編集後記

2015年5月号 連載
by 宮

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Jヴィレッジから常磐線いわき駅まで片道9千円。地元のタクシー運転手は浮かれていた。「震災前は倒産と失業のどん底でした。売上が1万円に満たない日もあったが、今は2万円以上楽に稼げます。坪8万の土地が20万円に跳ね上がり、さすがに誰も買わなくなった」

3月18日発表の公示地価(1月1日時点)で、原発事故の避難者(約2万4千人)が移り住むいわき市の住宅地の値上がりは7.4%と群を抜き、全国2万3千調査地点の上昇率1位(いわき市泉もえぎ台17・1%)から10位まで同市内が独占した。住宅地の全国平均は0・4%の下落だから、過去に例のない局地バブルである。

原賠審に基づく試算では、帰還困難区域の4人世帯(夫婦と子供2人、夫は30代サラリーマン)への賠償額は1億1千万円。震災から4年がすぎ、帰還を諦めた家族が、古里に近くて便利ないわきに家を建てる「特需」が、市中心部から遠く離れた片田舎にまで広がっている。

地元の不動産経営者は「住宅ブームは今がピークですが、いわきには全国から原発・除染関連の業者が集まり、作業員数千人が移住しています。『廃炉特需』は半世紀どころか、半永久になくならない」と、先を読む。

「今、いわきで繁盛するのは一に病院、二にホテル、三にコンビニ、呑み屋、パチンコ……。毎週のようにいわき駅前は復興イベントで賑わっているし、空き家だらけだった夜の盛り場には、外国人女性の客引きが鈴なりです。震災と原発事故のダブル特需で街中が潤っているのです。だから総選挙で被災者の窮状を訴える声はなく、とにかく復興です。復興を叫んでいれば地元の懐は痛みませんから。日本は豊かな国だと思います。数十年後、いわきは衰退する過疎地域の中で唯一人口が増え、お金のある県庁所在地になっていると思います」

   

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