登録内容の変更新規オンライン会員登録会員サービスについて

阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」

インタビュー:池田信夫氏(1)「先祖返り」するNHK

2006年12月07日 [メディア論]

印刷FACTAブックマークに保存

久しぶりに「メディア論」をテーマにしたインタビューを連載する。登場していただくのは、経済学者の池田信夫氏です。池田氏はNHKで報道番組の制作などに携わり、93年に退職。その後は論客として通信問題を中心に幅広く活躍している。

総務省の電波再配分論やNHKへの放送命令など、通信と放送を取り巻く環境は騒がしい。ライブドアや楽天に端を発した放送局の買収騒動もいまだ決着はついていない。この状況をNHK出身の池田氏はどう見ているのか。今回はメディア論から少し枠を広げて、通信と放送の本質まで切り込んだ。

*   *   *   *   *

阿部 菅義偉総務相がNHKに対して、短波ラジオ国際放送で北朝鮮による日本人拉致問題を重点的に扱うよう命令しました。これはメディアのあり方を考えた場合、非常に大きな問題だと思うのですが、マスコミのNHK擁護論は盛り上がりませんでした。この問題をどうお考えですか。

池田 今回の国際放送に対する政府の命令は、菅総務相の点数稼ぎにはなっても、実質的な意味はほとんどないでしょう。短波ラジオを持っている日本人がどれだけいますか? 終戦直後は短波で謀略放送をやることに意味があったかもしれませんが、いまは北朝鮮でも短波ラジオを持っている人がどれほどいるか。そもそも北朝鮮は妨害放送をしていますからね。どれだけ効果があるのか疑問です。

それよりも、どうも基本的な事実関係があまり知られてないのではないかと思います。

まず第一に国際放送(NHKワールド)はNHKの独自放送ではなく、政府が毎年20億円位の補助金を出してますから、ある意味では半分国営放送なんです。命令という言葉には強い印象がありますが、政府が放送内容に干渉することは想定されていたことです。総務省のNHKへの命令は今回に始まったことではなく、儀礼的ですが毎年行われています。マスコミ各社の騒ぎ方を見ると、いかにNHKの問題がいままで理解されていなかったかを感じます。

阿部 政府にお金を出してもらっている以上、干渉されるのは当然ということでしょうか。

池田 当然です。それにNHK擁護論が盛り上がらないのは、NHK自身が国営放送へ先祖返りしようとしているからではないでしょうか。私は、今年1月に竹中懇(竹中平蔵前総務相の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」)が始まったときに、NHKを改革するなら民営化の方向で考えるべきだと様々なメディアを通じて申し上げた。しかし結果的には受信料の支払い義務化というかたちで、国営化の方向に舵を切ってしまった。

今回の国際放送の問題も、NHKはこういう方向へ進んでますよ、ということを示しているだけです。それが問題なら、何で支払い義務化の話が出たときに他のメディアはきちっと議論しなかったのか。ルビコン川を渡ってから騒ぐなと言いたい。

阿部 冷戦時代、西側諸国は鉄のカーテンの向こう側に意図的に放送を流し、自陣営の豊かさを宣伝しました。ボイス・オブ・アメリカやBBCの海外放送が代表的ですが、国際放送とはそもそも国家戦略として行われてきたものです。冷戦時代に限らずとも、国家にとって海外にいかなるイメージを発信するかは重要なことです。

池田 戦後の日本ではNHKの国際放送がそれに近い役割を担ってきました。それを政府は強化しようとしているわけです。

阿部 ということは、NHKが国営放送の方向に舵を切っている以上、視聴者は政府のバイアスが掛かっているのを承知のうえで番組を見るしかないと。

池田 そう考えるべきです。もっとも、普段からNHKが政府の干渉なしで自由に放送していると思っていることのほうが不思議ですけどね。他のメディアの感覚だと、行政が直接何かを言ってくることはないかもしれません。しかし、NHKでは日常的に行政の干渉があるのです。

私が在籍した当時のNHKには、総務省との間にホットラインがあり、番組に何かあると直接電話が掛かってきました。たとえば「国会中継」を打ち切って相撲を放送するのはけしからんとか、そのレベルのことも細々と言われます。ただし、総務省に番組を変更するような直接的な権限はありませんから、慇懃に無視するのが担当者の仕事でした。

はっきり言ってしまえば、NHK自体がもともと国の管理下に置かれていて、自由にやっている放送局ではない。命令という露骨なかたちではなくても、日常的に役所にいろいろ言われている放送局です。どうもそこを分かってらっしゃらない方が多い。問題は日本でいちばん大きなマスメディアが役所の管理下に置かれているという現状で、本来はそこを考え直すことを議論すべきなんです。

(1/5:つづく

*   *   *   *   *

池田信夫(いけだ・のぶお)
経済学者。1953年生まれ。78年に東京大学経済学部を卒業、93年までNHK勤務。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、2005年から須磨国際学園・情報通信研究所理事。学術博士。著書に『電波利権』(新潮新書)、『ネットがテレビを飲み込む日』(共著、洋泉社)などがある。自身のブログは『池田信夫 blog』。

投稿者 阿部重夫 - 06:00| Permanent link | トラックバック (1)

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://facta.co.jp/generator/mt-tb.cgi/272

電波利権
From: 個人的読書
Excerpt: 池田 信夫 電波利権 「電波利権」 池田信夫・著 新潮社・出版/新潮新書 『テレビ、携帯、総務省、電波に関する全て』 話の...
Tracked: 2006.12.19 17:21

※記事の内容に無関係なトラックバックにつきましては、削除させていただく場合がございます。ご了承ください。トラックバックが正常に動作しない場合はsupport@facta.co.jpまでご連絡ください。


* 発行人 阿部重夫 *

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

* カレンダー *

2006年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

* 編集長ブログ更新通知 [RSSフィード] *

RSSとは記事のタイトルや概要を配信するための技術です。RSSに対応したソフトウェアやサービスを利用すると、最新の記事のタイトルや概要が取得できます。詳しくは「RSSフィードについて」をご覧ください。

FACTA online「編集長ブログ」は以下の規格に対応しています。

RSS 1.0
RSS 2.0
ATOM