載れば「生涯追放」反社リスト

犯罪者は罪を償えば社会復帰できるのに、こちらは闇から闇に葬られる。絶対おかしい。

2019年9月号 DEEP

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「しっかり調べてリストから名前を消してほしい」と語る関塚聖一氏

もし、自分の名前が「反社会勢力リストに載っている」と聞かされたら人は何を思うだろう。長い人生、失敗の類いはいろいろあるが、どう思い返してみても悪事に手を染めた覚えはない。逮捕などもってのほか、警察署に呼ばれたこともない。なのに10年以上前から、会社の取締役への就任を拒否されたり、銀行融資を断られたり。

すべて反社リストのせいだろうか——。東京都にあるクイーンズゲイトコンサルタンツという会社の代表取締役、関塚聖一氏はそんな思いにとらわれ、悶々とした日々を送っている。

世間は反社会勢力とのかかわりが取りざたされただけで一斉に背を向けるようになった。企業社会はさらにコンプライアンスの衣を幾重にもまとい、もっとピリピリ。宮迫博之氏やロンブー亮氏ら吉本興業のお笑い芸人が特殊詐欺に関わる反社会勢力相手に「直営業」して謹慎処分をくらった件もそうだった。民放各局はスポンサーに手を引かれるのを怖れ、次の出演のみならず、過去に収録した番組やドラマの放映すら中止した。

ただ、今回はこのような反社話とはパターンが違う。ネットで反社とつながりがあるようなことを書かれただけで警察庁が作成する「反社会勢力リスト」に載せられてしまい、社会から爪はじきの目に遭う人が生まれる疑いがあるという話だ。

東証「ネット情報」で認定か

関塚氏は大学を出て1983年に日興証券に入った。4年後にロンドン勤務となり、バブル絶頂期と崩壊期を海外から見た。95年に退社し、M&Aや企業の資金調達を支援するコンサルティングの仕事を手がけてきた。

関塚氏が「自分の立場が明らかにおかしい」と思ったのはある裁判を係争中の2018年夏だった。13年、ターボリナックス・ホールディングスは地熱エネルギーを使った発電事業を手がけようと100%子会社の設立を決議。社長に関塚氏が就任し、同時にターボ社の取締役も兼任することを決めた。

この際の上場企業のターボ社が行った関塚氏に関する「反社チェック」で、「企業情報センター」が驚愕の報告書をターボ社に上げてきた。関塚氏について「平成17年10月、バーテックスリンクの代表取締役就任時、アイビーダイワの株式捜査による特別背任罪、未公開株詐欺等で大阪地検特捜部に逮捕された」「暴力団への利益供与で内偵中の人物」「指定暴力団山口組の二次団体及び住吉会と交流有り」と書かれていた。

にわかに信じがたいのでターボ社は別の会社にも調査を依頼した。するとこのような犯罪の履歴や情報は確認できなかったという。よってターボ社の取締役会は、関塚氏の100%子会社の社長への就任を承認。ただ、その後も調査は続けていた。

そのような状況の中、翌14年3月、東京証券取引所がターボ社にヒアリングを要請。トップや監査役ら役員が計2回、東京証券取引所を訪ねた。

このときのヒアリング内容と思しきものが、後に関塚氏が「企業情報センター」を相手取って起こした名誉毀損訴訟でセンター側の補助参加人となったターボ社の提出資料から明らかになった。資料とはターボ社の社員が東証と面談した内容を記録した社内報告用のメールだ。

メールには、3月5日の1回目のやり取りで、ターボ社が口頭で調査報告書の内容を説明すると、東証側からは「役員と反社会勢力との関係が判明した場合、上場基準に該当するため慎重な判断が必要との発言があった」旨が記されていた。

さらに3月11日には、東証の担当者がターボ社の監査役に、関塚氏は反社会勢力と疑わせるネット上の情報を指した上で、「ここまで灰色人物とネットで言われていて会社として選任するのですか」「普通の上場会社は灰色であればリスクを考え、選任しないのが一般的では?」と迫ったと記されていた。

記録によると、東証の指摘は、06年に起きた日本エルエスアイカードの前社長による背任事件を巡り、同社の資金流出先となったコンサルタント会社が暴力団に乗っ取られ、その企業の役員に関塚氏が就任したという記事に基づいて行われた。

ただ昨年、関塚氏が勝訴したこの件に関する訴訟の判決では、関塚氏の同社への役員登記は関塚氏本人への承諾なく行われ、実際に役員として活動したこともないと事実認定された。役員就任の時期と事件が起きた時期もずれていたと認定された。

そうなると、東証は不正確な記事の内容を基に関塚氏を誤って反社認定した可能性が出てくる。だが、東証を傘下に収める日本取引所グループは、関塚氏本人からの事実確認要請に一切答えようとしない。

疑惑の「警視庁ストーリー」

関塚氏は昨年、環境事業である上場企業と契約を結ぼうとした際、先方から契約を拒絶された。関塚氏は以前、東証は反社チェックで警察庁とデータベースを共有するという記事を読んだことがあるため、知己の警察OBを通じて「反社会勢力リスト」に自分の名前があるのか照会をかけてもらった。すると「暴力団とつながりのある関係者としてあなたの名前がある」との報告を受けたという。

関塚氏には「あの事件がきっかけかも」と思える出来事がある。

関塚氏は05年、バーテックスリンク(現ストライダーズ)の社長に就任した。バーテックスの子会社が、ヘラクレス上場のアドテックスのアドバイザーとして同社の資金調達のアレンジをした矢先の07年。アドテックスに新しく入り込んだプロレス雑誌の出版社元社長の前田大作氏、山口組系の下村好男元組長らが会社の資金を不正に元組長らの会社に流したとして民事再生法違反容疑で逮捕された。関塚氏によると、下村氏を同社に引き込んだ前田氏を役員に強く推薦したのは創業者の長谷川房彦元社長だったが、警視庁は長谷川氏に告発させ、「前田や下村をアドテックスに引き込んだのは関塚」というストーリーにしたと仄聞したという。

関塚氏はまったくの虚偽話であるので当時は相手にしなかったが、十数年経った今、この虚偽情報で社会から追放されているのであれば黙っておれないとして昨年、内閣総理大臣や法務省、警察庁や日本取引所グループなどに調査を求める手紙を送った。しかし、金融庁から「情報は省内関係各所で共有する」との話があっただけで、他はなしのつぶてだったという。

クレジットカードの信用情報「ブラックリスト」は本人が問い合わせれば登録内容を伝える仕組みが備わっているが、反社リストに問い合わせ先はない。リストに載せられたら最後。消去する手立てがまったくない恐ろしい仕組みなのだ。

   

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