カノンキュア 創業者・CTO 汐田剛史

肝細胞シートで「肝硬変」治す

2019年11月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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汐田剛史氏

汐田剛史氏(しおた ごうし)

カノンキュア 創業者・CTO

1958年鳥取県米子市生まれ、61歳。83年鳥取大医学部卒。大学院修了後、米ハーバード大マサチューセッツ総合病院がんセンターに留学。2003年から鳥取大学大学院遺伝子医療学部門教授。16年4月にカノンキュアを設立。

――肝硬変とは?

汐田 肝臓の病気は正常な状態から急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変と進みます。偽小葉という結節の周りにコラーゲンが沈着し進行していきます。原因は7割がC型肝炎、2割がB型肝炎であとはお酒と脂肪肝です。肝硬変になると肝機能が著明に下がります。患者は日本に13万人いて、うち黄疸や腹水など症状が出ている方が6万人います。治療薬がないので症状が重くなると肝移植をしなければなりませんが、ドナー不足で実際に移植される人は年500人です。肝硬変で亡くなる人は年1万7千人になります。我々はこれだけ多くの人が亡くなるのに治療薬がない肝硬変を治す薬として肝細胞シートを開発しています。

――どうやって作るのですか。

汐田 間葉系幹細胞から作ります。通常、骨や軟骨、脂肪に分化するのですが、ウイント・ベータカテニン系シグナルという遺伝子発現の経路を抑制すると肝細胞になることを2006年に発見しました。さらに遺伝子操作でなく化合物で抑制できれば毒性が少なくヒトにも使えると考え、抑制力の大きいIC-2という化合物を作り出しました。シートの作り方は間葉系幹細胞を培養皿に入れ、IC-2を加え37度で1週間培養します。培養皿には20度になると疎水性が変わるポリマーを塗っておきます。培養できたところで20度にするとパカッと剥がれて肝細胞シートが出来上がります。

――効果のほどは?

汐田 間葉系幹細胞は肝臓に良い働きをするサイトカインや液性因子を出す性質があります。間葉系幹細胞から作った肝細胞シートはこの性質を失わず、かつ肝臓の機能を持っています。肝硬変になった肝臓に3枚ほど重ねて貼るとシートからマトリックス・メタロ・プロテナーゼという酵素が出続けてコラーゲンを溶かします。マウスでの実験ではわずか1週間でコラーゲンを40%も除去できました。

――開発の動機は何ですか。

汐田 私が診た患者さんで最初に亡くなった方は劇症肝炎でした。いろいろな治療をしましたが救命できず、このとき肝臓を再生させる方法を確立しないといけないと思いました。米国留学では肝細胞増殖因子による肝再生の研究に没頭しました。帰国後、ヒトiPS細胞の作製技術の確立を受けて始まった「再生医療の実現化プロジェクト」に選ばれ、IC-2を作り出せたので大学発ベンチャーとして会社を立ち上げました。日本で年1万7千人と申しましたが、世界ではアジアを中心に年100万人もの方が肝硬変で亡くなっています。肝硬変を治せれば肝がんも減らせます。何としても患者さんにこの医療を届けたいと思っています。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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