「ウォンテッドリー」が上場日経が担ぐ「未熟な女社長」

株主、主幹事証券、東証といった周りの大人たちも、32歳の仲暁子社長を持ち上げるだけでなく、しっかりとアドバイスすべきだ。

2017年11月号 BUSINESS

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ウォンテッドリーの仲暁子社長

Photo:Rodrigo Reyes Marin/Aflo

IT業界には女性が少ないと言われるが、9月14日に東京証券取引所マザーズ市場に最年少女性経営者として上場を果たしたのがウォンテッドリーを率いる32歳の仲暁子社長である。

ウォンテッドリーはフェイスブック上での求人・求職のための交流サイトであり、企業が月額3万円から求人広告を出すことができる。

仲は2008年に京都大学経済学部を卒業、新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し日本株の営業に携わった後、10年にフェイスブックの日本法人に半年程勤務し、10年の9月にウォンテッドリー(当時の社名はフューエル株式会社)を起業している。その華麗な経歴とメディアへの露出、スタートアップから官界まで交遊関係を広めた仲はITベンチャー界隈では非常に目立つ存在であった。

上場時には株式の7割弱を仲が保有し、他の株主にはサイバーエージェント社やDeNA共同創業者の川田尚吾、Gunosy取締役の木村新司など起業家から転じた著名なエンジェル投資家らが名を連ねる。

「職業紹介」に該当しないか

このウォンテッドリー、晴れ晴れしい上場前後に実はいくつかの「炎上」が起きていた。上場直前の8月下旬、同社について批判的な内容を書いたとされるブログがネット上の検索結果から削除されていると、ネット上で囁かれ始めた。話題になったのはITベンチャー企業の株式会社INSTの社長である石野幸助のブログ記事「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」が、DMCAによって削除されたという疑いであった。DMCAとは聞きなれない言葉かも知れないが、00年に米国で成立したデジタルミレニアム著作権法の略称であり、グーグルのように検索結果のコンテンツ表示を行う会社に対して、著作権を侵害された者が、申し立てによりコンテンツを削除させることができるものである。ウォンテッドリーは自社に批判的な記事について、仲のプロフィール画像を無断使用されたということでDMCA申請し、グーグル検索から削除させたのだった。石野が批判したとされる記事は、有価証券報告書を参照し、同社が時価総額を前回の資金調達時の90億円から上場時に40億円に下げたダウンラウンドIPOである点や各従業員に1%未満のストックオプションしか発行していない、といった内容であった。ウォンテッドリーがDMCAを悪用し批判を封じ込めたという風評は瞬く間に、IT業界のエンジニアたちに広まり、元来、インターネット上の自由を希求するエンジニアたちの同社への失望の声となり、一部ではユーザであったエンジニアたちのウォンテッドリーからの退会へとつながった。現在では同ブログ記事は復活しており、批判を封じ込めるために打った手で逆に炎上の拡大を招き、上場直前に会社の風評にミソをつける結果となってしまったのである。

また、かねてからウォンテッドリーはアプリで企業と個人の事実上の求人・求職が可能ではあるが、あくまで共感を重視するビジネスSNSであり、求人媒体ではないと主張してきた。一方で同社は出稿者である企業に給与、福利厚生、雇用形態の掲載を禁じてきたが、同社の業務は職業安定法上の「職業紹介」に該当する可能性が否めず、これらの明示義務が指摘されてきた。ウォンテッドリーは『シゴトでココロオドル』人を増やすことを標榜しているが、ともすれば給与、雇用形態を明示しないブラック企業でも求人のような広告ができてしまうのだ。上場前日の9月13日に著名ブロガーで投資家である山本一郎によって上記の問題を詳述した記事がヤフー!ニュースに掲載され非常に注目を集める結果となった。こうして風評リスクを抱えつつウォンテッドリーが、上場を果たしたのは先述の通りだ。

「上場」の重みがわからない

日経新聞は上場当日の9月14日、「ウォンテッドリー初値つかず 女性トップのフェイスブック流経営」という記事で仲を「同世代の女性起業家では『フロントランナー』」と持て囃した。この時、日経以外のメディアの露出が少なかったのには訳がある。取材が決まっていた複数のメディアによれば「DMCA問題について質問するのであれば取材は受けない」との通達が同社からあったそうである。実は日経新聞は同社の株主(1.17%)であり15年6月に資本業務提携を行っている。日経記事にはアナリストレポートにあるような利害関係の存在に関する開示が無く、中立性を標榜するメディアとしては死活問題ではなかろうか。無論、既存株主のヨイショ記事と疑いを持たれても仕方なく、日経がマーケットの規律を甘く見過ぎている感は否めない。

上場当日、あろうことか仲は上場記者会見を「都合がつかなかったため」キャンセルした後、日経CNBCにはライブ出演した。目論見書によれば、同社は上場で得た資金をオフィスの内装費に使用するとのことだ。仲は日経に対し「人類の底上げに貢献」したいと語っている。著名な株主との交流を誇るのもいいが、上場して社会の公器となった今、市場の規律への配慮、従業員、ユーザへの目線などがより一層必要となろう。仲は証券会社出身でもあり上場の重みも理解すべきだ。ちなみに仲は本誌の文書による質問(なぜ、上場記者会見をキャンセルしたのか)にも一切答えなかった。

同社は企業にとって重要情報である名刺サービスも展開し、コンプライアンス遵守は必須である。株主、主幹事証券、東証といった周りの大人たちも、仲を持ち上げるだけでなく、しっかりとアドバイスすべきだ。マザーズはシリーズB(未上場時の第2回資金調達)とも揶揄される。これでは、いつまで経っても日本のベンチャーは一流にはなれない。

上場後、同社の株式は流動性が乏しく、需給が逼迫し、公募価格の約5倍の初値をつけた。まさか高値でロックアップが外れるので、経営者がキャッシュインして上場ゴールとなり、シンガポールに移住などしないだろうが、これからが正念場だろう。耳目を集めると過去に辞めた人間も喋りはじめる。仲は起業家になる前は漫画家を志していたという。周りのステークホルダーへの想像力こそが今、必要である。(敬称略)

   

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