「借金を返さない!」袋小路の「無倒産」時代

藤森 徹 氏
帝国データバンク東京支社情報部長

2016年4月号 BUSINESS [インタビュー]
聞き手/編集委員 和田紀央

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藤森 徹

藤森 徹(ふじもり とおる)

帝国データバンク東京支社情報部長

1963年生まれ。関西大学卒業。92年帝国データバンク入社。06年福岡支店情報部長を経て10年より現職。バブル崩壊後の数多の企業破綻の現場を見続けたエキスパート。

――企業倒産が減っています。

藤森 2015年の倒産件数は8517件となり、2年連続で1万件を割り込みました。リーマンショック直後の09年の1万3306件から6年連続で減少し、4割近く減っています。しかし、注目すべきは倒産件数より負債総額です。08年の約11兆9千億円から15年は約2兆円へ、負債総額が約6分の1に激減しました。ちなみに過去最大級の負債総額は、そごうや第一ホテルが倒産した00年の21兆8千億円であり、当社の半世紀に及ぶ全国倒産企業分析を振り返っても、負債総額が1兆8600億円だった14年以来、日本経済は実質的な「無倒産状況」になっているのです。

――法人全体の99%を占める中小企業の大半が赤字なのに倒産しないのはなぜですか。

藤森 一つはアベノミクスの金融・財政政策が「カンフル剤」として効いています。円安誘導によって自動車関連を中心とする輸出企業の業績が回復し、震災復興・国土強靭化の公共工事で建設業は潤っています。

もう一つは09年に導入された中小企業金融円滑化法のおかげです。銀行が返済条件の変更に応じ(リスケジュール)、中小企業の借金を棚上げする同法は13年に終了したことになっていますが、現在も実質破綻先で「暫定リスケ」と呼ばれる移行措置が続いており、全国で約40万社が金融モラトリアムの中にある。

――モラルハザードですね。

藤森 おそらく40万社の1割は金利さえ払えず、6~8割は元本返済のメドが立たない。昨今の中小企業は借金取りに追われて倒産することがなくなった。誤解を恐れずに言えば「中小企業は借金を返さなくてもよくなった」ということです。

昨年、5億円以上の負債を抱えて倒産した企業はわずか55‌0社(全体の6.5%)でした。一方、負債5千万円未満の倒産は4802件とほぼ半数を占めています。億円単位の負債が当たり前だったかつての倒産観からすると、都内の住宅ローン並みの負債で果たして倒産と呼べるのか、疑問ですね。昨年も1千億円を超える倒産が数件ありましたが、不祥事やトラブルが引き金となっており、世間を騒がせる大型倒産は滅多にお目にかかれなくなりました。

――マイナス金利の影響は?

藤森 すでに金融・財政政策のカンフル剤が効きすぎており、これ以上金利を下げても、企業が設備投資を増やす状況にはありません。昨年4月、OECDが「日本政府の中小企業支援は手厚すぎる。本来生き残れないゾンビ企業を温存している」と指摘したが、確かに先進諸国の中で倒産が激減しているのは日本だけで、国内産業の新陳代謝が遅れています。優勝劣敗は競争市場の摂理であり、「企業を倒産させない国策」には、そもそも無理があります。とはいえ、今年は参院選イヤーで、倒産件数の減少をアベノミクスの成果と喧伝する政権が中小企業支援を手控えることはない。むしろ消費増税の再延期や景気刺激策を打ち出す可能性が高い。過去に例のない無倒産状況がしばらく続くでしょう。

   

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