阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」
番号ポータビリティー1――ソフトバンクモバイル
2006年10月24日 [モバイル]
きょうから携帯電話の番号継続制(MNP、ナンバーポータビリティー)が始まる。メディア論や映像論はしばし先延ばしして、もっとアクチュアルな話題に戻ろう。
MNPは我が家に甚大な影響を及ぼしている。長女が携帯電話会社の下請け会社でSE(システムエンジニア)をつとめているからだ。ここ数カ月は徹夜の連続、この日曜も午前11時帰り、午後7時出社という殺人的日程だ。
たまたま、我が家に厚生労働省のOBがご夫婦でお見えだった。ジュネーブのILO(いやWTO?)赴任時代からお付き合いをいただいているが、わが娘の繁忙がひとしきり話題になった。
「ね、これって労働基準法違反じゃないの?」
さて、KDDIさん、どう答えますか。
で、話題を変えましょう。MNPについてはFACTAも前号(9月20日号)で触れたが、「チャレンジャー」のコラムでは、携帯電話業界を震撼させた人事の焦点である松本徹三氏を取り上げた。米半導体大手クアルコムの上級副社長からソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)の執行役副社長技術統括兼CSO(最高戦略責任者)にスカウトされた人である。
クアルコムは第三世代携帯で主流となったCDMA(符号分割多元接続)技術を最初に開発、KDDIもドコモも心臓部はクアルコムに握られている。松本氏のスカウトで真っ先に悲鳴をあげた同業者は「こちらの戦略がソフトバンクに丸見えではないか」という危惧だった。
実際はどうなのか。僕の好きな携帯ジャーナリストの三田隆治氏と一緒に、汐留のソフトバンク本社を訪ね、松本氏に約1時間インタビューした。その内容をこれから分載しよう。ただし、インタビュー時点は9月7日だから、まだ社名がボーダフォンだった時期である。連載の最後に三田氏に、ソフトバンクモバイルの戦略についてコメントしてもらおう。では、松本氏インタビューの第一回――。
* * * * *
――クアルコムからソフトバンクモバイル(ボーダフォン)に移籍する決心は、何がきっかけでしたのですか。
松本 ソフトバンクが1.7GHz帯で携帯事業の認可を受けた頃から、旧知の孫正義社長にお誘いいただきまして、何度もお断りしたんですが、孫社長の夢と「人生の最後の仕事は、アメリカのためではなく、日本のために働くべきではないか」という言葉に心を動かされました。
5月にクアルコムジャパンの会長を辞してからは米国に渡り、クアルコム米本社上級副社長として、新興のBRICsなどCDMAの普及が遅れている地域のテコ入れを手がけていましたから、人知れずアフリカで朽ち果てるのも悪くないと考えていました。しかし、最後は日本の仕事もあるかなと。人間、年を取ると不思議に、自分の最後の仕事って何なのだろうと考えるようになるんですね。
――通信業界におけるソフトバンクのチャレンジは何をもたらすのでしょう。
松本 ソフトバンクの通信キャリアへの挑戦は極めて難しい仕事です。すでに(NTTとKDDIの)二強がいて、われわれは弱い立場から出発する必要がある。孫さんは、この逆境をはね返してトップに立つと、本気で言っています。もちろん、並々の仕事ではありませんが、ソフトバンクがうまくいくのといかないのとでは日本の通信業界としても、世界に於ける日本の立場としても大きく違ってくると思います。
ソフトバンクモバイルは、他社に比べていわゆる通信キャリア色が薄い会社です。その分、既成観念に囚われずに、新しいモノの見方ができる。他社とは違ったスピードとダイナミズムで改革ができます。それに刺激されて、サービス競争が激化するのは通信産業にとっていいことですよね。
すると供給元のメーカーやコンテンツビジネスにも刺激がある。日本のモバイル産業は今も世界でトップですが、メーカーも含めて弱い部分も多い。それが競争によって、文字どおり世界一になる力を得るわけです。
逆の場合は、うまくいかない通信事業者の存在は、業界全体を混乱させ、不健全な競争がおきます。競争力がなく、闘えない体質の会社は不健全な競争を起こす。それは日本の業界にとって良くありません。私がそこに参加することによって、少しでも良い方向に向かせたい、そう思って孫さんの話を受ける決意をしたんです。
だから、「孫さんにお金を積まれて、業界の秘密を持っていったんじゃないか」なんて言う人もいると聞くと、心底怒りに耐えません。11月には67歳になる人間が、何故そんなセコいことをしなければならないのですか? 必要もないのに修羅場に飛び込み、下手をすれば惨めな結末に終わって、皆の笑い者になるかもしれない。そんなリスクをとる馬鹿は普通はいませんよ。私の場合、クアルコムにいればいつまでも働けるし、いつでも引退できる。過去10年間にわたって貯まってきたストックオプションだって、ゆっくり時間をかけて行使できる。クアルコムの社内では万全の信用を築いてきたし、新しい経営幹部は皆若い頃から一緒にやってきた人たちで、何でも好きなことが言える。こんな条件のよい環境を捨てて、わざわざよその会社に行く人はいませんよ。
それも滅茶苦茶に仕事をする「人並みはずれて厳しい上司」にわざわざ仕えに行くのです。「これまで十分働いてきましたから、もう、そろそろ気楽にやらせてよ」というのが、この年になれば普通なのに。
むろん、年収は1銭も増えません。むしろ1銭も増えないことを条件にしたんです。お金のために動いたととられたら心外だからです。それぐらい今回のことは、何にも増して「孫さんの志に感じての決意」なんです。
(以下続く)
投稿者 阿部重夫 - 06:00| Permanent link | トラックバック (0)