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阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

インタビュー:池田信夫氏(3)通信と放送の未来

2006年12月11日 [メディア論]

池田信夫氏のインタビュー第3回を掲載します。今回は空洞化しているテレビ局に、放送と通信の融合なんて語る資格も力もなくなってきたと、1対多の放送と、多対多の通信がどう仕切りわけすべきかをうかがいました。

*   *   *   *   *

阿部 ライブドアや楽天が放送局を買収してまで欲しかったのは、放送局そのものではなくその利権です。通信と放送の融合をM&Aで乗り越えようとしたわけですが、一連の騒動をどうご覧になりましたか。

池田 正直何がやりたいのか分からなかった。仮にライブドアがフジテレビの買収に成功しても、それを使って何をしたいのかが見えてきませんでした。

ただ、制作プロダクションの中には、ライブドアがニッポン放送買収を仕掛けたときに非常に期待した人もいたようです。今の制作プロダクションは完全に放送局の下請けで、番組を再利用する権限も全て放送局に握られている。下請けから脱し、独自の制作や編成を行うことが悲願なんです。もしライブドアがフジテレビを買収して、インターネットで自分たちのコンテンツを出せるような方向になれば、状況が変わるのではと思ったようです。

阿部 テレビ局のプロダクションへの外注率は8割近くに達していると聞きます。それはテレビ局に新しいコンテンツを作り出す能力がなくなってきていることの表れではありませんか。

池田 ますますなくなってきてますね。ある意味でライブドアが仕掛けた騒ぎが逆に効いちゃった。それまでのテレビ局はよくも悪くものんびりと各社横並びでやってきた。この時間帯はバラエティ、このアンテナはドラマというようにバランスを取っていた。

でも、最近は経営陣への時価総額に対するプレッシャーが強くなって、考え方が変わってきた。目標の視聴率を狙いながらもコストはなるべく下げるようになって、以前のような編成上のバランスは二の次になった。

例えば6時台のアニメは視聴率が取れないからほとんどなくなったし、ドラマのような作品性の高いものは敬遠される。すると結局、バラエティやワイドショーなど、低コストで漫然と長時間見られる番組ばかりになる。私自身あまりテレビを見ないから分かりませんが、民放のテレビがますます低俗になっていることを嘆く人は多いです。

阿部 バラエティ番組はタレントたちの楽屋落ちみたいな話ばかりで、見ているほうも楽しくないだろうなと思います。資本力の圧力によって、かえって番組の質が低下してしまったのは皮肉としか言えません。

放送がいずれ通信の一部として融合され、今のような産業としては成り立たなくなると、通信(放送)の形態はどうなっていきますか。

池田 ニュースやスポーツのように一度に何百万人が見るものや、災害情報などリアルタイム性が必要とされるものは、1対多の通信としてずっと残るでしょう。

一方、放送局側が録画して作ったものを視聴者がリアルタイムで見る必要はないわけです。例えば、NHKの番組の約90%は録画です。長期的に見れば、番組も本や雑誌と同じように、欲しいときに取りに行くオンデマンドが当たり前になる。そうなれば通信と放送を区別することに意味がなくなります。

阿部 おっしゃることは分かります。しかし、いまのインフラ状況では難しくありませんか。

池田 問題がないわけではありません。映像は他のメディアに比べ帯域の消費が大きいので、簡単にはいかないでしょう。

いまのテレビ画質の映像をオンデマンドで見るには、DSL(電話線を使った高速デジタルデータ通信)では難しいし、何百万人が一斉にオンデマンドで接続しても耐えられるサーバはありません。パイプの部分は光ファイバーになれば何とかなりますが、サーバがボトルネックになってしまう。

また、事業者側から見ても、IPを使って快適な映像配信サービスを行うには、利用者数に比例した設備増強が必要でコストの負担が重い。事業者曰く、テキスト主体のサービスとはコスト構造が異なるのだそうです。USENの「GyaO」がインフラコストに苦しんでいることがその証左でしょう。

仮に今後もムーアの法則どおりに半導体技術が進歩しても、日本全国の視聴者がオンデマンドで映像を見られるようになるまでは、5年から10年は掛かるかもしれません。

阿部 海外の動きはどうですか。

池田 いわゆるIPを使った映像配信にはオンデマンドの他にも2つ方法があります。

1つは従来からあるダウンロードですが、これはiPodの登場で一気にコンテンツが増えた。米国ではドラマなどをiPodに入れて持ち歩くことが当たり前になりつつあります。

もう一つがIPマルチキャストという方法です。これはインフラはIPを使うのですが、実体はケーブルテレビと同じ1対多の通信です。配信側は一度流せば全員に届くので、オンデマンドに比べてはるかにサーバ負荷が軽い。回線もDSLで可能で、料金もケーブルと同程度かそれ以下でできるでしょう。

世界的に見るとIPTV(IP経由のテレビ向け映像配信)はだいたいマルチキャスト方式です。この前、米国とイタリアのサービスをいくつか見てきましたが、マルチキャスト方式をメインにして、必要に応じてオンデマンドとダウンロードを併用しているパターンが多い。しばらくは、その3つを組み合わせたサービスが主流になるでしょう。

(3/5:つづく

投稿者 阿部重夫 - 06:00| Permanent link | トラックバック (0)


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発行人 阿部重夫

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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