阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

2005年12月12日 [ソニーの「沈黙」]ソニーの「沈黙」3――血祭りになったヤラセ「体験日記」

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ウォークマンAシリーズの発売4日前に始まった「メカ音痴の女の子のウォークマン体験日記」は、近来まれに見る企業広報の壮大な失敗だった。ブログをつかった安手の世論操縦が、どれだけ痛烈なしっぺ返しを食うかを思い知るべきである。

致命傷は写真だった。pinkyというブログの主人公が、届いたウォークマンを手にした写真をネットに公開したのである。いかにも素人っぽく撮ってあるが、ネット空間にはいくらでもプロがいる。影がふたつあることから、タングステンハロゲンランプとスタンドを使っていると見破られた。そんな重装備で撮影するなんて素人であるはずがない。

このpinky嬢、自分の顔は見せない(一度、写真が載ったそうだが本物?)。それにしてはあざといことに、「早速音楽をダウンロードする予定が、自分のパソコンがmacだったことに気づき、撃沈。。。 windowsのパソコンを買って、やっとダウンロードしてみました」と書いた。ウォークマンを使うのに、パソコンを買い換えるなんて不自然。しかも、ウォークマンの不倶戴天の敵iPodのメーカーであるアップル製のMac パソコンをけなすにひとしい。ところが、写真の背景に映っているキーボードはウィンドウズのもので、それを指摘されて狼狽した。

嘘は重ねるほどボロが出る。

「先日写真は会社でこっそり撮ってたんです。自宅PCはMACのPOWARBOOKで、しかも1年以上放置状態でした。 なんだかいろいろと、ヘンな誤解を与えてしまったみたいで、本当にすみません。写真も削除しました」

と言い訳の文章が載ったが、時すでに遅し。別人の名を使った、やはりヤラセらしいサイトの

「前はVAIO-Wシリーズをデスクトップにリンゴマークのノート、という組み合わせで使っていたんですが、リンゴマークのノートは自分的にちょっと使いづらくて。。。 いかんせん重かったので。。。持ち歩いているうちに、2年ちょっとで破壊してしまいました」

というくだりとともにキャッシュでとられて、無残なことに今もネットでソニーの恥部をさらしている。

この「体験日記」には怒涛のような抗議が押し寄せ、わずか数日で閉鎖になった。世にいうネットの「祭り」(血祭り)で、サイトは「炎上」したのである。私の問い合わせに寄せたソニー広報センターの回答では、「ソニーマーケティング(株)が企画、So-netの場を借りて実施した、ブログ形式のモニター体験レポート」「ウォークマンのプロモーション活動の一環」であることを認めている。

ただ、「カタログなどでは伝えきれない“実際に使用した体験”をお伝えすることを意図していました。この企画を実施するにあたり、ソニーマーケティング(株)より製品の貸与は行いましたが、ブログ内の体験レポート記事はあくまで“各モニター個人の体験”に基づくもので、pinkyさんの体験によるコメントに、ソニー側からのコントロールや『ヤラセ』を行った事実はございません」と言い張っている。

さてね、プロモーション狙いのブログって、ヤラセ以外の何ものでもないと思うがどうだろう。どうみてもプロが手伝っている写真といい、「坊主憎けりゃ」とライバル製品をけなす隠微な性格のモニター嬢の顔が見てみたい。このブログ制作に関わった周辺に聞いてみると、広告の予算が乏しく、ブログなら安上がりですむという安易な発想だったらしい。pinkyさんの出演料はウォークマンの現物支給(貸与ではなかった?)だそうだ。

おお、まさに安上がり。だが、「貧すれば鈍ず」である。

エレクトロニクス部門の赤字で青息吐息のソニーは、確かにこのところ、新製品の発売当初しか大々的な広告を打てない。ウォークマンですら短命で、薄型テレビの「ブラビア」だ、パソコンの「VAIO」だ、とあちこち手を広げていることが裏目にでて、日本軍の敗因である「戦力の逐次投入」さながらの半端なキャンペーンばかりである。そういう根源的な広告戦略の誤謬に目をつぶって、ソニー本社の“大本営”では「ソニーマーケティングのドジ」を責める声があがっているという。

ああ、ソニーはガダルカナルか。


※お断り:下線部分は読者のご指摘により加筆しました。正確を期すためです