「風蕭蕭」

「アイルランズ・コール」の心

2019年11月号 連載 [編集後記]

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アイルランズ・コール

“Ireland, Ireland, Together standing tall, Shoulder to shoulder, We’ll answer Ireland’s call.”

(ラグビーW杯日本大会のアイルランド代表および観衆、9月28日、静岡エコパスタジアム)

アイルランドのラグビー代表チームは、アウェイの地で戦うとき、アイルランド共和国の国歌ではなく『アイルランズ・コール』という歌を歌う。ホームでは国歌とこの歌の両方を歌う。

日本人も大好きな『庭の千草』や『ダニーボーイ』などアイルランド民謡っぽい美しい旋律、「アイルランド、アイルランド、我々は共に自信を持った態度で、心を一つに、アイルランドの叫びに応えよう」(意訳)という部分の力強いコーラスは、選手、観客を奮い立たせる。

なぜアイルランド代表チームは国歌を歌わないのか||。それは彼らがアイルランド共和国とイギリスの北アイルランドの統一代表だからだ。歌ができた背景には、イギリスからの分離・独立とその後の北アイルランド紛争の歴史が折り重なって詰まっている。

それにしても今回のW杯では、ラグビーの国際試合の国籍条件のあまりの緩さに、国とは何か、国籍とは何か、国を愛するとはどういうことか、国際化とは何か、と考えさせられた。コメンテーターの中には、他の競技にない新鮮さに、「この姿こそ、今後日本が国際社会でとるべき道ではないか」と言う人まで現れた。

今月号のロレッタ・ナポリオーニさんの記事「英国『政治空白3年』の代償」(64~65ページ)は、イギリスの欧州連合からの離脱(ブレグジット)が、イギリスとアイルランドにどのような問題をもたらすかについて触れている。

イギリスの政治の混乱が、尊い犠牲のうえ、ようやく折り合った「ベルファスト合意」による今の姿を変えようとしている。

   

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