「東電任せ」の汚名返上 「二つの向かい風」と闘う

高木 陽介 氏
原子力災害現地対策本部長経済産業省副大臣・内閣府副大臣

2015年4月号 POLITICS [インタビュー]
聞き手/本誌編集人 宮嶋巌

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高木 陽介

高木 陽介(たかぎ ようすけ)

原子力災害現地対策本部長経済産業省副大臣・内閣府副大臣

1959年東京都出身。創価大法学部卒。毎日新聞の記者を経て、33歳の若さで公明党から衆院初当選(東京比例区・当選7回)。国土交通大臣政務官、党選対委員長、衆院総務委員長などを歴任。初当選同期の安倍総理と親しく、信任が厚い。昨年9月より現職。

――遂に常磐道が全線開通しました。

高木 避難生活を強いられる皆さんは約12万人。浜通りが高速道路網に組み込まれたことで「古里が近くなった」と喜んでもらえました。企業立地にも弾みがつき、救急医療態勢も向上します。「復興の大動脈」の完成を祝う石碑に刻まれた言葉は、道元禅師の「思い切なれば必ず遂(と)ぐるなり」。目頭が熱くなりました。

――一方で、福島第一原発で汚染水が漏れ、地元の信頼を裏切っています。

高木 現地対策本部長として、1F全体のリスクを下げる抜本策を講じてきましたが、被災された住民や国民の視点に立った情報提供が足りませんでした。東電には現場のリスクを網羅的に総点検し、現状に見合った対策を示すこと、そして何より情報公開の徹底を指示しました。「原因を調査してから公開するつもりだった」とは、二度と言わせません。

――東電は取締役会で環境に影響を及ぼす大気や水の放射線データを、原則として全て公開することを決議しましたが、信頼回復は容易じゃないですね。

高木 1Fのリスク総点検については「東電任せ」にせず、私たち国の廃炉・汚染水対策チーム事務局が主体的に関与し、速やかに結果を公表していきます。

夜明けの1Fで作業員と向き合う

――現地対策本部長に就任以来、福島の被災地を頻繁に訪ねていますね。

高木 週2回のペースで四十数回になりました。被災地は今、「二つの風」と闘っています。「風化」と「風評被害」という向かい風です。汚染水が外洋に漏れたと不安を掻き立てる報道ばかりですが、1Fの港湾外(海水)の放射線濃度は告示濃度限度に比べて十分に低く、廃炉・汚染水対策は着実に進んでいます。昨年12月には4号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しを完了し、2月に来日したIAEA調査団から「(1Fの状況は)大きく改善した」とお墨付きを貰いましたが、この朗報はほとんど報じられませんでした。大震災から4年が過ぎ、メディアは被災地から遠ざかり、全国版の新聞、テレビが取り上げるのは1Fの事故や不祥事ばかりです。被災地の風化が進む一方で、ネガティブ報道による風評被害が増幅しているのです。私は廃炉・汚染水対策の進捗状況が正確に伝わるように、東電に簡明なビデオの作成を命じ、議長を務める福島評議会(県市町村、商工会、農協、漁協などがメンバー)などを活用して、ポジティブで正確な情報発信に取り組んでいます。何としても「二つの向かい風」を克服したい。

――夜明けの1Fに行くそうですね。

高木 1月に死亡事故が続発し、現場の士気低下が心配です。朝6時半から元請け、下請け企業の現場の皆さんと、朝礼で向き合うことにしました。

――作業員に朝礼とは前代未聞です。

高木 1Fで働く皆さんは1日平均約7千人。被曝による健康被害や事故を心配したり、世間の目の冷たさを感じている人が少なくありません。1Fの廃炉対応は、今後40年続く国家的プロジェクトであり、世界にも前例のない困難な事業です。1Fの作業員は世界が注目する廃炉の先駆者であり、褒め称えられるべき存在ですから、プライドを持って仕事を続けてくださいと、激励したいのです。

――「国が前面に立つ」と仰るが、地元はまだ不安を抱いています。

高木 私は12代目の現地対策本部長ですが、民主党時代の大震災発生から半年間に、現地本部長が9人もころころと代わり、何とも心無いことをしました。被災自治体は「国は信用できない」と途方に暮れ、復興は遅れに遅れました。安倍政権発足後、前任の赤羽一嘉本部長が1年9カ月を務めた後、私が引き継ぎました。最近、避難指示区域の解除や中間貯蔵施設の受け入れが進んだのは、国と地元の心が一つになってきたからです。

――民主党が信頼を根こそぎ失ったのは、菅政権の原発事故対応があまりに酷(ひど)かったからです。ところで、東京五輪までにJR常磐線は開通しますか。

高木 安倍総理が太田昭宏国交相に、早期運行再開を検討するよう命じました。昨年11月に「JR常磐線復旧促進協議会」が発足しており、国を挙げて段階的な開通を目指します。また、内堀雅雄知事は、東京五輪・パラリンピックの一部種目の県内開催を要望しており、もし野球やソフトボールが追加競技になったら、その夢は一気に広がりそうです。

楢葉町に廃炉ロボットの開発拠点

――復興には企業誘致が欠かせません。

高木 常磐道の全線開通によって、昨年6月に赤羽前本部長が打ち出した「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」にも弾みがつきます。

――どんな構想ですか?

高木 廃炉の研究開発拠点、ロボットの研究・実証拠点、国際的な産学連携拠点の整備を柱に、これらを支える「まちづくり」を含んだ広範な構想です。地元の期待は大きなものがあり、その一部はすでに具体化しています。例えば、廃炉のためのロボットの開発・実証試験を実施する「モックアップ試験設備」は、昨年秋に楢葉町で起工式を行い、今年中にも実寸大の格納容器を模した試験施設が完成します。世界の研究者がここに集まり、廃炉ロボット開発・実証拠点になるでしょう。この構想の主要プロジェクトについては個別検討会を立ち上げ、その実現に向けた方策を話し合うため、国、県、地元市町村等からなるイノベーション・コースト構想推進会議を設置しました。私は、その座長を務めています。

――1Fの近くはどうなりますか。

高木 大熊町や双葉町は帰還困難区域が多いけれど、地域の将来像の検討やイノベーション・コースト構想の具体化、復興拠点の整備など、地元と心を合わせて取り組んでいます。被災地を訪ねながら、古里を奪われた人々の嘆き、苦しみ、何とか立ち上がろうとする一人ひとりの思いを受け止めることが、政治家の仕事だと肝に銘じています。経産省の責任は非常に重く、その副大臣として若い人たちに夢を与えられるよう、国を挙げて浜通りに多くの企業を誘致したいと思います。

   

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