SBI韓国投資先が騙る「孫の褌」

あわや営業停止の貯蓄銀行から2年で87億円の評価益。国内そっくり益出し手口。

2012年10月号 BUSINESS

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1999年、蜜月だったころの北尾吉孝(右)と孫正義。その残像で現代スイス貯蓄銀行を生き延びさせた

Jiji Press

「これらを実名で申し上げることはできません」

こんな書き出しで始まる内部告発状が、本誌編集部に届いたのはSBI追及を始めて間もなくだった。

編集部には玉石混交の情報が寄せられるが、この情報は至れり尽くせりで、確認用にSBIの公表資料や説明会資料の参照先まで詳細に載っており、その精度は極めて高かった。 

例えば、SBIが複雑に細工した粉飾紛(まが)いの決算に大きくかつ効果的な役割を果たしているサプリメント会社「SBIアラプロモ」(現SBIファーマ)の内情も、内部告発状の冒頭でちゃんと暴かれている。

証券取引等監視委員会(日本版SEC)がいま強い関心を示しているのはこのアラプロモの増資に絡む取引で、金融商品取引法違反(偽計)の疑いが濃いとみている。さすがに監視委を担当する新聞、テレビ各社の社会部記者も、監視委の内偵を察知して、どこからSBIにメスを入れるのかを聞き出そうとしている。監視委幹部は夜回り取材にこう答えた。

「某誌既報どおり」

某誌とは本誌のこと。5月号(「『切り売りSBI』謎の筆頭株主」)、7月号(「SBIが『中間持ち株会社』挟み目隠し」)で、赤字会社アラプロモの時価総額を720億円余とするカラクリを暴いてきたからだ。過去の増資価格5万円の20倍以上の値で行われた増資を東証1部上場のネクシィーズが引き受け、ネクシィーズ子会社で和装着付け教室ハクビの株17%をSBIの投資組合が買っているが、その“バータ
ー”の仕組みも告発状にある。

朝鮮日報の事実誤認

本誌の取材はしかし、この告発状がネタモトではない。すべて独自に分析し、綿密な取材で裏を取った。その結果を横目で告発状と照合する程度だったが、驚くほど一致していた。だから怪文書とは思えない。筆者の正体はおおよそ推測できるが、ここで名は記さない。ただSBI内部の人間、しかも経営幹部でなければ知り得ぬような情報だった。筆者は告発に至った自らの心情をこう綴っている。

現代スイス貯蓄銀行のHP

「これ以上世間の人々が北尾にだまされるのを見るのにたえられません」

その期待に応えよう。これも告発状に先を越されたが、今号はSBIの海外投資の内情を白日のもとにさらす。

設立が1973年という韓国の現代スイス貯蓄銀行。社名に「現代」がついているが、韓国を代表するグローバル企業、現代グループとは何の関係もない非公開企業だ。むしろ、勝手に社名を使われたと現代グループから訴えられている。

HPを見ると、さながら欧米の投資銀行を思わせるほど立派だが、投資銀行でもなければ、普通銀行でもない。日本流に言うなら、消費者金融と信用金庫の機能を併せ持った小口の貯蓄金融機関となろうか。

現在、現代スイス貯蓄銀行は1号から4号までが個別の事業者によって経営されている。韓国の朝鮮日報は5月8日、こんな記事を掲載した。

「金融当局の第三次貯蓄銀行構造調整審査対象に含まれたものの、九死に一生を得た現代スイス貯蓄銀行の経営権が、孫正義社長率いるソフトバンクの系列会社SBIファイナンスに譲渡されると見られる。(中略)金融当局と貯蓄銀行業界によれば、SBIファイナンスは今年上期中、現代スイス貯蓄銀行に有償増資方式で300億~500億ウォンを投資し、最後は経営権を取得する作業を進めていることが分かった」

要約するとこうなる。韓国の金融当局は、貯蓄銀行の不正を調べ構造調整する過程でソロモン、第一、釜山など貯蓄銀行20行を営業停止にした。現代スイスも調べられたが、日本の信用ある“ソフトバンク系投資会社”の支援を条件に処分を免れたというものだ。

サムソンや現代などグローバル企業を抱えながら、国内がグローバル化できない韓国の実情そのままのような記事だが、決定的な事実誤認がある。

現代スイスの1号、2号に投資をしているのはSBIコリアホールディングス、つまりSBIホールディングスの子会社だ。韓国の記者が間違えてもしかたがないのは、現代スイスのHPには、ソフトバンクから投資を受けているかのように書かれているからだ。在日のヒーロー、孫正義の名前は、それだけ信用力があるということだろう。

だが、日本人なら知っている。もはやソフトバンクとSBIグループは別の企業であることを。野村証券にいた北尾吉孝(現SBIホールディングスCEO)が孫にスカウトされ、ソフトバンク常務になったのは95年。負債に汲々としていた孫の資金繰りのため、古巣の野村に新規社債を次々に引き受けさせたころの二人は蜜月だった。

しかしITバブルが崩壊し、孫が通信事業に乗り出したあたりから疎隔が生じ、11年目の05年に北尾はソフトバンクの取締役を退くと、SBIグループを率いて独立した。

北京にいる謎の第三者

「円満離婚」どころか、06年にソフトバンクは持ち合っていたSBIの全株を売却している。韓国ではまだソフトバンクとSBIが混同されているのをいいことに、当局から睨まれて限りなくクロに近いグレーの貯蓄銀行の命綱に「孫の褌(ふんどし)」を使ったということなのだ。

それ以上に驚かされるのが、SBIの11年3月期決算が現代スイス株で評価益14億円を計上、12年3月期決算でも73億円を計上したことだ。

ソフトバンクとの関連を騙っているばかりか、金融当局のみならず検察の捜査対象となっている金融機関が、どうして73億円もの評価益を出せるのか。

カラクリがある。思い出して欲しい、アラプロモを使った手口を。要はあれと同じなのだ。

現代スイスの株式が未上場なのを隠れミノに、その株を第三者に高値で買い取らせ、売買実績とかけ離れた法外な評価をして益出しをする――果たして北尾は海外でも国内同様の手口を使っていることがわかった。

先の告発文は、北尾から現代スイス株を買わされた第三者を示唆している。北京でオークション会社を経営していた人物だ。現在、本誌はその人物に取材を申し込んでいるが、まだ回答がない。(敬称略)

   

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