鶯谷健診センター

快適空間と充実サービスで 「選ばれる人間ドック」の時代

2016年9月号 INFORMATION [未知の贅沢]

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アテンダントの案内で検査の前もリラックスムード

健康診断といえば、サラリーマンの場合、毎年勤務先や決まった健診施設で受ける人が多い。だが、実は施設により設備やサービス内容にかなり違いがあることをご存じだろうか。

2008年度から始まった特定健康診査(メタボ健診)の対象者が増え、健康診断や人間ドックを受診する人が増加する一方、健診の単価は低迷している。そんな中で健診業界は、いま変化の過程にある。健康志向の高まりを受け、全国の人間ドックを検索・予約できる「MRSO(マーソ)」「ここカラダ」といった専門サイトがオープン。内容や価格で健診施設の比較がしやすくなってきた。また最近では、施設がオプション検査を充実させて差別化を図り、人間ドックの受診者数が伸びる傾向もあるという(矢野経済研究所の調査による)。

東京・台東区にある医療法人社団せいおう会「鶯谷(うぐいすだに)健診センター」は、こうした変化をいち早く予測し、対応してきた先駆的な健診施設だ。

同センターで、人間ドックを体験してみよう。

初めて訪れた人はフロアの雰囲気に驚くだろう。待合ロビーにはゆったりと座れる椅子が並び、あちこちに絵や花が飾られ、まるでホテルのよう。聞けば空間デザインで2010年のグッドデザイン賞を受賞したという。アロマの香りが漂い、静かに心地よい音楽が流れる。

オプション検査は受診の当日でも申し込みが可能。発がんリスクを調べる腫瘍マーカー、レディース検査から、CTやMRI、マンモグラフィ、各種内視鏡検査も。検査メニューの充実は大病院なみだ。

検査が始まると、スーツ姿のアテンダントが誘導。丁寧な接客で迷うこともなく、医療スタッフによる血液検査も心配りが感じられる対応だ。待合ロビーの椅子には各々iPadが常備され、女性の更衣室には化粧水や乳液まで備える。

人間ドックで好評のオリジナル弁当

血液検査のコーナー

受診者には検査後、食事のサービスがつく。専用ラウンジでの食事はヘルシーな和風弁当かイタリア料理店監修のハーブサラダプレートの2種類の選択。食事が終わって寛いでいると、個室に呼ばれ、その日の検査の結果を医療スタッフがモニターでわかりやすく説明。同じ建物に検査ラボも備えており、すぐに分析を行うため、その日のうちに基本的な検査の結果がわかる。

体験を通じて、これまでに受けた健診と比べても、隅々まで受診者のニーズに応えようとする姿勢が窺える。予約は3カ月先まで一杯。センターでは巡回バスによる健診も含め年間27万3千人の受診者を受け入れているという。

寺や和菓子屋など下町らしい雰囲気が残る根岸に戦後まもなくできた、地域の診療所兼健診施設が、鶯谷健診センターの前身だ。旧社会保険庁傘下だったが、09年に旧社保庁が解体するとともに、医療法人として民営化した。

普通の健診施設から先駆的な変身を遂げたそもそものきっかけは、社保庁時代に行った改装だったという。あるレストランの内装にヒントを得て、健診フロアを現在のスタイルに。独立後も改装を重ね、サービスを充実させていった。

「これからは『診てもらう』受け身の健診でなく、お客様が自由に選ぶ時代が来る」。経営陣にはそんな確信があった。「そのためにはセンターで過ごしていただく時間の満足度をどう高めていくかが大事と考えた」と高月渉広報室長は語る。

「病気の方は患者という立場で通院されますが、健診に来られるのは大半が健康体の『お客様』なのです。だからこそサービスを重視したい。スタッフには診察室はホテルの客室と一緒だと伝えています」(同)。病院と意識が大きく違う点は接客だろう。ANAグループによる接遇研修を医療スタッフ含め社員全員に行うほか、施設オペレーションの協業も進めている。

またサービスの視点は健診時だけにとどまらず、たとえばアフターフォローでは、メタボ健診の保健指導が必要な人のために、保健師、管理栄養士が常駐。食事や運動など生活習慣のアドバイスが個別に受けられる。都内の複数の有名大学病院や専門病院と提携し専門外来を開設、必要に応じて提携病院への紹介状が出ることも、受診者にとって魅力の一つだ。

ただ充実したサービスにもかかわらず、鶯谷健診センターでは必ずしも「アッパークラスを狙っているわけではない」という。「良心的な価格で満足できる検査」を使命としつつ、ここまでの差別化を行うのは、今後健診施設も淘汰の時代が来る、というシビアな眼差しゆえだ。

増え続ける医療費の削減のため、国は現在、大病院は高度医療、地域の診療所はかかりつけ、と医療機関の役割分担を進める。先進的な設備を備えた健診施設がその振り分け役を担い、検査の充実で病気の予防・早期発見に貢献すれば、さらなる医療費削減につながるはずだ。特に主婦層などの健診受診率はまだ低め。受診率アップのためにも、期待される役割は大きい。

快適な健診フロアから、日本の医療の新たな最前線が見えてくる。

   

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