだ。

読者サービスの一環としてヤフーに記事を提供してきた新聞社が、自社サイトのアクセス数伸び悩みに耐えかね(裏返せばヤフー膨張への危機感から)、新聞発のフラッシュニュースを囲い込んで、ヤフーからメディアの主導権を奪い返そうとしているのだ。

見方を変えれば、ヤフーとMSN(マイクロソフト)、グーグル3社の覇権争いにも見える。MSNは弱体な毎日を見限って、ユーザー参加型のニュースサイト「iza」(※参考記事)や芸能ニュースの「zakzak」でネットに力を入れる産経に鞍替えし、朝日と親密と言われるグーグルは共同サイト「ANY」を支えるのではないかと言われている。

では、ヤフーは毎日をパートナーにするのだろうか。「毎日jp」の発表を見る限り、どうやらそれは毎日側の片思いではないか。ヤフーはどのメディアとも「等距離」を保つ構えのようだ。ユーザーをサイト内に囲い込み、回遊させるよりも、他社サイトに誘導する代わりに広告収入を分け合うオープン化を進めている。

ヤフーの考えるコンテンツ・プロバイダーとサイトの共存共栄が勝つか、新聞資本のニュース囲い込みが勝つか――その行方とヤフーの戦略を聞いてみよう。

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阿部  今年1月より、従来の“ユーザー囲い込み”戦略から大きく方向転換し、ソーシャルメディア化とオープン化を同時に進めています。ニュース配信事業では、「メディアネットワーク」を導入するなど、コンテンツ・プロバイダーとの関係も強化していますが、狙いは何でしょうか?

井上  ヤフーが過去10年間、一貫して取り組んできたのは「ネットユーザーに一番使われるウェブサイトを作る」ということです。自分達がいちユーザーとして、どういうサービスがあれば使いたくなるかを考え、様々なサービスを追加してきました。その結果として、国内ユーザーの約9割が月に1度は使うサイトになった。これは、ひとつの成功だと思っています。

一方で、ネットにおける全利用量のうちヤフーが占める割合はおよそ17%です。つまり、ネットの利用時間の80%以上はヤフー以外のサービスを使っているわけで、もしかしたら、自分もそうかもしれない(笑)。

ネットの良さは、いろいろなものがぐちゃぐちゃにあるところです。だから、面白いし、役に立つ。どんな尖ったニーズに対しても、それに応えてくれる人がどっかにいる。しかし、人によって求める“尖り”は違うので、その全てに対してヤフーが答えることは不可能です。そこで、自前でサービスを作ることは続けつつ、ヤフーに無い尖りを持った事業者とパートナーシップを結ぶことで、17%以外にもリーチを広げていきたい。

また、ヤフーが10年間掛けて作ってきたものを外部から活用してもらうことで、ネットの中により尖ったものが生まれると良いと思っています。それにより、ネット全体の価値が高まり、市場のパイそのものが大きくなれば、ヤフーの事業領域も広がりますからね。そういうWinWinの関係をパートナーの方と築きたい。

阿部  ヤフーはネット創世記から時代のニーズに上手くマッチしながら成長してきました。今後、更なる成長を目指すうえで何が必要だと感じていますか?

井上  10年前のネットユーザーというのは非常に尖った人達ばかりでした。ユーザー像は非常に明確で、30代男性でエンジニアか研究職、もしくは学生といった具合です。それが今では、ほぼ日本の縮図と言ってもいい状態にまでなりました。

ネットを利用する人が増え、ユーザー像が変化する中で、ヤフーが常に追求してきたことは、その時々の最大公約数のニーズに答えるサービスの提供です。良く言えば誰もがそこそこ使えるもの、悪く言えばどの人にとっても100点には届かないものを出してきた。誰かの100点を目指すことは最初からせずに、共通のニーズを広く取り出し、尖ったところがなるべく無いようにしてきたとも言えます。

しかし、利用者が増え、母数が広がることで、全体の面積に対する最大公約数がどんどん小さくなってきた。あっちの尖りと、こっちの尖りが重なる部分が狭くなれば、当然、最大公約数で作ったサービスの点数は低くなります。そこで、全領域を自分たちでやることは無理だと諦めた(笑)。その諦めを前提にして、じゃあどうするんだと考えたときに、パートナーと一緒にやるのがいいだろうとなった。いろいろな尖りを作ってくれるパートナーに対して、ヤフーは広告配信などの面で協力させて頂こうと。当然、その先にはヤフーの事業につなげたいという思いがあります。

阿部  メディアには、コンテンツを作ることと、それを通す仕組みの2つの意味があります。ヤフーがあくまで通す側だけに特化していて、自らがコンテンツプロバイダーにならない理由は何でしょうか?

井上  一番の理由は簡単で、出来ないからです(笑)。

ユーザーは「Yahoo!」にいろいろな情報を求めてやってきます。新聞でも雑誌でも、より多くの媒体の記事が載っていることを望んでいる。そのコンテンツを集めるだけでも大変なのに、自ら作るなんて到底無理です。それに、自らが中途半端にコンテンツを作り始めると、本来パートナーとして組みたいコンテンツプロバイダーと競合関係になってしまう恐れがあるので、そこは完全に割り切っています。イメージとして近いのは、地方にある新聞の共同販売店のような役割ですね。

阿部  広告も紙からネットへのシフトが加速しています。

井上  表面上はシフトしているよう見えるかもしれませんが、ネット広告の価値が向上していることが本質でしょう。ネットの利用者が増えたことや、既存メディアではなくネットを情報収集の中心にする層が出てきたことは、ネットを通じた消費者への接触機会を広げ、広告媒体としての価値を高めました。反対に、新聞はネットやテレビがない時代に比べて、単独でリーチ出来る層が減っているわけですから、広告媒体としての価値はピークを過ぎていると言えるかもしれません。

ただし、ネット広告に足りていない部分もあります。例えば、新聞の全面広告や、テレビの番組を遮って入るCMのような、視聴者との“折り合い”のもとで成り立っている広告手法です。テレビ番組の途中で入るCMというのは、コンテンツをぶった切って入れているわけですから、冷静に考えると凄いやり方なのですが、視聴者とはきちんと折り合いが付いています。リーチや接触頻度といった面では、ネットもそれなりのメディアになりつつあるとは思いますが、ユーザーとの折り合いといった部分は非常に経験不足で、まだまだこれからです。

広告業界全体の売上を見ると、メディアとして成長期のネットが増えて、消費者へのリーチ力が弱まっている既存メディアが漸減しているので、パイを奪い合っているように見えますが、必ずしもそうである必要はない。日本の広告費は対GDP比で米国の半分程度ですから、全体としてもっと増えてもいいはずです。

阿部  ヤフーにおける広告収益の伸びはいかがですか?

井上  全般的には、まずまずだと言って良いでしょう。検索広告が大きく伸びて、全体を牽引しました。しかし、ここで考えないといけないのは、検索広告というのは広告宣伝費ではなく、営業費や販促費であり、「below the line」なんだということです。じゃあ、ネットは「above the line」としてはどうかと言うと、まだまだじゃないかと思う。本来的な広告メディアとしては、力不足であることは否めません。これからは、認知広告媒体としての見せ方をもっと考えていく必要があるでしょう。

続く:1/2)

写真:大槻純一

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井上雅博(いのうえ・まさひろ)
ヤフー株式会社 代表取締役社長

1957年生まれ。東京理科大卒。ソード電算機システムを経て、87年にソフトバンク総合研究所に入社。92年にソフトバンクに入社し、94年から同社の社長室・秘書室長。96年1月のヤフー設立時に取締役へ就任、同年7月から同社代表取締役社長。現在、ソフトバンク取締役も兼務する。