「水素社会」の幕開け トヨタ燃料電池車の魅力

水素と酸素を化学反応させて電気をつくる燃料電池で走る「究極のエコカー」が遂に登場。1千万円を切る新型セダンがあなたの手に!

2014年4月号 INFORMATION
取材・構成/編集部 和田紀央

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「東京モーターショー2013」で披露した「TOYOTA FCV Concept」

とよたエコフルタウン(愛知県豊田市)で運用される水素ステーション

燃料電池は、水素と空気中の酸素との化学反応で発電し、しかも排出物は水だけという「夢の動力源」――。ハイブリッド技術をコアテクノロジーとして、環境技術戦略の先頭を走るトヨタが、遂にセダンタイプの新型FCV(燃料電池車)を、一般ユーザー向けに2015年に販売することを決定、昨年11月に開催された「東京モーターショー」で、そのコンセプトカー「TOYOTA FCV Concept」を披露した。セダンタイプの専用ボディに、小型・軽量化に成功した「新型FCスタック」(燃料電池)や「高圧水素タンク」が搭載され、トヨタならではの先進技術を駆使した「夢のクルマ」のできばえに、来場者の熱い視線が注がれた。

トヨタの環境技術戦略は「省エネ」「燃料多様化」「普及してこそ貢献」がキーコンセプト。水素は、環境にやさしく、さまざまな原料からつくることができるエネルギー。早くから水素に着目したトヨタは、1992年に燃料電池車の開発をスタート。「サステナブル・モビリティ」実現に向けた理想的なクルマの早期普及を目指し、世界に先駆け02年から燃料電池車を日米で限定発売するなど、確固たる実績をつくってきた。

ガソリン車と同じ使い勝手のよさ

01年から燃料電池車の公道走行を開始し、05年には燃料電池車として日本で初めて国土交通省の型式承認を獲得。08年には1回の水素補充で走れる距離を大きく伸ばし、マイナス30度の低温でも始動・走行できる車両開発に成功した。

トヨタ広報部企画室の中井久志担当部長は「水素は天然ガス、石油、石炭からはもちろん、自然エネルギー(太陽光や風力による発電)で水を分解しても作ることができるから、その将来性は無尽蔵です。心臓部の燃料電池の耐久性向上、システム全体としてのコストダウンにより、1千万円を切る値段で販売するメドが立ちました」と胸をはる。

現在「トヨタFCHV-adv」を20台ほどリース販売しているが、来年販売するのは4人乗り新型セダンになる。中井さんは「モーター駆動車らしい滑らかな走りと静粛感は電気自動車と変わらない魅力ですが、燃料電池車が優れているのは、ガソリン車と同じように乗り回せることです」という。

電気自動車は、電池の出力密度が低いため航続距離が100キロ程度に制約され、急速充電でも30分間程度を要するため一般向けの普及が進まない。一方、燃料電池車の1回の水素充塡は約3分間、満タンにすれば500~700キロ走れるため、ガソリン車と同じ使い勝手のよさが魅力なのだ。

安倍首相の「成長戦略」が追い風に

トヨタは「大切な技術は自分たちで」という基本方針のもと、世界トップレベルの性能を誇る燃料電池スタックの自社開発に成功した。「水素を利用した燃料電池の大きな特長は、エネルギー効率の良さです。水素を燃やすことなく直接的に電気を取り出せるため、理論的には水素の持つエネルギーの83%を電気エネルギーに変えることができ、ガソリンエネルギーと比較すると、現時点では、およそ2倍以上の効率を誇ります」(中井さん)。

高圧水素タンクも材料や製造工程の見直しによって、「トヨタFCHV-adv」では4本だった本数を2本に減らし、コスト削減と十分な室内空間を同時に実現した。クルマ好きのあなたなら、1日も早くハンドルを握ってみたくなるはずだ。

とはいえ一般向け販売が始まるトヨタの新型FCVには、課題もある。まずは、更なるコストダウンだ。従来の燃料電池車のシステムコストは1台1億円だったが、FCスタックや水素タンクなどのシステム全体で20分の1程度まで低減した。「最も高価な白金(Pt)の使用量を3分の1くらいに減らし、車両価格は1千万円を切るレベルにきましたが、もっと下げていきたい」(中井さん)。

もう一つは、水素供給インフラの整備である。「燃料電池車と水素を充塡するステーションはペア。水素ステーションがなければ燃料電池車は普及せず、燃料電池車がなければ水素ステーションもできません。その同時スタートには、官民一体の取り組みが必要です。イニシャルコストが膨大だから、政策面の後押しがなければ水素社会は実現しません」(中井さん)

このため、ガスや石油会社などのエネルギー専業と自動車産業が連携し、15年に100カ所の水素ステーションを整備する計画が進んでいる。昨年6月に、安倍首相が打ち出した成長戦略(日本再興戦略)の中で、燃料電池車や水素ステーションの「世界最速」の普及が謳われるなど、追い風が吹いている。すでに神奈川県海老名市などで、ガソリンスタンドと併設型の水素ステーションが先行整備されるなど、着々と準備が進んでいる。

新型FCVの発売は、インフラ整備が進む4大都市圏(首都圏、中京圏、関西圏、福岡圏)から。「究極のエコカー」登場は、水素社会の幕開けでもある。

   

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