安倍政権に立ち向かう 「闘う女性」が必要だ!

山尾 志桜里 氏
民進党政調会長

2016年7月号 POLITICS [インタビュー]
聞き手/本誌編集長 宮嶋巌

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山尾 志桜里

山尾 志桜里(やまお しおり)

民進党政調会長

1974年生まれ。初代アニーとしてミュージカル主演(当時12歳)。99年東大法卒。02年司法試験合格、04年検察官任官。09年衆院初当選(愛知7区)。12年の総選挙で落選したが、14年雪辱(当選2回)。安倍首相に一歩も引かぬ国会論戦が話題を呼び、民進党の初代政調会長に抜擢。

――参院選の公約として、安倍首相は消費税増税の再延期を表明しました。

山尾 首相は伊勢志摩サミットで何度もリーマン・ショックに触れ、増税先送りの理由にしようとした。各国のリーダーが、議長国である日本の首相に敬意を払っているのを逆手にとって、アベノミクスの失敗を糊塗し、世界経済に責任転嫁したのは大変に恥ずかしいこと。我が国の品位を傷つけ、国益を損ねました。

――さらに、首相は「アベノミクスを最大限にふかす」と宣言しました。

山尾 3年半もふかし続けたのに個人消費は伸びず、格差が拡大した。その行き詰まりは明らかなのに、これ以上ふかして、この国はどこに行くのか――。アベノミクスの根っこが問われています。

女性活躍どころか「男尊女卑政権」

――国会での首相との論戦が話題を呼び、「総理の天敵」と囃(はや)されました。

山尾 初めて総理に質問したのは1月13日の衆院予算委員会。「アベノミクスで景気がよくなり妻が働き始めたら月に25万円」という首相の発言は、庶民感覚とズレていると批判したら「本質を見ない枝葉末節の議論だ」「こんなことでは民主党の支持率は上がらないと心配になる」と一蹴されました。「政治は男性のもの」というホンネがぎらつき、「女性は軽く見られている」と感じました。

――一方、「男尊女卑政権」とか、パフォーマンス過剰との批判もあります。

山尾 5月16日の衆院予算委員会で、塩崎厚労相はベテラン保育士の待遇改善の賃上げ目標を「月額4万円にする」と発言し、総理も追認しました。保育士の賃金は、男女合わせた全職種の平均賃金より11万円も低いのに、女性に限定すると賃金差が4万円に縮まるため、政府としては達成しやすい目標にしたのです。

そもそも保育士の賃金がとても安いのは、保育は女性の仕事という固定観念があるからです。しかし、保育は女性だけの仕事ではない。男女の賃金格差を悪用して、低い女性の平均賃金を目くらましに使う政府・与党に怒りがこみ上げてきました。私はふだん男尊女卑なんて言葉を使ったことがなく、咄嗟に飛び出した文句でしたから、それをパフォーマンスと言われるのは心外です。情けなかったのは、私の怒りが安倍総理と居並ぶ各大臣に全く伝わらなかったことです。

――政治家だけでなく、実はメディアにもまっすぐ伝わらなかったのでは?

山尾 残念ながら、その通りです。この半年間、国会で総理と5度対峙して痛感したことは、安倍政権は「人権に鈍感、女性に鈍感」ということでした。

〈保育園落ちた日本死ね!!!〉ブログを取り上げた時は、総理から「山尾さん、空振りしていますよ」と言われ、「国会運営を少し勉強してほしい」「ただ単に相手を罵ったり、誹謗中傷する話ではない。地に足のついた議論をすべきだ」などと、上から目線で言われたこともあります。一方、猛烈なやじを浴びる私の隣で「4万円なんて絶対おかしい、あり得ない!」と、一歩も引くなと励ましてくれたのは、同僚議員の西村智奈美さんでした。民進党の衆参女性議員は目下18人しかいません。「闘う女性」がもっと必要だというのが、私のホンネです。

――女性議員を増やす「クオータ制」導入の議論をリードしていますね。

山尾 超党派の議員連盟に加わり、比例代表候補者名簿を男女別に分けて交互に当選者を決める仕組みなどを提案しました。思い切った「クオータ制」を民進党の重点政策に盛り込みます。現在、衆院の女性割合は9・5%。女性参政権が実現した70年前の衆院の8.4%とほとんど変わらない。「クオータ制」は100国以上が既に導入しており、その理念は男女同数です。国会議員の半分が女性になったら、世の中は変わりますよ。

「ホームレス殺人事件」が原点

――なぜ、国会議員になったのですか。

山尾 名古屋地検時代に岡崎市で発生したホームレス殺人事件の公判検事をしたのがきっかけです。河原で野宿していた60代の女性を、20代の男性と中学生3人が殺害した事件で、私は通勤途中で河原の青いテントを目にしていた。あの中学生たちを犯罪に走らせ、高齢女性が困窮するような社会を放置できないと思うようになり、民主党の公募に手を挙げました。自民党はよく自己責任と言うけれど、そんなに人は強くない。弱い人、貧しい人ほど社会の片隅に追いやられ、世の不条理を背負うことになる。検事として向き合った事件が、私の原点なんです。

――理想とする政治家はいますか。

山尾 理想像とかないです。でも、尊敬できるのは「反軍演説」の斎藤隆夫。「吾が言は即ち是れ万人の声」は、心に残る名言です。どんな立場になっても長いものに巻かれぬ反骨精神を持ち続けたい。

――ライバルは? 当選同期の小泉進次郎さんとか、玉木雄一郎さんとか……。

山尾 そもそもライバルとかピラミッド型の競争文化がピンと来ない。皆で役割をシェアすればいい。いずれ民進党も若手の層が厚くなる。最初に抜擢された私が成功例にならないと、後に続く皆さんに申し訳ないと思います。

――ゆくゆくは総理を目指しますか。

山尾 全然ない。皆が地位や権力を目指すから、この国の政治はよくならない。総理は時代が決める。私は自分の器に合った役割を全うできたら、それでいい。

――自民党は公明党の下駄を履いて政権を維持してきた。民進党も「赤い鼻緒の下駄」を履いたらどうですか(笑)。

山尾 確かに下駄を履いて政権を担う自民党から野合批判を受ける謂(いわ)れはない。与党が自公vs民共を叫ぶのは、参院選1人区の統一候補をよほど恐れているから。自公の嫌がることをやればいい。

私は検事時代、ご遺族の涙を背負って法廷に立ちました。もの言えぬ人のために闘うのが政治家です。保育制度の充実を求める署名は瞬く間に2万7千人も集まり、赤ちゃんを抱えたママたちが国会に駆け付けてくれました。総理に論戦を挑む時は一歩も怯(ひる)まぬ覚悟です。声なき声を背負って権力と闘う政治家であり続けたい。

   

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