なりわいとにぎわい取り戻す「希望の大麦」

津波で被災した東松島市で、官・民・産・学連携のプロジェクト。荒れ地となった土地に大麦を栽培、地元の新たな名物が誕生。

2016年9月号 INFORMATION

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旧奥松島運動公園の大麦畑(今年5月)

好評の洋菓子ダクワーズ

地ビールは11月に追加発売の予定

仙台湾沿岸の宮城県東松島市。松島と石巻に挟まれた風光明媚な海沿いの街で、6月6日、大麦の収穫が行われた。もとは奥松島運動公園だった一角に広がる、1.5haもの黄金色の絨毯。この日、豊かに実った2トン以上の大麦が刈り取られた。

東日本大震災で津波に襲われた旧公園に大麦畑ができたのは、昨年のことだ。

地元で設立された復興支援組織、「一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)」は、市の外郭団体としてさまざまな課題に取り組む。HOPEが地元の人々の声を聞く中で、寄せられたのが「被災した土地の有効活用」という課題だった。市の面積102km²のうち、津波により浸水したのは実に36%の37km²。多数の住宅が被災し、農地も塩害を受け、2013年当時は「まったくの荒れ地が広がっていた」(関係者)。新しい仕事の創出も急務だった。

議論する中で浮かんできたアイディアが、遊休地での大麦栽培。大麦は広い土地を利用してできる「土地利用型作物」であり、ビールや麦茶、菓子などの原料になる。栽培を通して被災地に「なりわい」と「にぎわい」を生み出したい――。そこで市や市民、地元農業関係者に加え、復興庁やアサヒグループホールディングス、東北大学の官・民・産・学が連携し、人材やノウハウを提供。「希望の大麦プロジェクト」が始まったのだ。

14年に試験栽培を開始。栽培エリアは広がり、15年6月には1.2トンを収穫した。この成果を励みに被災した沿岸地での本格的な栽培に乗り出し、旧奥松島運動公園の一角を市から借り受け、同10月に播種。冒頭の収穫にたどり着いた。

大麦の商品化のため、プロジェクトのメンバーはワークショップや協力者探しにも奔走。その甲斐あって、昨年収穫した大麦は麦茶や洋菓子のダクワーズに加工されたほか、東松島地ビール「GRAND HOPE」として醸造された。地ビールは市内で今年2月、3千本限定で売り出され、1カ月で完売。フルーティな香りとさっぱりとした味わいで、「地元が元気になるお酒」と、増産したほどの人気を呼んでいる。再度の完売後も多くの要望があり、11月には追加で3千本を発売する予定だ。

栽培から加工、販売まで多くの人の手を経た、新たな街の名物の誕生。地域の産業として溶け込み、定着することを目指し、新たなネットワークとビジネスが東松島市に生まれつつある。(編集部)

   

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