異次元の目標へ トヨタが「電動車チャレンジ」

2030年に電動車550万台。プリウスを生んだ「電動車のパイオニア」が挑む100年に1度の大変革。

2018年4月号 INFORMATION

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記者会見でパナソニック津賀一宏社長(右)と握手するトヨタ自動車豊田章男社長

クルマを取り巻く「100年に1度」の大変革の時代がやってきた。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボティクスなどの技術革新でライフスタイルが大きく変わろうとしている。世界の自動車産業の「EVシフト」が騒がれる中、グローバルで1千万台の量販メーカーとして、お客様へ多様な電動車をお届けするという、トヨタが目指す「全方位」の取り組みが注目を集めている。

トヨタは昨年末、2030年までの電動車(ハイブリッド車=HV、プラグインハイブリッド車=PHV、電気自動車=EV、燃料電池車=FCV)普及に向けたチャレンジを公表した。「現在、年間約150万台の電動車販売を30年までに550万台に拡大します。その実現のために異次元の取り組みを開始します」(寺師茂樹副社長)

トヨタが掲げた目標は▽2030年にグローバル販売台数における電動車を550万台以上、ゼロエミッション車であるEV・FCVは、合わせて100万台以上を目指す、▽25年頃までにグローバル販売する全車種を、HV・PHV・EV・FCVなどの「電動専用車」もしくは「電動グレード設定車」とし、エンジン車のみの車種はゼロにする。さらに注目のEVは20年以降、中国を皮切りに導入を加速し、20年代前半にグローバルで10車種以上を販売する。併せてFCV、HV、PHVの商品ラインアップも拡充。従来のエコカーの枠組みを超えた、意欲的な全方位の展開だ。

プリウス量産で培った電動化技術

15年に制定した「トヨタ環境チャレンジ2050」では、50年にCO2排出量を10年比90%削減する目標を掲げる。これと同時に掲げた「20年に電動車販売台数150万台」の目標は、3年前倒しで達成した(17年=過去最高152万台)。それを12年後の30年に3倍以上(550万台)に拡充するというのだから、掛け値なしの「異次元のチャレンジ」となる。

97年に世界初の量産HV「プリウス」を発売し、これまで90以上の国・地域で1100万台以上の電動車を販売してきたトヨタは、クルマのCO2削減をリードする「電動車のパイオニア」だ。14年には究極のエコカーとして、FCV「MIRAI」を世界に先駆け発売し、20年には中国を出発点にグローバルで10車種以上のEVを販売する計画だ。そこでは、プリウス量産で培った技術とノウハウが注ぎ込まれる。「電動車にとってモーター、バッテリー、インバーターが『三種の神器』です。これにエンジンを組み合わせるとHVができ、充電機能を加えるとPHV、燃料電池と水素タンクを積み込むとFCV、そのままならEVになります」と、トヨタ広報部グローバルコミュニケーション室の技術担当部長・中井久志さんは自信満々だ。

画期的なパナソニックとの「協業」

EV普及のネックとされてきた電池開発にも力を注ぐ。1925年、トヨタの始祖、佐吉翁が夢の電池「佐吉電池」を構想して以来、トヨタは次世代電池開発に取り組んできた。内製に拘るトヨタが「電動車チャレンジ」を公表する直前に、パナソニックと電池事業の「協業」を発表したのは特筆に値する。「電動車のキーファクターでもある電池というピースが埋まり、『電池を制するものが電動化を制する』体制が整った」と、寺師副社長はパナソニックとの協業の意義を語った。

トヨタのチャレンジは、電動車を支える社会インフラ整備にも向けられている。1月31日、トヨタの電動車から回収した電池を、中部電力がリユースし、大容量電池システムを構築する基本合意が発表された。2月20日には、電動車のモーターに使用されるレアアースの使用量を減らし、高温環境でも使用可能な世界初の新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」を開発したと発表した。「電動車普及に向けてレアアース問題は避けて通れません。売ったら売りっぱなしではなく、電池のリユース、リサイクルにも取り組んでいます」(中井さん)

16年に世界で販売された電動車(HV、PHV、FCV、EV)は約323万台。このうち140万台(43%)を占めるトヨタは、エコカーのトップランナーだ。その満を持した「電動化シフト」は、2年後中国での量産EV本格導入で幕が開く。トヨタ・レクサス両ブランドでグローバルに車種展開を拡大し、日本やインド、米国、欧州へと攻め込む計画だ。10車種以上を揃えるというラインアップが今から楽しみだ。

(取材・構成/本誌編集部 和田紀央)

   

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