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阿部重夫編集長ブログ「最後から2番目の真実」

ソニーの「沈黙」12――「リヤドの助っ人」の不自然な発言

2005年12月28日 [ソニーの「沈黙」]

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12月22日付の日経朝刊国際面に載ったサウジアラビアの富豪アル・ワリード王子のインタビューについて、続きを書こう。

ひとつ、私的なエピソードを紹介しよう。私のロンドン駐在時代(1995~98年)に、カイロ支局の記者から興奮した電話がかかってきた。アル・ワリード王子と電話でしゃべったという。当時、サウジはビジネス目的なら入国できても、ジャーナリストはご法度という「鎖国」状態で、リヤドは外国人記者にとって砂漠の彼方の「幻の都」だった。商社マンが自在に出入りしているのを指をくわえてみているほかない。

「そいつはすごい!」と私はうなった。「で、何か聞けたの」

この記者はアラビア語が堪能で、試しに王子の本拠キングダム・ホールディングス本社に電話を入れたところ、交換手が本人に直接つないでくれたらしい。10台のテレビモニターを並べ、衛星回線で送られてくる米国テレビの経済チャンネルを眺めながら、携帯電話で投資の指示を出していた最中だったのだろうか。いきなり「ああ、私だが……」と王子が出てきて「君は誰だ?」と聞き返したという。記者は名を名乗って食い下がったが、やはり質問には答えず、電話を切られてしまったという。

「うーん、残念だけどね。それじゃ記事にならないなあ」。しかし、肉声を聞いただけでも当時はスクープだった。それほどアル・ワリード王子は「幻の人」だったのだ。

その後はだんだん公の場に現れるようになり、2001年の9.11事件直後は、「親米派」として訪米、「湾岸戦争で米国に助けてもらったことを忘れない。少しだけ異論があるのはパレスチナ問題」と言ってひんしゅくを買い、ニューヨークのジュリアーノ市長(当時)から1000万ドルの見舞金を突っ返されるという憂き目もみた。

今回のインタビューに先立つ12月6日には、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれたアラブ思想財団(Arab Thought Foundation、総裁はサウジのハリード・アル・ファイサル王子)の第四回年次総会に出席し、アラブと世界のメディアを論議する分科会で講演に立っている。かつてのような「シャイ」(人見知り)ではなくなったらしい。

王子の正式名はアル・ワリード・ビン・タラール。サウジ建国の祖イブン・サウド初代国王(アブドルアジーズ)の孫世代にあたる。総資産236億ドルと言われるが、実際にはどれだけの資産に膨らんでいるのか誰も知らない。孫正義氏やホリエモンらいまどきの「IT長者」とは格が違う、雲の上の存在である。

現在50歳だが、アメリカのシラキュース大学を卒業してすぐ投資家になっており、王家の資産の運用も任されているといわれる。国際投資界にその名を轟かせたのは今から14年前の1991年だから、表舞台へのデビューは30代だったのである。

当時、アメリカの金融界は放漫経営だったS&L(貯蓄貸付組合)の崩壊に端を発し、マネーセンターバンクと呼ばれた大銀行もみるみる不良債権が膨らんで追い詰められていた。その雄シティーコープは91年に4億ドルの赤字を計上、創業以来の無配に陥った。誇り高きバンカーの象徴ジョン・リード会長は、不良債権の巨額償却や1万4000人の削減、非戦略部門の売却などで大ナタをふるったが、それだけでは足りなかった。

サウジに救いを求めたのだ。それがアル・ワリード王子だった。5億9000万ドル(約700億円)にのぼる出資で、資本毀損の恐れまで指摘されたシティは救われた。その後もこの「砂漠の助っ人」は、アメリカの老舗百貨店サックス・フィフス・アベニュー、欧州進出を果たしたもののフランス人の反感を買って経営が苦しいユーロ・ディズニーのほか、フォーシーズンズ・ホテル、プラザ・ホテルなど窮地の有名銘柄を拾っていく。

1997年からは瀬戸際に追い詰められたアップル・コンピューター、資金難に陥ったニューズ・コーポレーション、タイム・ワーナー、ヒューレット・パッカード、アマゾン・ドットコムなどITや情報関連にも手を広げていくが、その顔ぶれを見ると、案外ミーハーというか、株の銘柄選びも「セレブ」好きではないかと思えてくる。

王子の投資手法は「投資の神様」と言われるウォーレン・バフェット(バークシャーハサウエー会長)に似て「バイ・アンド・ホールド」(長期投資)である。つまり、業績不振で割安になった銘柄を底値で拾い、経営立て直しで値があがるのをじっと待つ――が、「サウジのバフェット」という王子評に、バフェット本人が「いや、私のほうがアメリカのアル・ワリードさ」と本家を返上したという笑い話もある。

日経のインタビューでも「トレーダーでなく長期投資家だ」と強調し、投資先の条件として、割安な株価と、マネジメントが確かで活力があり、競争力がある企業を挙げている。その候補として1社だけソニーの名を挙げるのだが、インタビューは英語で行われたと思うが、原文が分からないので記事本文を引用する。

「(ソニーは)高いブランド力を持ち国際的に強い企業だが、(業績不振で)株価は下がっている。しかし外国人の新会長のもと、日産自動車のような復活は決して不可能ではない。今の株価が底値だとの確信があればもう買っているが、今後の株価や業績の展望を社内や独立系調査機関を使い真剣に調査しているところだ」

王子のこの発言は不自然である。もし本気でソニー株購入を検討しているなら、王子のような有名投資家が買う前にそれを明かしたら、たちまち値があがって(現にこの記事で年初来高値を更新)底値買いの好機を逃すことくらい、プロの投資家の常識だからである。おしゃべりは損のもと。秘策こそ上策、が投資の常道だ。しかもストリンガー会長が「ソニーのカルロス・ゴーン」になれないことくらい、調べればすぐ分かるはずだ。

この発言の裏にはなんらかの魂胆があったはずである。

投稿者 阿部重夫 - 06:00| Permanent link | トラックバック (0)

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* 発行人 阿部重夫 *

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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