阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」
ときどき代行5――「いちばん早い書評コラム」を始めます
2006年09月14日 [書評] [ときどき代行]
編集長ブログ「ときどき代行」の和田紀央です。FACTAは創刊から半年経ちましたが、11月号(10月20日刊行)から書評欄を載せようと現在準備中です。
ありきたりではつまらないし、小説やミステリー、あるいは政治家やタレントの宣伝本、さらに学術専門書や研究文献の書評を載せても、FACTAのめざすものから外れてしまいそうです。そこで、ノンフィクション、またはそれに準ずる伝記、歴史、ルポルタージュ、紀行、サイエンスなどFACTSに関わるジャンルに絞った書評を考えています。
FACTAの原点はそこにあると思うので、ノンフィクション・ライターへの激励もこめてそれに傾斜した書評にしたいと思います。ノンフィクションは日本の出版界では比較的不遇で、取材の労多くして実入りが少ないジャンルです。しかし、英国の書店で人気のあるコーナーは「Biography」と「Travel」です。その内実は「ある人生」をとことん追跡するノンフィクション、辺境や未知の地域を見て歩く紀行ノンフィクションで、これは希望の光と思えます。
編集者の方々も苦労されていると思いますが、英国の伝記や紀行の隆盛はそこにライターの努力を刺激するクライテリア(評価基準)が確立し、市場を成り立たせてこそだと思います。出版社の方々はこの書評欄の趣旨をご理解いただき、これぞと思う本をご紹介ください。
ひとつ条件があります。ノンフィクションの本は店頭に並べられる期間が大変短い。新刊本をお送りいただいてから、読んで書評すると早くても1カ月、遅ければ数カ月かかって、せっかく紹介しても店頭から消えていて、アマゾンからお取り寄せになってしまいます。
そこで出版前のゲラ(またはバウンド・プルーフ)をお送りいただき、刊行日にあわせて事前もしくは新刊早々に書評を載せる方式をとりたいのです。そうすれば、書評を読んだ人が店頭でめざす本に出会えることになります。出版取次の容赦ない効率陳列を出し抜いて「日本でいちばん早い書評コラム」をめざすというのはどうでしょう。
赤字が入っているゲラでも構いません。筆者の了解をえて、責了前のゲラをお送りいただければ、書評の対象として検討いたします。サンプル例をお見せしましょう。本誌編集長が親しい編集者たちにご協力をお願いして、お送りいただいたゲラのうち、9月15日発売予定で、書評コラムのスタートが間に合わない本を、このブログでとりあえず私が取材して書評してみました。
『累犯障害者 獄の中の不条理』(山本譲司著、新潮社、1470円)
著者のお名前に見覚えがある方もいるかもしれません。政策秘書給与の流用事件で01年2月に実刑判決を受けた元衆議院議員(菅直人氏の元公設秘書)です。獄中での生活を『獄窓記』(ポプラ社)として著し、04年に「新潮ドキュメント賞」を受賞していますが、今回は第2作目となります。
01年、刑務所に入所した山本氏を待っていたのは「塀の中の掃き溜め」と呼ばれる隔離工場での懲役作業でした。そこで、精神・知的・聴覚・視覚などに障害を抱えた受刑者たちの世話係として、433日間の獄中生活を送ります。出所後、同氏はそこで知り合った元受刑者たちの消息を追い始めますが、本書はその記録をまとめたものです。一部は「新朝45」に掲載されましたが、加筆や増補してこの本ができあがりました。
かつての受刑者仲間たちは、ある者は路上生活者となり、ある者はヤクザの一員となり、もがき苦しんでいました。そして何名かは変死や自殺によってこの世を去っていました。さらに取材を重ねた結果、著者が目にしたのは、この世のどん底ともいえる地獄絵でした。
暴力団員と養子縁組させられて一生食い物にされる人々、売春を生きがいにする知的障害女性たち、必要もないのに精神病院の閉鎖病棟に収容されている重度知的障害者たち……。一事、メディアを賑わせたあのレッサーパンダ事件の犯人とその家族にも迫ります。そこには高校にも行けず、癌に侵されながら兄(犯人)と同じく知的障害を持つ父の面倒を見続けた若き妹の存在がありました。
その衝撃的な内容に心を奪われ、一気にゲラを読んだ私は、山本氏に電話でこの作品を書くにいたった事情などのお話をうかがいました。
――執筆にはどれくらいかかりましたか。
山本 02年8月13日に出所して4年かけたことになります。障害者施設の支援スタッフをやりながら執筆を続けました。
――この本を書くにいたった心境は?
山本 服役するまでの私は、刑務所に重度知的障害者などいるわけがないと思っていました。彼らは福祉からも教育からも親族からも見放され、司法の網にようやく引っかかってきた人たちです。私も議員時代に「セーフティーネットの構築で安心できる社会を」などともっともらしく語っていましたが、日本の福祉のセーフティーネットはあまりにも脆弱でした。触法知的障害者にとっての安住の地は刑務所なのです。その現実を知って愕然とし、忸怩たる思いをしたことが、出所後の障害者支援活動や執筆の原動力に繋がりました。
――タイトルが刺激的ですが?
山本 覚悟と期待をこめています。「知的障害者は犯罪を犯しやすい」と言っているかのように誤解されかねず、障害者本人及び福祉関係者からクレームが来るかもしれません。でも、この本は“なんとなく癒し癒される美しい関係”に満足している日本の福祉に対する挑戦ですから、感動的に美談調で取り上げることはしたくありませんでした。どう読んでもらえるか、楽しみにしています。
――日本のメディアでは悲劇的な事件も「頭のおかしな人が犯した犯罪」として片付けられていることが多いように感じます。しかしそれでは解決できるものもできません。
山本 そうなんです。知的障害者が犯す犯罪には、誰も目を向けようとしない社会の闇が大きく関係していると私は考えています。しかし、マスコミはタブーに触れようとせず、事件の猟奇性にばかりクローズアップします。日本の福祉の現場も同じで、前科が加わった障害者に対して概して冷淡です。知的障害者の罪を対岸の火事として見て、司法に投げてしまいます。
私も一時期は『新潮45』や週刊新潮の「黒い報告書」にはまっていたことがあります。「読み応えあり」と自信を持っておススメしたいと思います。ただし、読み応えがあり過ぎて、心にズシリと来てしまうかもしれません。
投稿者 和田紀央 - 18:30| Permanent link | トラックバック (0)

