「南海トラフ地震」はいつ来るか

地震学の権威、尾池元京大総長は「2038年」と断ずるが、「もっと早まる」と心の備えが肝要だ。

2015年5月号 LIFE

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近い将来、やって来る南海トラフ巨大地震――。政府は立て続けに、救助や物資輸送などの救援計画を発表した。南海トラフ地震は、10県(静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、高知、宮崎など)に未曽有の被害を及ぼす。津波は高知県黒潮町で最高34.4m、各地で20mを超え、被害は全国で最大約32万人の死者発生が予測される。文字通り「西日本大震災」となるだろう。この近未来に起こる自然現象は、いつ発生するのか。

今後30年以内に必ず発生

地震学の権威、尾池和夫・元京都大学総長の話題の書

4年前の東日本大震災以来、関東以西の西南日本では依然として地殻歪みが年々蓄積している。その歪みを一気に解消させるのが南海トラフ地震のメカニズムだから、この先、いつ発生しても、何ら不思議はない。

過去に繰り返された南海トラフ地震を図に示したのでご覧いただきたい。震源域は、ある時は駿河湾から遠州灘・熊野灘・四国沖まで連動、ある時は各震源が単独で地震を起こすなど、様々なかたちをとっており、発生頻度はほぼ100年に1回である。東大助手だった石橋克彦・神戸大学名誉教授が1976年に、南海トラフ地震の一部(駿河湾・遠州灘)である東海地震の発生を予測し、国を挙げて地震対策を始めた。当時、地震は「明日発生しても不思議でない」と騒がれたが、何も起こらず、すでに39年が経過した。一方、この間に地震の基礎研究は大きく進み、南海トラフ地震について様々な視点から考察が行われた。現時点での地震学者の見解をまとめてみよう。

①東海地震は単独で発生せず、隣の震源域と連動する可能性がある。連動というのは、必ずしも同時発生とは限らない。あるエリアで地震が起き、その翌日、翌年、2年後に隣接する震源域で地震が起こる時間差発生があり得る。事実、安政地震(1854年)は東海・東南海エリアで地震が起き、その翌日に南海エリアで地震が発生した。昭和時代に起きた東南海地震(1944年)と南海地震(1946年)は2年差だった。地震が分割発生する場合、どのエリアから起こるかはわからない。この時間差発生は深刻な問題を生む。ある地域で地震が発生すると、隣接地域の住民は「次はこちらの番か、いつ来るのか」と、不安をかきたてられるからだ。

②宝永地震(1707年)は最近の研究によれば、従来考えられていたよりずっと大きな地震であり、次の南海トラフ地震は宝永型になる可能性が高いという。さらに、ほぼ100年間隔で発生する南海トラフ地震のうち、3回に1回は国内最大級の地震が発生していたことがわかってきた。正平地震(1361年)と宝永地震がそれであり、その発生間隔は346年。宝永地震から300年余りを経過した今、次の南海トラフ地震は超弩級の可能性が高い。

③慶長地震(1605年)は揺れが小さいのに大津波が来たことから、プレート境界付近が震源になったアウターライズ地震だったと考えられるようになった。もし、次の南海トラフ地震がこのタイプだと、震源域が沖合にまで広域となり、大津波に襲われる懸念がある。

どのタイプであれ、南海トラフ地震はいつ起こるか。地震学者の見解は幅があるが、今後30年以内に必ず発生すると見ている。東日本大震災を予知・予測ができなかったように、地震発生を「何年何月」と予測することは不可能だが、3・11の経験と研究分析をもとに、地震学者は様々な考察を試みている。

地震学の権威、尾池和夫・元京都大学総長が3月1日、『2038年南海トラフの巨大地震』という著書を出した。活発化する内陸地震の予測研究を通じて南海トラフ地震が2040年頃に起きるとの分析結果を得たこと、さらに地震学者らの見解を集約し、大胆にも「2038年南海トラフ」と書名に刻んだ。

大地動乱の世に想定外なし

しかし、南海トラフ地震の発生は「もっと早まる」と見る学者もいる。日本列島に向かってくるプレートに抵抗する力を東日本大震災が弱めた結果、地震発生が促進されたと見ているのだ。東日本大震災が日本列島の地震発生形態を覆してしまったのは明らかであり、南海トラフ地震の発生は「そう遠くはない」と見るべきだろう。

東日本大震災のひとつ前の貞観地震(869年)が起きた9世紀は「大地動乱の時代」だった。関東で大地震が発生し、18年後には東海・南海が連動した南海トラフ大地震が起きた。このほか日本各地で地震が多発し、富士山、鳥海山などが噴火した。

地震・火山学者は大地動乱の9世紀と今が酷似していると口を揃える。世の人々も日本列島は「大地動乱」の世を迎えたと覚悟したほうがよさそうだ。学者が予想しない事態が生じても不思議はない。「想定外」という言葉が通用しない時代である。

あくまで仮説だが、南海トラフ地震の予測シナリオを立ててみよう。今日現在、南海トラフ地震の兆しはなく、本誌がお手元に届くぐらいは心配無用だ。

が、その先は日本列島の地殻活動次第である。この先数年は、念のため「早めの発生も有り得る」との心の備えが必要だろう。そして東京五輪が終わる頃から「危険水域」、2030年以降は「明日起きても不思議でない」と覚悟すべきだ。そして遅くとも2040年までには地震は終わっているだろう。

東日本大震災は南海トラフ地震の発生を早めただけではない。首都に甚大な被害を及ぼす相模トラフや房総沖の大地震を誘発する恐れもある。首都圏に大被害を与える南関東の大地震と、南海トラフ地震が連鎖的に発生した例があり、非常に気がかりだ。また、遠く離れた内陸の活断層を活発化させることもあり、かつて宝永地震が富士山の噴火を誘発させた例がある。

東日本大震災を起こしたマグニチュード(M)9の影響は計り知れない。海域で巨大地震が発生すると、火山噴火を誘発する。近年、世界各地で起きたM9クラスの地震の影響で大噴火が多発している。

今、原発の再稼働や東京五輪の開催計画に、万全の地震・火山噴火対策を組み込んでおくことが喫緊の課題である。

   

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