難工事に立ち向かう廃炉作業員を称えよ

高木 陽介 氏 氏
原子力災害現地対策本部長経済産業副大臣・内閣府副大臣

2016年6月号 BUSINESS [インタビュー]
聞き手/本誌編集長 宮嶋巌

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高木 陽介 氏

高木 陽介 氏(たかぎ ようすけ)

原子力災害現地対策本部長経済産業副大臣・内閣府副大臣

1959年東京生まれ。創価大学法学部卒業。毎日新聞の記者を経て、93年に33歳の若さで衆院初当選(東京比例区・当選7回)。国土交通大臣政務官、衆院総務委員長などを歴任。当選同期の安倍首相と親しく、信任が厚い。14年9月より現職。

写真/平尾秀明

――原子力災害現地対策本部長として、毎週のように福島を訪れていますね。

高木 本部長を拝命以来、1年8カ月間に83回、137日間、福島に入り、1F(福島第1原発)を8回視察しました。 今1Fでは、建屋から燃料を取り出し、解体していく「廃炉」に取り組んでいます。世界で誰も経験したことがない事故の現場で、作業は30~40年も続きます。

――政府が示す「廃炉までのロードマップ」を不安視する声もあります。

高木 事故から2年余りの1Fは、さながら「野戦病院」の有り様で、続発するトラブルの火消しに追われていました。3年目の冬(2014年12月)に4号機の使用済み燃料1533本の取り出しをやり遂げ、15年5月にはタンクに貯めてきた高濃度汚染水の浄化処理を完了し、廃炉作業は緒に就きました。今では除染や敷地舗装などにより放射線量が下がり、構内の9割以上のエリアで全面マスクの着用が不要です。作業環境が格段によくなっていることを知ってもらいたい。

「現場の勇者を励まして下さい!」

――事故から5年の節目に総理が1F作業員を表彰する制度を作りましたね。

高木 早朝6時に開かれる朝礼で挨拶し、作業員の皆さんと親しく語り合う機会が、何度かありました。人類史上例のない過酷な現場と向き合う彼らの士気は高く、「オレたちがやらずに誰がやる」という古里復興の思いが伝わってきました。1Fで働く作業員は1日平均7千人、そのうち半分は地元福島の出身です。そのことを総理にお伝えし、「現場の勇者を励まして下さい!」とお願いしました。

高線量下での汚染水除去と配管トレンチ閉塞作業

――4月10日の「福島第一廃炉国際フォーラム」で、安倍総理名の感謝状が鹿島建設と協力会社のカジマ・リノベイトの作業チームに授与されました。

高木 原子炉建屋の海水配管トレンチ(地下トンネル)内に滞留する高濃度汚染水は、再び津波に襲われた場合、海洋流出に直結するため、汚染水除去とトレンチ閉塞が緊急課題になっていました。

作業チームは悪戦苦闘の末、トレンチ内を最長85mも流動するとともに、水中でも材料分離しないセメント系充填剤を開発し、トレンチ内を充填剤で埋めながら、約1万1千tの汚染水を抜き取る閉塞工事を成功させました。いつもは厳しい原子力規制委員会も「リスク低減に大きく貢献した」と称賛する快挙でした。

空間線量が毎時0.5~5mSvという高線量下での難工事であり、遮蔽の工夫により作業員の被曝を下げ、無事故・無災害でやり遂げたとはいえ、年間30mSvに及ぶ被曝をした方もいました。

内閣総理大臣が現場の作業員を称えるのは異例のことであり、私が嬉しかったのは4月14日、作業チームの皆さん37人を首相官邸に招き、総理自ら6kgもある遮蔽材のタングステンベストを身に着け、「これは重い」と声を挙げ、一人ひとりと握手をしながら激励してくれたことです。

――次点の日立GEニュークリア・エナジーと協力会社の根本機工、木村管工の作業チームは経産大臣表彰を受けました。

高木 形状が変化するヘビ型ロボットをつくり、毎時10 Svという過酷な環境を克服し、初めて原子炉格納容器内でのロボット調査を成功させた。高線量でのロボット投入作業は、1回の作業が20~30分に限られるため、複数の班を編成し、工場で訓練を繰り返し、作業員全員の高度な技量とチームワークが奏功しました。

この他、1F港湾海底土被覆工事をやり遂げた五洋・東亜共同企業体と協力企業の五栄土木、大新土木の作業チームと、高濃度に汚染されたタンクの解体工事を無事故で成功させた大成建設と協力会社の東洋ユニオン、高橋建設の作業チームには、私から感謝状を差し上げました。

廃炉・汚染水対策で脚光を浴びる元請企業だけでなく、縁の下の隠れた下請企業にも光を当て、その功績を称える表彰制度は、これからも続けていきます。初の総理表彰に輝いたトレンチ閉塞工事に従事した協力企業は34社、作業員は207人に上ります。首相官邸を訪ねた作業員の皆さんは、その代表者なのです。

メディアは1Fのトラブルや汚染水漏れを叩くばかりで、現場の苦労を思いやり、作業員を勇気づける報道は滅多に見ません。現場の士気が落ちたら元も子もないのに、どうかしていませんか。

最前線で汗流す前経産事務次官

――避難指示区域の解除と古里への帰還に向けた取り組みはいかがですか。

高木 昨年9月、全住民が避難した自治体として初めて楢葉町の避難指示が解除され、福島県全体の避難者はピーク時の約16.4万人から約9.5万人になりました。この夏までに川内村、南相馬市、川俣町、葛尾村の避難指示が解かれたら、約1万5千人が帰れるようになります。

飯舘村、富岡町、浪江町の帰還に向けた環境整備も進んでおり、来年3月の避難指示解除を目指しています。町の96%が帰還困難区域になっている大熊町と双葉町については、安倍総理が今年の夏までに国の考え方を示すと仰っています。

――しかし、全町避難が解かれた楢葉町は住民の6%しか帰還していません。

高木 除染、医療環境の整備、買い物環境の充実と並んで営農再開、商工業の自立支援、古里で働く場の確保が急務です。昨年8月、「福島相双復興官民合同チーム」を創設し、総勢179人が福島、郡山、いわきと都内の4拠点に常駐し、2人1組の50チームが約8千の被災事業者の個別訪問を開始し、約3600件の事業者からお話を伺うことができました。結果、地元での事業再開・継続を望む方が43%おられることが分かり、そのご要望をもとに被災12市町村の事業者向けの自立支援策(予算措置241億円)を作り、再び個別訪問し、支援を加速させます。

官民合同チームの事務所には「とことん支援する」「聞き役に徹する」「地域の復興への高い志を持つ」……という五箇条が掲げられており、ナンバー2の副チーム長には、前経産事務次官の立岡恒良さんを起用しました。「原発事故を招いた経産省の責任は重く、一にも二にも福島復興だ」と仰る菅官房長官と相談して、立岡さんに白羽の矢を立てました。前事務次官が最前線で汗を流す姿が、経産省全体の士気を高めることにもなるのです。

安倍総理と経済産業省から感謝状を授与された「1Fの勇者」たち

   

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