木下化血研が「無議決権株」トリック

コンソーシアム案に綻び。自ら古巣を手引きして、将来の過半数株主「密約」まで無理算段。

2017年12月号 BUSINESS

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木下統晴理事長

Photo:Jiji Press

本誌前号のスクープ「化血研『事業譲渡』の不条理」を受け、加藤勝信厚生労働相は10月20日の会見で「事業譲渡を含め組織体制の抜本見直しを確認していきたい。いつまでに何をしろと言う立場にない」と述べた。何が何でも事業譲渡と迫った塩崎恭久・前厚労相の路線を「踏襲する」とした就任直後の姿勢が後退、化血研の自主的判断に委ねて距離を置いたかに見える。

だが、大臣の舌の根も乾かぬうちに、化血研の木下統晴理事長は同日夕、厚労省で幹部と密談した。理事長就任以来、6月30日、7月31日、9月11日と毎月の厚生省詣でを重ねる。本誌が報じたコンソーシアム(共同出資会社)への事業譲渡案の省内説明では、同省医政局の三浦明経済課長に同行している。

Meiji Seika ファルマの小林大吉郎社長は化血研の木下統晴理事長の後輩

Photo:Jiji Press

しかし二川一男・前厚労事務次官と船津昭信・元理事長の3月秘密会談を本誌が暴露したため、武田俊彦医政局長(医薬・生活衛生局長から異動)は直接関与しにくくなった。譲渡先最有力のMeiji Seikaファルマ(MSP)以外の製薬会社に「熊本県が共同出資会社案を進めているから」と暗に牽制するだけだが、監督官庁として利益誘導・官製談合を疑われている。

12月「明治」決着めざす

だから木下は厚労省の繋ぎとめに必死だ。化血研では外様だけに、10月19日の評議員会で「厚労省に逆らったらつぶされる」と恐怖心を煽り、国に従う事業譲渡しかないと強調した。が、コンソーシアム案の譲渡価格やその顔ぶれなど具体案を提示せず、評議会も決定に至らなかった。ところが、木下は12月決着、プレス発表をめざして事実上のMSP一社決め打ち。自身がかつて執行役員を務めた古巣に“献上”すれば背任が疑われる弱みも何のその、と突き進む。

現に木下は理事だった昨年12月末、MSP執行役員(生産本部長)の永里敏秋にメールで頼まれ、年明けに化血研の医業営業本部長や動物薬事業本部長に引き合わせている。3月24日、永里は化血研菊池研究所を視察、熊本大学薬学部の甲斐広文教授(現役員選任・報酬諮問委員会委員)にも会った。早くから木下が後輩に便宜を図り、手引きしていたことは明らかだ。

MSPは旧明治製菓の明治ホールディングス傘下にある非上場企業だが、親会社の看板とは裏腹に、医薬品市場10兆3800億円(薬価換算)では100分の1のシェアしかない国内29位の下位に低迷する。16年度売上高1616億円に対し経常益は47億円と苦戦、化血研よりずっと低収益で、ワクチンや分画製剤のスタッフも経験もない。

過去には抗生物質の主力メーカーだったが、医療用医薬の研究所は弱体化して新薬開発は望めず、今や後発薬(ジェネリック)が主体。食品が強い明治グループでは傍流だ。バイオロジックス開発の経験に乏しく、疫病リスクの最前線に立つ化血研を抱えられるか疑問符が付く。

11月6日、木下は厚労省の薬事・食品衛生審議会(血液事業部会運営委員会)に出席、次回の評議員会を待たずに「現行の一般財団法人でなく事業譲渡でいきたい」と表明した。所内や一部評議員に出てきた譲渡疑問視に焦り始めたからだろう。

ガラス細工の粗が見えてきた。奉加帳を回す地元7社の足並みがそろわず、資金調達困難な企業もあるらしい。しかも譲渡後は内部留保金が全て財団に残り、新会社は人件費などの運営資金にたちまち困窮する。

そこで新会社の資金繰りに、譲渡前に財団が設備投資を先払いするほか、「無議決権株」というトリッキーな案が検討されている。議決権を有さない株を化血研かMSPに持たせるというが、前者は一般財団法人のままでいることと実質的に何の違いもない。後者だと、割安とはいえ100億円前後も出資しながら49%とマイナーなシェアしか得られないMSPが、議決権付株式に転換可能な株に出資する道が開かれ、将来、過半数株主になる「密約」に等しい。明治HD取締役会や株主を納得させる方便だが、地元や一般所員は「まやかし」としか思うまい。MSPへの高値売却をあてこみ新たに出資希望の企業が出て混乱している。

評議員会飛ばしも画策

化血研の財務アドバイサーはデロイト・トーマツ・ファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)で、会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。東芝に悪知恵を授けた過去がこれでは蒸し返されかねない。

本誌質問状に対し明治HDとMSPはノーコメントだった。

なりふり構わぬ木下は、評議員会飛ばしも考えている。事業の全部譲渡でなく一部譲渡にして(非譲渡部分は1%以下?)、評議員会の決議事項から外し、理事会主催の評議員会説明会にして、千葉泰博弁護士が「評議員に善管注意義務は生じず、法的責任はない」と説明する。内諾を得たうえで、理事会の最終決定に持ちこむという算段だ。

加藤厚労相は化血研に「強固なガバナンス体制や厳正なコンプライアンス」を求めたが、木下はむしろ逆行している。就任後に問答無用で幹部3人の降格と専任顧問7人の解任を行い、コンプライアンス委員会や法務・コンプラ部コンプラ課も廃止、内部告発のヘルプラインも自分の目が届く総務部人事課に移し、新設のアドバイザリーボード会議も延期したままだ。

解任された顧問の一人は、不当解雇(解任)と反発して化血研を提訴している。次回の血液事業部会で木下は、品質管理担当理事・信頼性保証本部長だった自分の責任を棚にあげた現状の専断をどう説明するのか。

木下は11月8日から部長級と一般所員に対し6回に分けて説明会を開いた。中身は10月の評議員会と同じで、批判派を非難し、迎合と恫喝を織り交ぜて事業譲渡に従えというものだ。

「患者団体に密接に連絡した」と言うが、HIV訴訟原告団副代表で社会福祉法人「はばたき福祉事業団」の大平勝美理事長は同意していない。本誌に「具体的な是非を言う立場ではないが、①国内の血液事業における製造、供給を担当する国内メーカーの一つとして、献血血液による国内自給の達成をはじめとした血液事業の目的を果たすという社会的要請を達成していく精神を引き継げるのか、②HIV訴訟原告団として、訴訟の被告企業である化血研の和解確認書の責務がどう引き継がれていくのかが不明で、いずれはっきりしていただかなければと考えている」とコメントした。

無理が通れば道理が引っ込む。「トラの威を借りる」木下には大義がない。(敬称略)

   

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