「脱原発」を経済界から実践重ね、大きな力に

鈴木 悌介 氏
エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 代表理事/鈴廣かまぼこグループ副社長

2014年3月号 DEEP [インタビュー]
インタビュアー 岩村宏水

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鈴木 悌介

鈴木 悌介(すずき ていすけ)

エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 代表理事/鈴廣かまぼこグループ副社長

1955年神奈川県小田原市生まれ。77年上智大学経済学部卒。81年に渡米して企業の創業や経営に携わった後、91年に帰国。家業の経営に加わり現在に至る。2003年日本商工会議所青年部会長。13年11月小田原箱根商工会議所会頭に就任。

――経済界は「原発推進」のイメージが強いですが、経営者の立場から「脱原発」を訴えておられますね。

鈴木 ひとことに経済界と言っても、大企業もあれば中小企業もあります。業界や地方、そして経営者の個性もさまざま。「経済人はみんながみんな原発推進」なんて不自然でしょう。

エネルギーは、日本という国の将来のあり方を左右する大変重要な課題です。それなのに、経済界から原発を支持する声しか出てこなかったら、真っ当な議論にはなりません。

「原発は止めるべきだ」とか「できるだけ頼りたくない」と心の中で思っている経営者は、私を含めてたくさんいます。でも、私たちはエネルギーの専門家ではないし、特に中小企業のトップは日々の経営で精一杯でエネルギーのことまで深く考える余裕がない。原発を再稼働しなければ「電力が足りなくなる」「電気代が上がる」などと聞かされると、「仕方ないのかな」と諦めてしまうケースが多いんです。

――それで推進の声ばかり目立つと。

鈴木 だからこそ、経済界にも違う意見があることをもっと世の中に伝える必要があります。そこで2012年3月、全国の約120人の仲間とともに「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)を立ち上げました。現在は約300人に増え、盛んに活動しています。

真っ当でない原発の仕組み

――経営者の視点で見て、原発のどこに問題を感じますか。

鈴木 当たり前の商売の原則が守られていないことです。原発を運転すると、使用済み核燃料という名の廃棄物が出て、安全な場所で10万年も保管しなければならない。しかし、使用済み核燃料の最終処分の見通しはまったく立っていません。普通の企業なら、工場から出る廃棄物を処理できないのに操業許可が下りるなんてあり得ない。

ひとたび大事故が起きれば、どれほど甚大な被害が生じるか、私たちは福島原発事故で目の当たりにしました。原発には被災者への賠償を含む莫大な損害をカバーできる保険がかかっていません。そんなリスクを引き受けられる保険会社は存在しないからです。

にもかかわらず、福島事故まで40年以上にわたって原発の運転が認められ、今また再稼働しようとしています。エネ経会議のメンバーには、原発の即時廃止を求める声や、徐々に減らすソフトランディングなどさまざまな意見があります。しかし「今までの仕組みは真っ当ではない」という点では、全員の考えが一致しています。

――メンバーはどんな活動を。

鈴木 エネ経会議は原発に反対するための組織ではありません。経営者の集まりとして、市民運動とは違った形のアピールができると考えています。先に触れた経済界からの「もうひとつの声」を発信すること。そして、経営上の実践を通じて「新しい現実」を創っていくことです。

具体的には二つの柱があります。一つ目は、各地のメンバーがそれぞれの地域で、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー自給の仕組みを作ること。狙いは、原発に依存していた電力を置き換えることだけではありません。地域の人々がエネルギー問題を自分のこととして受け止め、知恵を出し合って実践することが大切です。それが地域経済の活性化にもつながります。

中小企業はちっぽけな存在ですが、だからこそできることもあります。オーナー企業が多いので、例えば会社の屋上に太陽光パネルを設置する場合、経営者が腹をくくればすぐに実行できる。地域には気心の知れた仲間がおり、「一緒にやろう」「手伝ってくれ」と声をかけやすい面もあります。

私の地元の神奈川県小田原市では、12年末に「ほうとくエネルギー」を立ち上げ、メガソーラーの建設と公共施設の屋根を利用した太陽光発電事業を始めました。出資に応じてくれた24社は、みんな古くからの顔見知りです。中には「鈴木がそこまで言うのなら」と、お金を出してくれた方もいます。地域に根ざした顔の見える信頼関係があればこそだと思います。

省エネで新たな需要創出を

――二つ目の柱は?

鈴木 賢いエネルギーの使い方を学び実践すること。つまり省エネです。

例えば、私の本業はかまぼこ屋なので、工場にたくさんの冷蔵庫があります。最新の冷蔵庫は、10年前に比べると消費電力が半分位。ところが中小企業の経営者には、一度入れた設備はできるだけ長く使うという習い性があり、なかなか買い換えません。その裏には、原発が再稼働したら電気料金が下がるかもしれないという邪心もある。

でも、仮に国が「原発を止める」と決断したら、経営者たちは違うソロバンを弾きます。新しい冷蔵庫に300万円投資し、5年で元を取れるとわかれば一斉に買いますよ。そして需要が高まれば、日本中で省エネビジネスが動き出す。技術革新と量産効果で設備は安くなり、それがまた新たな需要を生む好循環を呼ぶはずです。

――東京都知事選で脱原発を掲げた細川護煕氏や宇都宮健児氏が落選しました。エネ経会議には逆風ですか。

鈴木 地方選挙は、各自治体の色々な課題や政策を有権者が総合的に判断する機会だと思います。今回の都知事選の結果だけをもって脱原発が否定されたとか、民意が再稼働を容認したと解釈するのは論理の飛躍ではないでしょうか。

いずれにしても、エネ経会議がやるべきことは変わりません。エネルギー自給も省エネも、どんなに小さくてもいいから、自分や地域でできることを実践して積み重ねていく。そんな動きが無数に広がれば、やがて日本を変える大きな力になると信じています。

   

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